※最大5つまでの複数回答。n=3088。一般社団法人日本ビジネスメール協会「ビジネスメール実態調査2016」より抜粋。(PIXTA=写真)

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仕事のコミュニケーションは「メール」「電話」「会う」がトップ3だ。ただ、LINEやFBメッセンジャーなどチャットツールを使う機会も増えているようだ。文章のマナーはどう変わるのか。押さえるべき作法は何か。ビジネスメールの第一人者である平野友朗氏に聞いた――。

■メールを書ける人は「段取り力」も高い

「正しく伝わるか」「相手を不快にさせないか」「宛先が間違っていないか」「誤字や脱字はないか」「敬語が間違っていないか」。日本ビジネスメール協会が仕事におけるメールの利用状況と実態を調査した「ビジネスメール実態調査2016」では、7割の人がこうした不安を抱いていることが浮き彫りになりました。これは裏を返せば、マナーに対する意識が高い、ということです。

調査結果によると、過去1年間に仕事に関するメールを受け取り、不快に感じた人は約4割。その内容は「文章が曖昧」「文章が失礼」「文章が攻撃的」「必要な情報が足りない」「メールが読みづらい」といったものでした。失敗を避けるポイントはこのあたりにありそうです。

まず、曖昧となる典型例が「なるべく早く」など、人や状況によって、それが1時間とも3日後とも、どうとでも解釈されてしまう表現。誰が読んでも同じ解釈ができる文章にしなければなりません。「文章が失礼」「文章が攻撃的」と感じさせるのは、礼儀に欠けているメールや、寛容さの足りないメールが不快感を誘発している可能性があります。

「必要な情報が足りない」「メールが読みづらい」というケースでは、受け取り側は、不明な部分を質問しなければならなかったり、理解するのに時間がかかったりという負担が生じます。

▼仕事で使っている主なコミュニケーション手段は?

■思考力が求められるのは「要旨」と「詳細」だけ

これを避けるには、メールの基本構成をしっかり押さえる必要があります。メールは「宛名」「挨拶」「名乗り」「要旨」「詳細」「結び」「署名」という7つのパーツで構成されています。この中で思考力が求められるのは「要旨」と「詳細」だけで、ほかはある程度パターン化できるものになります。

そうした構成は、いわゆる「ロジカルシンキング」の手順に似ています。「要旨=結論」を明確に示したうえで、「詳細=本文」の伝え方を突き詰めていくわけです。誤解を避けつつ、できるだけわかりやすい書き方を考える。それは、あらゆる仕事に求められる能力です。しっかりしたメールを書ける人は、仕事の段取りもしっかりしているはずです。

一方、文章の中身で問題となるのは、一文が長くなるケースです。たとえば、この文章を読んでください。

「○月○日に新商品の発表会を開催させていただくのですが、○○様に興味をもっていただけるラインナップとなっておりますので、ぜひご参加いただきたいのですが、ご都合はいかがでしょうか」

この文章が読みにくいのは、「が」や「ので」を使いすぎているからです。こうして一文が長くなると、主述関係のねじれも起こりやすくなります。もし自分の文章に「が」や「ので」が出てきてしまったら、あとで句読点に置き換えて、文章を区切るようにしましょう。一文はできるだけ短いほうが、スッキリしてわかりやすくなります。

また、「〜(させて)いただき」を連発する文章も問題です。リズムが悪く読みにくいうえ、慇懃無礼な印象も与えます。過剰な敬語表現は見直し、丁寧語に置き換えましょう。

■約9割が望んでいる「24時間以内の返信」

メールのマナーという観点では、返信のタイミングも重要です。前述の調査によると、「1日(24時間)以内に返信がほしい人」は86.2%。すぐに結論が出せない場合でも、何らかの返信を24時間以内に出しておいたほうが、相手は安心します。

じつは、電話よりメールのほうが、高いビジネススキルを求められます。電話であれば、定型の回答文をマニュアル化しておけば、大抵の問い合わせには対応できます。相手の声のトーンなどからも状況が読み取れます。相手の疑問や不満はその場で解消できますから、互いにストレスが残りません。

しかしメールの場合、落ち着いたやりとりになるため、相手の言葉の裏側まで読み取る能力が必要になります。さらにこちらの言葉に対して、相手がどう反応するかを予測する力も要求されます。

ここで強調したいのは、メールでビジネスのコミュニケーションが取れる人は、どんなツールであっても、うまく扱うことができるということです。基本はメールにあるのです。

■「チャット」のデータは引き継ぎも難しい

ただし、最近は電話とメールの中間ともいえる「チャットツール」を仕事の場で使う機会が増えています。私自身、たびたびフェイスブックから仕事上の相談を受けます。また「チャットワーク」などの専用ツールを社内に導入する企業も目立ちます。

