食事は重要な営み(写真:アフロ)

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 食をめぐる産業は既に成熟している、と思ったらそうではないようだ。高齢化社会に向けて、拡大が確実視されるのが介護食市場である。食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が解説する。

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「食」は世相を写す鏡だ。バブル当時は高額な外食産業が台頭し、リーマンショックが起きれば中食や内食、ホームパーティがブームとなる。では現代はどうかというと、日経平均2万2000円台を回復したものの、好況を実感するほど収入が上昇したわけでもない。外食も活況を呈しているが、中食や内食も多様になった。ただし、確実に伸びている分野もある。高齢化社会を反映した「食」だ。

 イオンは今年プライベートブランドで扱う介護食の品ぞろえを強化している。これまで20品目程度だったラインナップを、2018年2月期に40品目と倍増させる。イオンのような大型店では専用売り場を設営、小規模店舗の「まいばすけっと」での販売も視野に入れているという。ドラッグストアなどへの流通も強化し、販売額も前年度比1000%の10億円を目標としている。

 介護用品売り場「あんしんサポート」を店舗で展開する、イトーヨーカ堂も介護食に力を入れる。これまで「あんしんサポート」で扱っていた介護食を食品売り場にも展開。昨年末から一部店舗の食品売場では介護食の棚を作っていたが、今後は全店の食品売場に介護食の棚の設置を目指すという。

 介護食を手がけるメーカーのラインナップも充実してきた。早期から介護食を手がけるキユーピーの「やさしい献立」シリーズや、明治のストローで飲むバランス栄養食「メイバランスMiniカップ」など、在宅向けの介護食も充実してきた。

“介護食”のすそ野も広がってきている。従来は「やわらかさ」を重視したものが多かったが、大塚食品が1食100kcal(ごはんやパスタは150kcal)という「マイサイズ」シリーズを発売。通常のレトルト食品と同等の食べごたえや噛みごたえを演出しながら、ボリュームや塩分を抑えた品や、たんぱく質を強化したアイテムも登場している。

 在宅向けばかりではなく、医療・介護施設で提供される介護食にも変化が見える。牛丼の吉野家は事業所給食会社のエームサービスと組んで、同社が給食を提供する約100の事業所で具材のやわらかい牛丼「吉野家のやさしいごはん」を提供する。店舗と同じ絵柄入りのメラミン製の丼で提供するという念の入れっぷりで、外食から遠ざかっている高齢者にとって、こうした細やかな「くすぐり」も好評だという。

 高齢者のみの世帯では食事の準備も負担になる上、火の消し忘れなどさまざまなリスクもある。栄養の補給という面からも、高齢者にとってこそ「食」は重要な営みだ。現在70億円と言われる、在宅介護向けの介護食市場は今後も拡大していく。数年後には団塊の世代も後期高齢者になる。単なる流行やブームではなく、ニーズが産んだトレンドの腰は強い。