結婚に必要なのは、お金or愛?

それは、女にとって永遠のテーマである。

“最後は愛が勝つ”と信じたくてもそれは理想論だということに、女たちは徐々に気づいていくのだ。

しかし「お金より愛が勝つ」と言い切る、ある女がいた。

その名は、愛子。

金に目がない女だらけの東京において、愛子は信念を貫き、幸せな結婚生活を勝ちとれるのか?

広告代理店で働く29歳の愛子は、大手通信会社勤務の知樹と結婚を決め、幸せな毎日を過ごしていた。

今回は、同時期に医者との結婚を決めた親友の明日香が、「愛より金」派の持論を展開する。




才能も、資産もない女にだって、人生を一発逆転させる方法がひとつだけある。

それは、結婚だ-。

大学時代から明日香は、自分の生い立ちに引け目を感じていた。ごく一般のサラリーマン家庭に生まれ育ち、埼玉の県立高校を卒業したが、大学はまるで別世界だった。

全ての始まりは、華やかな雰囲気に憧れて入った有名ゴルフサークル。そこには、サークルにかかる高額な費用も苦にならない家庭の子たちが集まっていたのだ。

サークルで最も目立っていた幼稚舎出身の子は、そもそも桁違い。そうでなくても、内部進学組は当然のようにブランド物の時計を身につけていたし、有名私立からの外部受験組ともイマイチ会話が噛み合わない。

かといって地方出身の子は、擦れていない雰囲気に親しみを感じて近づいてみたら、実は親が購入した一等地の分譲マンションに住んでいるなんてケースもザラだ。

そんな中、“親が普通のサラリーマン”という点で共通している友人・愛子には唯一、勝手に親近感を抱いていた。

-愛子だけは私の仲間。毎日せっせとバイトしてるしね。

しかし就職してしばらくすると、状況は大きく変わった。

明日香は広告業界を目指していたが、名の知れた代理店には片っ端から落ち、小さなPR会社に就職した。

一方、明日香が最も入りたかった大手広告代理店に難なく就職した愛子は、生活のレベルが少しずつ、でも確実にあがっていく。

あるとき愛子が、それまで住んでいた東横線沿線のマンションから引っ越しをすると言い出した。

「会社から遠くないところがいいから、やっぱり港区内にするつもり」

にっこり笑う愛子を見たとき、明日香が抱いていた彼女への仲間意識はガラガラと音を立てて崩れていった。


明日香が一発逆転を狙った結婚の相手はどんな男なのか?


明日香は、自分の運命に諦めすら感じていた。

稼ぐ能力があるわけでもなく、裕福な実家という後ろ盾がない女は所詮、平凡な人生を送るしかない。

そんなとき、現在の婚約者・公平と知り合った。

彼への第一印象は、“真面目そうな人”。外見も特に好みではないし、話が面白いわけでもないが、とにかく明日香に一生懸命話しかけてくる。

公平は、順天堂の大学病院に勤務しており、実家は和歌山で病院を経営している。そんな話をぼんやり聞いていたとき、公平の口から出た「開業医」という言葉が、耳元に心地よく響いた。

その時、明日香は気がついてしまったのだ。公平と結婚すれば、愛子とも、大学時代の友人とも一瞬にして立場が逆転するということに。

そして明日香は、公平を受け入れた。

時々街中で、肩を寄せ合い幸せそうに歩くカップルを見かけると、胸がちくりと痛む。確かに自分にも、あんな風に心から好きな人と過ごした時間があった。でも、明日香は立ち止まらない。

全ては、お金のある暮らしを手に入れるためー。


夢にまで見た高級マンションでの暮らし


明日香の婚約者・公平は、渋谷にあるタワーマンションに住んでいた。公平の父親名義で新築当時に購入したものだ。渋谷から表参道に向かう途中いつも目に飛び込んでくるそのマンションの存在には、明日香もずっと前から気がついていた。

“高級タワーマンションの先駆け的存在で、最上階には著名人も住んでいる”

