広く知られてきた治療方法だが、すべての人に適応できる治療ではない点には注意が必要です(写真 : ryanking999 / PIXTA)

抜けた歯を補うインプラント

虫歯がひどくなって残念ながら歯を抜かなければならなくなってしまった。何らかの事故で歯を損傷してしまい、同じく歯を失ってしまった――。そんなときに人工的な方法で、抜けた歯を補う治療法の1つがインプラント治療です。

最近では広く知られてきた治療方法であり、生活の質を改善するうえで有効的です。歯や口周りの情報を「ムシバラボ」というサイトで発信していますが、その中で紹介していることの1つでもあります。ただ、すべての人に適応できる治療ではない点には注意が必要です。

インプラント治療は顎(あご)の骨の中に、人工の歯根であるデンタルインプラントを入れる仕組みです。ただ、さまざまな理由で顎の骨が痩(や)せてしまい、インプラントを入れるための骨の高さや厚みがない場合には、そのままでデジタルインプラントが入れられません。

そこで、現在ではインプラント治療を行うために、痩せてしまった骨に対して骨の状態を移動させたり、形状を変える付加手術である骨造成処置を行ったりすることで、理想的なインプラント治療を行う環境を作り出せます。

骨造成処置にも部位や状態により、さまざまな種類があります。

まず、歯を抜いた後に骨が痩せてしまう理由として、主に以下の5つが挙げられます。

歯の根の周りが大きく膿んでいた

歯や歯の根が割れていた

歯周病が進行していた

転倒など外傷により、顎の骨が骨折したりした

もともと、顎の骨が薄いため

など、感染や外傷などさまざまな理由により顎の骨は痩せてしまいます。

上顎の骨が薄くなってしまってインプラント治療を行えない場合、次の2つの処置が可能です。

(1)ソケットリフト

上の奥歯の骨は鼻の空洞の副鼻腔の近くにあります。上の奥歯が失われると、副鼻腔の内圧によって副鼻腔が 広がり、顎の骨が薄くなってしまいます。ソケットリフトは、骨が薄くなりこの副鼻腔(上顎洞)までの距離が短く、インプラントを打つことが困難な場合に用いられる治療です。

歯周病や歯の喪失などが原因で顎の骨が必要以上に痩せている場合、インプラント治療が難しいため、この手法を使用することが必要になることがあります。

骨の厚みが3mm程度の厚みが残っていれば、インプラントを入れるために開けた骨の穴から人工の骨を入れて骨の高さを作る方法で、インプラントを入れると同時に骨を作る処置を行います。

人工の骨を入れてインプラント治療を可能にする

(2)サイナスリフト

上の奥歯の骨が薄くなり副鼻腔との距離が2mm以下の場合、骨の量が少なくインプランの固定が難しいため、先に骨を作る処置をしてからインプラント治療を行います。

骨の横から穴を開け、人工の骨を入れて、インプラントに必要な10 mm程度の骨の高さを作ります。

骨の形成には、通常であれば半年から1年程度の期間が必要で、治療期間が比較的長期になることが予想されます。

通常は顎骨が薄く、治療が不可能だったインプラントの使用を可能にする治療法です。

しかし、デメリットとして、ソケットリフトに比べて腫れやすく、痛みも出やすいため患者の負担が多くなってしまいます。

一方、骨の厚みや高さを出す場合、主な治療法は次の2つです。

<1> GBR(ガイデッド・ボーン・リジェネレーション)

骨誘導再生法の略称です。歯周病や虫歯などが原因で欠損した骨組織を人工の骨の材料やご自身の骨を移植することで再生、修復する治療法です。

インプラント治療前にGBR手術を行い必要な骨の厚みを先に作っておくこともありますが、インプラント治療と同時にGBR手術を行い同時に作ることもあります。歯槽骨で欠損した部分の再生が可能であり、近年のインプラントの普及によって注目されている歯科技術の1つです。

骨の骨幅を広げるには

<2>エキスパンジョン・スプレッドクレスト

インプラントの長さに対する骨幅が十分な場合でも、インプラントの直径に対して骨幅が狭いとインプラント手術は行えません。このような場合においても、骨の骨幅を広げる治療が必要になります。

エキスパンジョン・スプリットクレスト法は骨造成というよりも骨幅を拡大してインプラントを可能にする治療です。

骨の頂上部をノミのような形状の特殊な器具を用い、骨を広げてできた孔にインプラントを埋め込みます。インプラントと骨とのスペースには骨の代わりになる人工の骨を満たし骨再生を促します。

<その他・多血小板血漿再生療法(PRP,PRGFなど)>

これらの治療に付随して、より確実に骨を作ることや、インプラントの固定を確実にするために行われている治療方法が、多血小板血漿再生療法です。ご自身の血液を使うため、拒否反応もないため非常に安全な治療方法としても注目を集めています。

具体的には、患者自身の血液中の増殖因子(成長因子)を多く含む血漿を用います。この成長因子を用いて、人工の骨やご自身の骨と掛け合わせることで、上記の骨造成処置をより確実に行うこともあります。近年では、PRGF療法やPRP療法といった名前で、怪我をしたスポーツ選手の治療に用いられて話題になったこともあります。組織の再生に大変有効であることが報告されています。

インプラント治療は、しっかりとした知識と技術を持っている歯科医師が行えば、生活の質を改善できる非常に有効的な治療方法です。歯を失ってしまい、顎の骨が痩せているという理由でインプラント治療をあきらめなければならない人も、現在ではこのように顎の骨を作る治療方法も進化してきています。