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もくじ

前編
ー 高性能クラスのリーダー、ついに動く
ー 最大514ps、最小420ps
ー 高性能と高機能
ー ワゴンに乗っているのを忘れる走り

後編
ー ウェットで絶大な4WDの優位性
ー 積載状態でタイムアタック
ー 速さか、広さか、それとも…
ー 番外編・伏兵現る

高性能クラスのリーダー、ついに動く

世の中にあらゆるカテゴリーの高性能クラスを完全に牛耳るか、それに近い支配力を持つ可能性を秘めたブランドが出現するとしたら、いちばん近い位置にいるのはBMWだ。

BMWが、手を出したカテゴリーでことごとくトップレベルのクルマを作っているメーカーだというのは誰もが認めるところだし、まだ手を出していないカテゴリーに彼らがこれから高性能車を持ち込んだとしても相当いいところに食い込むだろうと、やっぱり誰もが思うはずだから。

運動神経がキレまくってるセダンに激ヤバなサルーンに超キュートなロードスターに、それから、えー、思い浮かばないから普通に言うと535d用のエンジンを載せたX3。

どのクルマも「高性能」のミドルネームを持っている。BMW「高性能」335iとかね。このままいくとバイエルン地方の方言か、あるいはドイツ語の定冠詞になりかねない。「高性能」ってワードが。  

それくらいBMW「高性能」戦略に席巻されている自動車ギョーカイにあって、あるカテゴリーに限ってはなぜかこのところ平穏だ。

マーケット的にはかなりウマ味があるはずなのに、BMWは不気味に静観したままでいる。理由はわからない。わからないけれどここ10年余りBMWが放置しているのはワゴン。BMW的にはツーリングか。

BMWが最初で最後の左ハンドルしかなかったM5ツーリング(E34型)の生産を終了してからこっちというもの、このカテゴリーではA4やA6のアバントにターボやV8を載せたアウディが猛威をふるってきた。BMWに代わって。

メルセデス・ベンツもそう。CクラスやEクラスのステーションワゴンにきっちりAMGモデルをラインナップし続けてきた。

けれどBMWは静観。たぶんBMWにとってE39型5シリーズ・ツーリング中最速だったV8よりも速いクルマ、つまりそれはM5ツーリングだけれど、それを作るのはわりと簡単なことだった。

作らなかった理由はショーバイにならないから。

少なくとも「カタログ・モデルにできるほどM5ツーリングに需要はない」と読んでいた。試しに限定車的としてでもMディビジョンに作らせてみたとしたらそのクルマはまず間違いなく素晴らしいデキになっていたはずで、その場合はMディビジョンの作品として当時ボスだったゲルハルト・リヒターの名誉の足しになるだけでBMWにトクはない──というようなところだと思う。BMWの考えは。

最大514ps、最小420ps

バイエルンでそんな政治的判断を下すミーティングをしているスキに、空席になった王座をめざとく奪い取ったのがアウディだった。

アウディのフルタイム4WDを有名にしたのはクワトロ・スポーツだけれど、アウディが高性能車な乗用車を作れるメーカーだという認識が完璧に浸透したのは1994年のRS2アバントからだ。

RS2は実用的で頑丈でワゴンだから使い勝手もよくて、犬を運搬できるクルマとしては超絶的に速かった。それに売れに売れた。BMWの予想に反して。

アウディはすかさず看板ブランドとして「RS」を独立させた。そしてどんどんシリーズを拡大してばんばん売ったわけだけれど、それでようやくBMWがM5ツーリングを復活させる気になってくれたのだからアウディはよくやった。エライ。

さて、そんなこんなで今、目の前に3台のクルマが並んでいる。この3台はどれもワゴンで、だから僕の目にはすごく魅力的に映っている。なぜならもともと「羊の皮を被った狼」っぽいクルマが大好きだし、広々として実用的なボディも理想的だから。

さらに僕は今かなり重い「目移り症候群」にかかっていて、それもまたヤバイ。なぜって最悪のタイミングで最悪のクルマを買ってしまうのがこのビョーキだから。  

ちょっと考えただけでも速いワゴンってやつは理想のクルマだとわかる。家族で揃ってお出かけ。地の果てまでのハイスピード・ドライブ。おっと愛犬を乗せるのを忘れずに。そんな家族みんなの期待に1台で完璧に応えてくれるのだから、世間で言うところのスーパーカーなんてタイクツでツマラないクルマに見えてくる。

そういうわけで、もしかしたらこのなかのどれかを僕は買ってしまうかもしれない。ヤバイ。

この15年ほどのあいだに高性能車がどれくらい高性能になったかは、この3丁のマシンガ……じゃなくて3台のマシンが明らかにしてくれている。

たとえばカタログにある最高出力の数字がいちばん小さいRS4でも、4.2ℓV8を積んで420psもある。付け加えるなら8000rpm以上回るエンジンが載っている5ドアは、僕が知る限りこのRS4だけだ。

肩をいからせたようなフェンダーフレアとガオーッと口を開けたようなバンパーインテークがルームミラーに映ったなら、覚悟を決めよう。場合によってはママのところに逃げ帰るのも効果的な対応策かもしれない。  

もっともコイツに乗っているなら話は別。その名はM5ツーリング。新しいM5はRS4と出力特性が似ている。

それが気に入らない人もいるかもしれないけれど、そもそもBMW、マセラティ、ランボルギーニ、それにアウディは同じモジュールを使ってエンジンを作っているのだから比出力や回転特性が似ていても当たり前で、そこに噛みついても仕方がない。

