共働き夫婦はマンション購入で失敗しやすい。マネープランが甘すぎるからだ(写真:kikuo/PIXTA)

今回は、共働き夫婦のマンション購入とローンの組み方について、考えてみたいと思います。共働きだと、どうしても老後設計が甘くなりがちだからです。おまけに「共働きだから」と変なセールスもついてくることがあるので、本当に用心しなければなりません。早速、お話に移ります。

結構値上がりしているけどやっぱりマンションを購入しようと、沢田孝之さん(41歳・会社員)と妻の容子さん(42歳・同)は、あるマンションの内覧会に出掛けました。手取り年収は2人で合計700万円ほど。幼稚園の子ども(5歳)が1人います。

マンションの値段は約5000万円。すでに買うと決めて、手付金も支払いました。当然、おカネのことは気になります。そこで、会場にいるファイナンシャルプランナー(FP)に住宅ローンの相談をしました。すると返済計画表のほかに、なぜか保険商品の設計書まで渡されたそうです。そこで不信感を持った沢田さんが、ローンの組み方も含めて、相談に来られたというわけです。

住宅ローンを変動金利で組んでも大丈夫か


この連載の一覧はコチラ

沢田さん:正直に言うと、5000万円はやや高すぎる買い物かなと不安があったのです。でも住宅ローンの返済計画を見ると、十分に支払える金額でした。4000万円の借入額ですけど共働きですし、ローンの毎月返済額は10万4276円。今借りているところの家賃より5000円ほど安くなるんですよ。でも心配なのは変動金利だと。変動金利でローンを組んでも大丈夫でしょうか。

岩城:金利は0.525%ですか。確かに魅力的ですが、将来金利が上昇するというリスクがあります。実際は、金利が上昇してもすぐに返済額が上がるわけではありません。以前もこの連載でお伝えしましたが、多くの銀行が、金利変更から5年間は返済額が変わらない「5年ルール」と、もし、金利が大幅に上昇しても、前回の返済額の1.25倍を上限とする「125%ルール」を設けています。

しかし、これはあくまで返済額の増加した分を先送りにしているだけです。ですから、返済期間が終わっても、完済できていない分については、一括で返さなくてはなりません。もし固定金利で借りるとしたら、いくらの条件を提示されたのですか?

沢田さん:1.1%です。

岩城:35年ローンというのは十分に考えなくてはいけませんが、金利だけ見ると、変動金利と0.575%差です。毎月の返済額が1万円ほど上がりますが、これで35年間返済額が変わらないというのは大いに魅力的ですよ。

沢田さん:やっぱりそうですよね。でも、ファイナンシャルプランナーの人は、変動金利をしきりに勧めるのです。なぜでしょうか?

そう言って、沢田さんは、保険の設計書を差し出しました。変動金利にして、浮いたおカネで「安心のために」保険に加入すべきだというのです。提案しているのは、「就業不能保険」と「医療保険」です。沢田さん夫婦は、現在、終身保険にそれぞれが加入していますが、医療保険は持っていませんでした。

岩城:なんとまぁ。変動金利型を勧めて、さらに実質的な保険のセールスですか。

沢田さん:もし、私が亡くなった場合は、住宅ローンは、団体信用生命保険(団信=機構団体信用保険特約制度とは、住宅ローンを借りている人が死亡や、高度障害状態になったときに、保険金が融資元の銀行などに支払われ、残りの住宅ローンがなくなる保障制度。保険料は、住宅ローン金利に含まれている)の保険金で完済されますが、病気などで働けなくなったり、収入が減ったりした場合は別だと。住宅ローンを支払い続けなければならない。だから、入院した場合に保険給付金が下りる「医療保険」と、在宅療養でも保険金がでる「就業不能保険」が必要だと言われました。

なぜ固定金利ローンがいいのか?

岩城:一見、その保険の話は筋が通っているように見えますが、間違っていると思います。まず、住宅ローンは全期間固定金利にしましょう。先ほども少しお話ししましたが、この低金利で長期間固定なのですから、将来の金利上昇リスクを避けられますよね。そしてローンを返済しながら、しっかり貯蓄できる家計にすることがむしろ大切です。

それから、提案された保険も必要ありません。沢田さんご夫婦の場合、住宅の手付金、頭金、諸費用を支払っても、貯蓄残高が500万円あります。日本には高額療養費制度がありますし、お2人とも会社員で、傷病手当金もあります。もし就業不能状態が1年半を超えることになっても、障害厚生年金を受給できる可能性もあります。あれ? よく見たら、沢田さんが借り入れる銀行のローンには、団信だけではなく、全疾病保障も込み込みで付帯されているじゃないですか! そのファイナンシャルプランナーは無駄な保険を勧めていますね!!

