難関資格の筆頭格である、公認会計士。

―高収入、堅実、転勤なし。

そんな好条件を難なくクリアする”勝ち組”であり、東京の婚活市場においても人気が高い職業の一つである。

しかし彼らにも、悩みはある。

サラリーマン会計士から、念願の独立開業を果たした隆一であるが、開業後の苦労に直面し、経営に行き詰っていた。

その一方、ユキは隆一との将来に不安を覚え、大学の先輩である倉田からアドバイスを受ける。

そんな中、事務所経営に悩む隆一の元へ、突然の大学時代からの旧友である神宮から、手を組まないかとの誘いが来たのだった。

それぞれの悩みを抱える隆一とユキの今後は…!?




ユキの考えるリスク回避行動


―私、本当にこのままでいいのかな…?

「将来は真剣に考えている」と言われたものの隆一は独立を決意し、今は仕事に没頭している。結婚したいなんて気持ちは、毛頭ないだろう。

待ち続けることに不安を覚えたユキは、ためらいを感じながらも、新たな一歩を踏み出す決意をした。

依子が誘ってくれたお食事会で知り合った、商社勤務の望月からの食事の誘いを快諾してしまったのだ。

場所は、高輪『レストラン フェメゾン』。品川駅から徒歩数分の閑静な住宅街にある隠れ家レストランは、異世界に飛び立ったようで、ユキの心は躍った。

―リスクには“保険”よ。

デートに向かう間、倉田さんの言葉をふと思い出した。

彼氏がいるのに、他の男性と会ったりする女は最低だと思っていた。しかし、周りを見渡せば、彼がいながらも、虎視眈々と、結婚相手に相応しい相手を常に探している友人はたくさんいるのだ。

親友の依子も、その一人である。

「隆一君はとってもいい人だけど、結婚にはちょっとねぇ?」

自分の行動に疑問を感じつつ、友人たちにもいる“キープ男子”。

―大丈夫、大丈夫。私だけじゃないもの・・・!

その安堵感が、自分の行動を正当化する唯一の理由になっているのは間違いない。


ユキの行動は、将来をどう左右する?一方の、隆一は??


隆一の躍進


神宮との“タッグ”は思いのほか、上手くいっている。

「俺と組まないか?」と言われてから、半年経過した現在、二人の共同代表として事務所を切り盛りしている。

当初はこの誘いに乗るか、迷っていた。彼とは、旧知の仲であるが故、いい面・悪い面を知っている。人当たりは良いが、約束を破るという自由奔放なところが、玉に瑕ではあるが。

友人と起業すると喧嘩別れするというのは、よく聞く話である。

どちらが会社のトップであるか、主導権はどちらにあるのか、そんな面子争いの末、仲違いしてしまうケースは、業種に関わらず多く存在するであろう。

彼も、以前は別のビジネスパートナーと組み、事務所経営をしていたが、仲違いして決別したようだった。

そんな現実を避けたいとの思いから、1人で開業したという事情もあったのである。しかし、1人での開業では、このままでは立ちいかなくなるという現実も目に見えていた。

―イチかバチか。

神宮の危うさも感じつつ、僕はこの誘いに乗ってみたのだった。




「決め事は2人の満場一致で」

共同経営に際して、こんな約束をした。自身も一度失敗している経験からか、双方の意見を尊重し、上手く経営していきたい意向があるようだ。

早くから独立して行動していた神宮は、営業活動に長け顔が広く、自分の欠点である営業力を補ってくれる。それに対して、サービスの実行部隊として、自分が彼の取ってきた業務をクライアントに提供しているのだ。

―これは、いける。

独立した当初、路頭に迷っていた頃が嘘みたいだ。

経営が軌道に乗るとすべてがうまくいく。徐々に職員も増やし、事務所も広い場所へ引っ越しをした。

共同経営者ともなると、ある程度の実務は部下へ任せるようになった。そして、時間、お金に余裕が生まれてきた。

経営の楽しさを知ると、このままもっと大きな事務所にするぞという勢いから気持ちも大きくなってくるのである。

その一方で、規模の拡大に伴い、共同経営者の神宮と、多少の方針の違いも生じてきた。できるだけ争いを避けたい、彼の意見も尊重しようという思いから、多少のことは目を瞑って、大部分を神宮の裁量に任せることにしていた。

しかし、この判断が後に大きな災いとなることは、知る由もなかったのである。


プロポーズを待ち焦がれるユキに対して、隆一は・・!?


保険をかける女は幸せになれるのか


商社マン望月との関係は、いまだに続いている。

この男と、一歩踏み出すべきなのか?その先の答えを出さないまま、ユキは将来の“保険”をかけ続けていた。

“本命”の隆一がいながらも、望月という“キープ男子”、さらには次なるキープ男子を見つけるべく、依子達から誘われるお食事会に勤しむ日々となった。

あれほど拘っていた隆一との結婚も、他の選択肢があると、以前ほど焦らなくなっていたのは事実である。

―でも…。隆一に、早く答えを出して欲しいわ……。

友人たちもキープ男子がいるが、結局は本命の男と結婚していくのを見ると、やはり自分には隆一しかいない、と言い聞かせている。

保険は、所詮保険だ。

気休めでしかない男との関係を維持しているのは、結局現実から逃れているだけであって、本質的な問題の解決になっていないこともわかっているのだ。

この状況を、いつまで続けるのだろうか。

お食事会を重ね、キープ男子を増やしたところで、結局のところ虚しさだけが残り、自分自身は何も進展していないことに気づく。

そろそろケジメをつけなければならない、ユキの我慢も限界点に達していた。



最近は忙しくて、なかなかユキとも会えない日が続いていたが、今日は久しぶりに会う約束ができた。

開業当初は稼ぎが少なく会うのを躊躇っていたが、いまは勢いのある会計事務所の経営者である。毎日のように会食があり、新しい取引先や経営者との出会い、全てが新鮮である。

決してサラリーマンでは経験することのできない、経営者としての感覚。

少し有頂天になっていたのであろうか。この感覚を、ユキに伝えたい気持ちでいっぱいである。とにかくこの思いを誰かに話して、共感してもらいたい。

食事をしながら、目の前で座っているユキに、仕事に対する思い、気持ちを語り始める。彼女は、表情が硬いが、気分が高揚しているせいか、あまり気にも留めなかった。

ひたすら語りつづける自分の顔を、無言で見つめているユキに気づいた。

「どうしたの?」

声をかけてみるものの、ユキの反応は鈍い。体調でも悪いのであろうか。

彼女の目線は少し下向きのまま、しばらくの間、無言で何かを考えているようだった。そして、ようやく口を開いた。

「隆一はいつ…いつ私と結婚してくれるの……?」
「えっ…」

彼女の顔は、涙を流し、赤く染まっていた。そして、華奢な肩を震わせながら僕の顔をまっすぐ見つめて、悲しそうな顔をしている。

咄嗟の問いかけに対する答えに窮していると、彼女はため息をつき、無言のまま席を立ち、お店の外へと出て行ってしまったのであった。

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次週、隆一とユキの関係はいったいどうなるのか…!?