安室奈美恵『Finally』は単なるベストではない 25年を経て辿り着いた“最新作”としての捉え方

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【参考:2017年11月06日〜2017年11月12日週間CDアルバムランキング(2017年11月20日付・ORICON NEWS)】(https://www.oricon.co.jp/rank/ja/w/2017-11-20/)

 2017年11月20日付のオリコンアルバムチャートは安室奈美恵の『Finally』が初登場1位を記録。発売1週目でミリオンを達成し、安室奈美恵に10代、20代、30代、40代の4つの年代にわたってミリオンを達成するJ-POP史上初の快挙をもたらすなど、音楽受容フォーマットの多様化が進む中にあって驚異的なCDセールスを記録している。参考までに、今年の上半期時点でのCDアルバムセールス(集計期間は2016年12月26日付〜2017年6月19日付)を見てみると、売り上げが100万枚を超えた作品は昨年12月21日に発売されたSMAPの『SMAP 25 YEARS』の116万枚のみ。2位はAKB48の『サムネイル』で63.3万枚となっている。加えて、『SMAP 25 YEARS』がミリオンに到達したのはリリースから3週目だったことを考えると、1週目で100万枚を越えた『Finally』の結果がいかに異例かが伝わるはずだ。もちろん、それを後押ししたのは、来年9月16日での引退を発表したことや、本作がレーベルの垣根を越えた初のオールタイムベストであることが挙げられる。とはいえ、通常のベスト作品とは異なる作品形態の影響も大きいのではないだろうか。

 すでに多くの報道がなされている通り、今回の『Finally』では全52曲が時系列順に収録されながらも、その初期〜中期にあたる1〜39曲目は新たに再レコーディング&一部再アレンジが施され、安室奈美恵のボーカルを筆頭に多くの楽曲が新しい表情を獲得している。社会現象とも言える数々のヒット曲を持つ彼女の場合、各曲にはそれぞれの時代性が色濃く反映され、ユーロビートを筆頭にした当時の最先端のクラブミュージックの影響下にあった最初期、小室哲哉とタッグを組んで時代の寵児となった一度目の黄金期、ティンバランドやミッシー・エリオットらの影響下にある00年代のUSメインストリームR&B/ヒップホップの最前線に接近して「アーティスト・安室奈美恵」を確立していくセルフプロデュース時代、EDM以降の要素をブレンドしたエレクトロR&Bも鳴らしつつアーティストとしてふたたび黄金期を迎えていく近年ーー時代ごとに様々な特徴がある。

 そして本作では、それを大胆にリアレンジするのではなく、原曲の魅力を損なわない程度に新たな要素を加えることで楽曲を生まれ変わらせている。多くの楽曲はむしろ忠実に原曲の色を残しつつ歌や音色の変化でアーティストとしての成熟を伝え、中にはサビ前のアレンジを微調整することでビートを損なわずよりドラマチックにサビへと突入する「Dr.」など、かなり細かい作業で楽曲の魅力を引き出しているものもある。全編を聴けば今回の再レコーディングに相当な労力と緻密な作業が注がれたことは想像に難くない。新曲6曲も今の充実を伝えるものばかりで、小室哲也との再タッグが実現した「How do you feel now?」ではMVに2人の再会が収められ、最終曲「Finally」ではこれからへの思いが歌われるなど、徹底的に「今」のドキュメントであることが、やはり通常のベスト盤とは大きく異なっている。

 実際、本作のジャケットには真っ白な装丁に「25」「1992 ー 2017」「Finally Namie Amuro」とだけ書かれており、ブックレットも全楽曲の歌詞、クレジット、スタッフリストに加え、真っ白な見開きに「Finally(=ついに/最終的に)」とだけ書かれたページと笑顔の安室奈美恵の写真のページが続く構成で、ジャケット、ブックレット、盤に至るまで、どこにも「ベストアルバム」という表記がない。だとするなら、このアルバムは何なのか。やはり、25年のキャリアを経て“ついに/最終的に”辿り着いた「最新アルバム」だと捉えるのが自然なのではないだろうか。

 つまり本作は、「25年のキャリアを網羅した初のオールタイムベスト」であると同時に、すべての楽曲が現在の視点で構成された、「全52曲、3枚組の最新オリジナルスタジオアルバム」でもあるということ。再録音の基準を現在の音楽性との親和性とを考慮して2014年近辺までの楽曲に設定していることからも、再録する楽曲の選別についても丁寧な検討が行なわれたことが伝わってくる。そして、そのストイックなまでの表現/作品への向き合い方は、何よりも、多くのリスナーにとっての安室奈美恵像そのものなのではないだろうか。本作は2週目も執筆時点で15万枚以上を売り上げている。これから年末までに、もしくは来年9月16日までに、どこまでセールスを伸ばすのかにも注目だ。(杉山 仁)