保険の話はこれで解決したとして、それよりも、ローンが35年間続くことについて考えなくてはなりません。定年退職後も、ローンの支払いが続くことになりますからね。まずは、マンションを買うということは置いておき、「人生設計の基本公式」(後述)で、老後の生活費がどのくらいになるのか試算してみましょう。これを知っていれば、家を買う、買わないは関係なく、一発で老後が「見える化」できますからね。

ここで改めて、沢田さん夫妻の条件を整理してみます。

この条件から、私たちが編み出した人生設計の基本公式を使って、沢田さん夫妻のマネー戦略を考えてみましょう。人生設計の基本公式とは、一言でいえば会社員を辞める、などの年齢を設定(通常65歳)して、それまでに手取り年収の何割を貯めるべきか(=必要貯蓄率)を計算するものです。年齢などは弾力的に設定できますし、いわゆるフルタイムワークなど第一線を引いてからも収入がある場合などにも対応しています。誰でも3分で計算できますので、詳しくは過去の記事「あなたは65歳までにいくら貯めればいいのか」をご覧ください。初めての読者の方は、このままケーススタディを眺めつつ、読み進めてください。

共働き夫婦でも、老後を豊かに送りたいなら結構大変

沢田孝之さん(41歳)容子さん(42歳)夫婦の家計
共働き、5歳の子ども1人
家計の今後の平均手取り年収(Y)750万円
(今は700万円ほどですが、現在の手取り年収ではなく、残りの現役時代の年数も考え、これからもらえそうな年収を考えて記入します)
老後生活比率(x)0.7倍(65歳になったら、現役時代の何割程度の生活水準で暮らしたいかを設定します)
年金額(P)225万円(年収の3割を軸に計算)
現在資産額 500万円(今保有している貯金などの資産額)
老後年数(b)30年(65歳から生きる年数)
現役年数(a) 24年(65歳まで24年)


岩城:これを基に計算しますと、老後に現在の7割の水準で暮らしたいと考えたときの「必要貯蓄率」は25.19%で、年間に必要な額は188万9000円。毎月分に引き直した貯蓄額は15万7000円です。いまの家賃は約11万円でしたね。もし、マンションを買ってローンを支払いながらこの貯蓄額を達成できれば、毎月の老後生活費は約32万7000円確保できます。

まず現在年間でボーナスも含め120万円、つまり毎月10万円の貯蓄をしているそうですから、年間188万9000円貯蓄するには、あと毎月分で5万7000円増やさなければなりません。次に、リタイアメント(第一線を退く)後もローンが払えるかということですが、もし35年固定でローンを組んだ場合、毎月の支払額は、11万4788 円です。7割の生活水準を目標にがんばって貯蓄して、老後の生活費が毎月約32万7000円使えても、ここからローンを差し引くと、老後生活費は21万2527円になってしまいます。これだと、やや厳しいのではないでしょうか。

35年ローンは長すぎる。ではどうするか?

しかし、手付金を支払っているということですので、どうにかしなくてはなりません。この場合、借入期間を短縮するのがベストです。35年ローンですと、支払総額が4821万0694 円 ですが、25年にすると、4576万9817 円 と、244万円も減ります。しかしこの場合、毎月のローン返済額は、15万2566 円 になりますね。

沢田さん:いやー、そのうえに管理費と修繕積立費が合計で毎月3万円かかりますから、18万円台。家賃よりも7万円もはねあがっちゃう。それはきついです。

岩城:次に、考えられることは、当初は仕方なく35年で組むとしても、繰り上げ返済をすることですね。まず、ローンは「ペアローン」にしましょう。これは、それぞれが債務者として住宅ローンを組み、お互いが相手の債務に対する連帯保証人となるというものです。それぞれ住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)を受けることができるというメリットがあります。で、これで返ってきたおカネは、必ず貯蓄ですよ。

沢田さん:はい! 必ず貯蓄します。

岩城:それから繰り上げ返済の時期ですが、10年間の住宅ローン控除が終わり、お子さんの大学資金が確保できたら、実施しましょう。沢田さんの借り入れる銀行は、繰り上げ返済の手数料がゼロですので、少額でも繰り上げ返済していくといいですね。

もし、先ほどの必要貯蓄額を毎年達成していけば、10年後、資産はさらに1900万円ほど積み上がっている計算になります。現在貯蓄額の500万円と合わせると2400万円です。お子さんの学費を多めに1000万円と見積もっても、11年後に1000万円を期間短縮型で繰り上げ返済できそうですね。そうすれば、65歳のときのローン残高は、約284万円まで減ります。繰り上げ返済をしない場合の残高は約1427万円ですから、大きな効果ですね。

沢田さん:わが家のミッションは、いかに今後貯蓄をしていくかですね。

その後、沢田家では、契約していた低解約返戻金型の保険を払い済みにしてネット生保に入り直し、年間約24万円を浮かせて貯蓄に。さらにボーナス時の貯蓄をこれまでよりも多めにする、通信費を安いプランに入り直すなどで、新たに「年間約78万円」を確保しました。

これで、増えた住居費をまかない、必要貯蓄額を達成できる計算です。また、貯蓄の一部をiDeCo(個人型確定拠出年金)で運用することにしました。今後、固定資産税の支払いや、そのほか、貯蓄を取り崩す必要も出てくるでしょうが、住宅ローン控除やiDeCoで還付されたおカネをしっかり貯めていくことで、対応していくことになりました。

余談ですが、家計の見直しをするとき、妻の容子さんが、1度も「ご主人のお小遣いを削る」とおっしゃらなかったことに、私は大変感心しました。容子さん曰(いわ)く、「こんなに毎日忙しく一生懸命働いてくれているのにお小遣いを削るだなんて考えられません。モチベーションだって下がってしまいますよね」とのこと。とてもすてきなご夫婦でした。

岩城みずほの「おカネと人生の相談室」に出ていただける方を募集しています。料金は不要です。住宅ローン、保険、家計、資産形成などについて相談を募集します。記事は個人が特定できないように配慮します。以下よりご応募ください。お願いさせていただく場合は、岩城よりメールでご連絡差し上げます。
■公開応募フォームURLはこちら