メールは原則として「24時間以内」に返信するものでしたが、チャットではよりクイックな返信が期待されています。その意味でも電話に近いツールだといえるでしょう。

私のところにも、「こんな案件があるのですが、興味はありますか」といった“打診”がチャットツールで来ることがあります。その場合、「興味がありますので、“詳細”はメールでお知らせください」という返信を送り、使い分けるようにしています。チャットは気軽で便利なのですが、その一方、細かい案件のやりとりには向いていません。

ひとつは「メッセージがどんどん積み重なる」という仕組みです。メールは案件ごとにまとめられますが、チャットツールは人ごとにまとまります。このため何度もやりとりをしていると、過去の記録がまぎれてしまい、タスクの対応漏れが起こりやすいのです。

また「誤送信」というリスクもあります。メールと違って「アドレス間違い」は起こりませんが、多数の人と同時にやりとりをしていると、勘違いからメッセージを誤って送信してしまうことがあります。

さらにフェイスブックなどのメッセージは「個人対個人のため退職時の扱いが難しい」ということも、理解すべきです。個人のフェイスブックの中にあるデータを破棄してもらったり、その内容を引き継いだりすることは難しいでしょう。

■「満員電車の会話」を前提にするといい

こうした点から、ビジネスでチャットツールを使うことは、まだあまりお勧めできませんが、相手から送られてきたメッセージには対応せざるをえないはずです。どんな点に注意すべきでしょうか。

まずお伝えしたいのは、「メールのマナーを持ち込まない」ということです。「○○様」といった「宛名」は不要ですし、「名乗り」「署名」も割愛したほうがいいでしょう。丁寧にしたいという気持ちはわかりますが、相手はメールとは違うやりとりを望んでいるのですから、それにあわせたほうが賢明です。

若い人に多いミスは「フランクすぎる表現」です。気軽にやりとりができるため、ついプライベートと同じ感覚になり、言葉遣いがラフになったり、顔文字やスタンプを使ったりする人がいます。ビジネスでの相手であれば、少し慎重になったほうがいいでしょう。

先日、ある方に見せてもらったメッセージでは、お詫びの内容であるはずなのに、「泣き笑い」の顔文字が使われていました。反省と親しみの気持ちを込めているのかもしれませんが、受け取ったほうは「ふざけている」と感じるリスクがあります。

メッセージを送る時間も配慮したほうがいいでしょう。チャットだからといって、社内の人間に勤務時間外に送ると、受け取った側は「早く返信しなければ」というプレッシャーを感じます。メールよりも「いつ送ったか」が重要になります。

LINEやフェイスブック、ツイッターといったSNSでは、ビジネスの相手と思わぬ形でつながっていることもあります。「プライバシーが守られている」と勘違いをして、仕事上の愚痴や顧客の悪口などを気軽な気持ちで書いてしまうと、内容によっては取り返しのつかないことにもなります。

一方で、つながっているからといって、仕事上の宣伝をどんどん投稿するのは、むしろマイナスになるかもしれません。相手の画面に、あなたの投稿がどのように表示されているか、考えてみましょう。もしかすると、上から下まで宣伝投稿ばかりになっているかもしれません。それでは顧客を遠ざけます。

SNSでの書き方について、私は「満員電車の中で話せる内容にとどめてください」とアドバイスをしています。ネット上も公共空間です。大きな声で、他人の悪口を言うことは控えましょう。

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▼主なチャットツール

LINE
国内ユーザー数は月間6600万人。多くの人が慣れ親しんでいる。今年2月にはビジネス版の有料サービス「LINE WORKS」も開始。
 

Messenger
「Facebook」のチャット機能が個別のアプリとして独立。2015年からアカウントを作らなくてもやりとりができるようになっている。
 

Skype
2004年にスタートした古参。インターネット電話がメインだったが、チャット機能を使う人も多い。現在はマイクロソフトの傘下にある。
 

チャットワーク
2011年にスタートした国産のチャットツール。ビジネス向けに特化しており、17年2月末時点で12万7000社が導入している。
 

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平野友朗(ひらの・ともあき)
日本ビジネスメール協会代表理事、アイ・コミュニケーション社長。1974年生まれ。近著は『仕事が速い人はどんなメールを書いているのか』(文響社)。
 

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(日本ビジネスメール協会代表理事 平野 友朗 構成=小澤啓司 写真=PIXTA)