米FRBのメッセージは、国民にも市場にもあまり伝わっていない(写真:Kevin Lamarque/ロイター)

世界経済の成長率が高まる中、金融政策はいよいよ正常化のプロセスに入りつつある。

もちろん、正常化の速度は地域によって異なる。最も先を行っているのが米国だ。米連邦準備制度理事会(FRB)は今年、これまでに2度の利上げを行っている。

金融引き締めに神経質になる中央銀行

また、FRBは金融危機後の量的緩和によって買い入れてきた米国債や住宅ローン担保証券の保有高をすでに減らしつつある。QE(量的緩和)は米国において、QT(量的引き締め)に取って代わられつつあるということだ。

欧州中央銀行(ECB)のスタンスは今のところ、そこまで明確ではないが、ユーロ圏でもテーパリング、つまり量的緩和縮小が行われるとの見方が広まっている。

中央銀行が金融引き締めについて神経質になっているのは明らかだ。金融市場にどのような影響をもたらすか、気をもんでいるのである。超低金利がこれほど長く続いているのだから、不安になるのも当然だ。先日、英イングランド銀行は10年ぶりに利上げを決めたが、金融機関のトレーディングフロアでは、10年前というのは古代史に属する昔と言っていい。

だからこそ、金融当局は次のステップへの移行に注意を払っているのだ。ここでは、市場の期待に働きかけることがカギになると考えられている。市場は変化を先取りして動くので、期待に働きかければ、事前に必要な調整が行われ、引き締めの潜在的リスクを減らすことができる、という理屈だ。

市場の期待値をコントロールするに当たって、中央銀行はまずまずの成果を上げている。米国のFRBが年末までに追加利上げを行ったとしても、金融市場ではサプライズとはなりえない。

だが、個人や一般家庭、中小企業についても同じことが言えるだろうか。消費者が抱える負債は積み上がっている。実際に利上げが行われれば、金融市場以上に消費者が過敏に反応するリスクは明確に存在している。

もちろん、中央銀行は通常、消費者に直接語りかけることはない。中央銀行のメッセージは、テレビや新聞などを通じて一般の消費者に届けられる。

中央銀行の言葉は、一般の人たちにはわかりにくいものなのだ。最近のスピーチで、イングランド銀行のチーフエコノミスト、アンディ・ホールデン氏が興味深い調査結果を紹介している。中央銀行のメッセージがどの程度、理解されているか調べたものだ。調査ではまず、中央銀行の公表文書を理解するのに必要な読解力を調べ、次にどれだけの人が、そうした読解力を身に付けているかを調べた。

中央銀行のメッセージは伝わっていない

結果は驚くべきものだ。トランプ米大統領が選挙戦中に行ったスピーチを理解できる人が人口の約7割に上るのに対して、米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事録を理解できる人はわずか2%。主要メディアが金融政策について報じた記事ですら、2割強の人しか理解できないという。

ECBについては比較可能な統計が存在しないが、結果は同じようなものだろう。

中央銀行は近年、メッセージの伝え方を工夫してきた。それを考えるとさんざんな成績だ。イングランド銀行の総裁が、決定内容を適度にわかりにくくすることに誇りを覚えていたのは、それほど昔のことではない。ここ20年で、そうしたひねくれた考えは消え失せたとはいえ、ホールデン氏は、さらなる努力が必要だと言う。

今日ではソーシャルメディアを含め、ニュースを知る手段が多様化している。中央銀行は、これまで相手にしてこなかった人たちをも視野に入れ、従来とは違ったメディアを用い、説得と同じくらい対話を行わなければならない、というのがホールデン氏の主張だ。

これが可能であることを示したのがトランプ氏である。同氏のメッセージの発し方は、確かに有害な結果を伴うことが多い。だが、FRB次期議長に指名されたジェローム・パウエル氏にとって、トランプ氏が切り開いたコミュニケーション手法を見習うことは一考に値する。