それに似ているけれどM5はシリンダーが2本、RS4より多い。そして最高出力は507psで最高速は320km/hを少しだけ超える。BMWが速度リミッターを外しちゃうような野蛮なメーカーじゃなくて本当によかった。  

メルセデスがアウディやBMWとのサシの勝負で後出しジャンケンをするのはいつものことで、もう慣れっこになってズルイともスゴイとも思わない。そして案の定、E63でもやっぱりそれは変わらない。

けれど救いはあった。RS4を運転した直後に「メルセデスは同じセグメントでRS4

の94ps増しです」と言われたらと考えるとゾッする。幸いなことにメルセデスはまだ514psのEクラス・ワゴンに需要があると思っていて、当分はCクラスに同じエンジンを積む気はないらしい。僕たちジャーナリストはもう少しのあいだ幸せな人生を満喫していてもいいみたいだ。

高性能と高機能

同じM5でもサルーンとツーリングのあいだには決定的な違いがあって、ツーリングはサルーンに比べると不利だ。あるいは妥協している。

違いとはリアのサスペンション。ノーマル用がラゲッジスペースに張り出さないことを優先して設計されていてなおかつ過積載にも耐えられるゴツい作りになっているのが不利なところで、それをM5にそのまま流用したのが妥協しているところだ。

根本的に作り直すのはあまりにも非現実的なので、仕方ないと言えば仕方ない。  

車重が軽いところはすごくいい。1845kgもあるクルマをつかまえて軽いだなんてヘンな話だけれど、M5のほうがRS4より0-161km/h加速のタイムがよかったのは動かしがたい事実だ。

ドライ路面だったのでRS4が4WDのメリットを効果的に発揮できなかったにしても。これはもう馬力荷重比で上回っていたからとしか説明しようがない。けれどそんなM5でも、車重2020kgだけれど514psもあるE63には完敗だ。  

RS4の0-161km/h加速タイムは11.3秒だからBMWのE46型M3の上で、つまり絶対的にはRS4はとんでもなく速い。たまたまクジ運悪く相手が10.7秒のM5だったから黒星がついてしまっただけのことだ。

そしてメルセデスの非常識なステーションワゴンにいたっては1度目の勝負で勝ちを拾ったポルシェ911のドライバーでも2度目は避けたいくらいのインチキぶりで、Dレンジに入れておくだけで10.3秒を叩き出してしまう。

最初のアタックでは途中で止めて僕はクルマの後ろ半分を確認してしまった。間違ってサルーンに乗っちゃったんじゃないかと思ったから。  

ワゴンにこんなとんでもないエンジンを載せるドイツ人の無責任さ加減ときたら、開いた口がふさがらなくて笑っちゃうくらいイイ。

低く構えたウエッジシェイプのスーパーなカーなんかでは、それが600psだとしたってこの加速感を味わうことはできない。絶対に。

たとえば友達が乗ってきたちょっと高級そうなワゴンに荷物を満載して「僕が運転しようか?」なんて言ってキーを受け取りオトナ4人が乗り込んで、さぞかし重いはずだからとアクセラレーター全開で発進させてみたとする。

そのワゴンがじつはギアボックスの先に凶悪なほど凄まじいブツをくっつけたE63だったとしたら、すごく気になっているスレンダーな彼女の正体が着やせする女装のオトコだと知ってしまったときと同じくらいショックを受けそうだ。

ワゴンに乗っているのを忘れる走り

このE63で直線路をすっ飛ばしていると、ほかに「高性能」を名乗るワゴンがいるなんてちゃんちゃらおかしくなってくる。

同じようなサイズでブランド的にもガチンコ関係にあるM5と比べても、1歩も引けを取っていない。それどころかE63の単純明快な直線加速を知ってしまったら、M5には何かが欠けているような気までしてくる。

Mの血統をきちんと受け継いていることをついさっき確認したはずなのに。E63は明快に「踏めば走る」を突き詰めたデバイスで、オマケにサウンドでもウットリできる。キャビンのスイッチ類はわかりやすいし、ワゴンだから実用性も高い。ルックスも悪くない。というか、むしろグッドだ。

そんなわけで、MTを捨ててパドルシフトだけになってしまったM5がそのせいで軟弱になってしまったかどうかの最終結論は、もう少しのあいだ保留する。

とりあえずこのクルマのV10エンジンは、メルセデスのV8のようには洗練されていない。けれど5000rpmを超えてからのキョーレツなパンチは合格。

バックゲートのあるクルマにこれ以上の刺激の望むとしたら、フォード・スーパーバン3を持ってくるくらいしか手は残ってない。何しろ2速から3速に8000rpmで手動シフトするときあたりのヘッドアップ式スピード表示の進み方といったらタダゴトじゃないくらい速い。  

けれどワゴンに乗っている気がしないのは強烈な加速Gのせいだけではなくて、後ろが重くてゆるいはずのクルマに乗っている感覚がまるでないからだ。

だから飛ばすとものすごくゴキゲンなクルマにM5がなっていたとしても取り立てて驚くようなことじゃないし、実際そうなっている。

ボディシェルの剛性に合わせてチューニングされたサスペンションのダンピングとレートの絶妙さといったら完全にE63を超えた。それに公道で出せる速度域なら、そのあたりの絶妙さで頂点に君臨するM5サルーンに何も劣っていない。  

比べるとE63はダンピングとスプリングレートが強すぎた。基本的な乗り心地はM5と同じくらい快適だし、それは高速をぶっ飛ばしても大きくは変わらないのだけれど、段差とかキャッツアイみたいなとがった入力でガツンとくる。

M5は平気。しかもステアリングがクイックかつダイレクトなところもM5はイイ。

後編へつづく。

AUTOCAR JAPAN誌 50号