そんな噂を耳にしたこともある。まさか、そこに自分が住める日が来るなんて夢にも思わなかった。

婚約してすぐに明日香は、憧れのマンションでの新生活をスタートさせた。

スマホで何枚もリビングの写真を撮り、厳選した数枚をInstagramに載せただけでは飽き足らず、ふと思いついた。

-インスタもいいけど、実際に見せたいなあ。そうだ。週末、愛子を呼んでみようかしら。

明日香は、その暮らしを他の誰でもない愛子に一番に見せたかった。

ハリーウィンストンの婚約指輪を見ても顔色ひとつ変えなかった愛子だって、さすがにこの部屋を見れば、「羨ましい」と言ってくれるかもしれない。

そんなことを考えて、イタリア製の高級ソファをうっとり見つめながら撫で続けていた。



週末は計画通り、愛子と数名の友人を家に招いた。

手土産の『ユーゴ・アンド・ヴィクトール』の焼き菓子を大理石のリビングテーブルに広げながら、明日香は女たちの歓声に酔いしれる。

「さっきエレベーターで見た男性、テレビに出てる人じゃない?」

「1階のエントランス、本当に豪華ねえ。やっぱりお医者様は違うね」

騒いでいるのは、大学時代、ゴルフサークルが一緒だった女たちだ。新品のクラブやゴルフバッグが買えなくて、先輩からのお下がりを使っていた明日香を見たときの憐れみの視線を思い出すと今でも苦しくなる。


明日香の豪華な新居に招かれた愛子は何というのか?


完全なる立場逆転


でも今や自分は、公平との結婚を決めることで一気に階段を駆け上ったのだ。

明日香は女たちをゆっくりと見回した。愛子も、興味深そうに話を聞いている。

そのとき友人の一人が、不意に言った。

「でも明日香、今はいいけど、数年後は和歌山だよね」

他の友人も大きく頷く。

「やっぱり、私は結婚するなら東京の人がいいな。愛子の彼の、知樹くんはいいね!安定した会社に勤める東京の男で、性格もよくて、まあまあイケメンってなかなかいないじゃない?」

それを聞いた愛子は、「まあまあとは失礼な」と口では言いながらも、表情は随分嬉しそうだ。

「でも…!」

明日香は慌てて会話を遮り、笑顔で言った。

「でも、こんな素敵なマンションを与えられて、家賃も払わなくていいの。私って本当に恵まれてるよね。ねえ、愛子、そう思わない?」

得意げな表情で愛子を見つめると、愛子はため息をつく。

「そうね、家賃かぁ…」

明日香は、愛子のしおらしい表情を見てホッとし、身を乗り出して尋ねる。

「ねえ、知樹くんのご両親から何か援助はあるの?うちはこのマンションだけど。彼のご実家は普通の家庭だから無理かな…」

すると愛子は、突然ポンと両手を打った。

「あ、トモくんの両親と言えばね…」

明日香はとっさに身構える。一体どんな援助があるというのだろう。やっぱり不動産?それとも豪華な式を上げるための結婚資金?

すると愛子は満面の笑みを浮かべて言った。

「トモくんのお母さんが昨日、大量のパクチーをお裾分けしてくれたよ」

-パ、パ、パクチー・・・!?

明日香は呆気に取られた。まさか、パクチーが、この高級マンションと対等だというのだろうか?




愛子は知樹の両親と撮った写真を見せながら、知樹の母親が今、野菜を育てる農家連携アプリにはまっているということを幸せそうに語っている。

明日香は咄嗟に口を挟んだ。

「パクチーなんかより、このあと皆に屋上のスカイデッキを案内するね。さあ、行きましょう」

ところが愛子は立ち上がった。

「ごめん、私もう帰らないと。トモくんが、パクチーたっぷりのせた担々麺作って待ってるの。トモくんの激辛担々麺、日本一美味しいのよ」

そして玄関先で振り返り、ぽかんと口を開けている明日香に向かって言った。

「今日はありがとう。私もマンション買おうかって気になった。でも、うちは当然ローンになるから、明日からますます仕事頑張ろっと!」

明日香は自分に言い聞かせる。

-ローンとも家賃とも無縁な、優雅な人生だもの。パクチーだってもっと質のいいものが紀伊国屋でいくらでも買えるわっ!

医者の妻という座に高級マンション、そして理想どおりの裕福な暮らし。明日香がようやく手に入れた全てのものに愛子が全く羨ましがらないので、焦りにも似た感情が一気に心を覆い尽くす。

そのとき明日香は心に誓った。

-絶対にいつか、愛子に「愛より、お金」という一言を言わせてみせる。

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