―私、年内に婚約するー

都心で煌びやかな生活を送る麻里・28歳は、ある日突然、こんな決意を固めた。

女の市場価値を冷静に受け止めれば、20代で結婚した方が絶対お得に決まっている。

掲げた目標は“今年中にプロポーズされる”こと。

麻里は本気の婚活を決意し、運命の男・優樹に出会う。しかし晴れて結ばれた優樹に結婚の話はしたくないと断言され、麻里は撃沈する。そして、以前出会ったKY男・和也に思いがけず告白を受けたが...?




「俺と、付き合おうよ」

まったく予想外の和也のセリフに、麻里は思わずポカンとした。

「え...?なんで...?」

和也は慶応幼稚舎出身で広告代理店勤務、おまけにジャニーズ顔のイケメンという三拍子そろった好条件の男である。

よって一度は意気揚々とデートに出かけたが、結果、ボンボン特有の高圧的な和也と気の強い麻里の相性は最悪だった。

さらに、その後も食事会で偶然に何度も鉢合わせることになったが、二人はギスギスと攻防戦を繰り返してばかりいたのだ。

それがナゼ、突然“付き合って”になるのか。

「なんでって...。俺、お前のことは最初からわりと気に入ってたし」

「あ...ありえないわ。あなた、私に嫌味ばっかり言ってたじゃない......なのに、何でよ?」

「...まぁ、ぶっちゃけ、お前、顔だけはすげぇ可愛いじゃん。最初は調子こいてる女だと思ったけど、小生意気な性格も、意外に嫌いじゃない気がしたんだよ」

和也はあくまでエラそうな態度を崩さず、しかし照れを滲ませたような口調で言う。

そして、さらなる彼の一言に、麻里の心臓はギクリと大きな音をたてた。

「それに俺、お前の彼氏と違って、結婚願望強いよ」


思いがけない男からの告白。麻里の心は揺れる...?!


肩身の狭い婚活女に、救いの言葉をかけた男


どうやら麻里は、『食幹』での食事会の最中、気づかぬうちにかなり酔っており、優樹との間に起きたイザコザを和也に散々愚痴っていたようだ。

「お前、年内に婚約したいんだろ?そんな気難しい男と付き合ってたら無理なんじゃないの」

酔いが覚めるとともに、麻里は自分が優樹のことだけではなく、年内婚約を目標に励んでいることまで和也に力説していたことを少しずつ思い出す。

「いや...それは...別に、そんなに焦ってるわけじゃないのよ...」

必死に婚活しているのを男に自ら暴露するだなんて、なんと無様であろうか。麻里は動揺しつつも取り繕おうとするが、和也は平然としている。

「いいじゃん、別に。俺は結婚したいって正直に言う女の方がいいと思うよ。駆け引きとか、面倒くさいのは苦手だし」

「で、でも、私は...」

「結婚願望を隠す必要なんてないだろ。それはそれで、素直で可愛いじゃん」

そして、最後にボソっと呟いた和也の言葉に、麻里は不覚にも涙腺を刺激された。


婚活に奮闘する女の、意外な苦悩


―私、絶対に結婚したいのー

こんな風に“結婚”を目標に掲げ、堂々とハッキリ宣言するには、実はかなりの勇気がいる。

言うまでもなく、「結婚したがる女=ちょっとイタい女」的な世間の風潮により、結婚願望の強い女は少なからず肩身の狭い思いをすることが多いからだ。

アラサーの独身女ならば、誰でも心当たりがあるだろう。

「結婚してもしなくてもいいけど、まぁ、いい人がいれば...」
「結婚するメリットが、実はよく分からなくて...」
「自由で身軽な独身生活も、それはそれで楽しいから」

よって世の中には、素直に結婚願望を表に出せず、こんな“逃げ道”のような言い訳をしながら、毎晩のように出会いを求め夜の街を徘徊する女がどれだけいるだろうか。

もちろん、彼女たちのセリフが一応は嘘でないことは麻里にも分かる。

麻里自身にしたって、それなりの仕事を持ち、28歳というまだチヤホヤされる年齢であるから、そんなスタンスに転ぶのは簡単だ。

だがそれでは、ただ“どうでもいい敵”に負けている気がして仕方がないのだ。

「あの子、何でそんなに結婚したいんだろう?」
「必死になっちゃって、何か可哀想」
「どうせ、ハイスぺ男と結婚して楽な生活を手に入れたいんでしょ」

麻里も馬鹿ではないから、一部の人たちにヒソヒソとこんな陰口を囁かれているのを知っている。

食事会の前に化粧室でメイクを直しているときの、バリキャリ側の女からの冷ややかな視線。同じ恋愛市場にいるにも関わらず、“結婚”という言葉をチラつかせた途端に蔑んだ目を向けるハイスぺ男たち。

しかし、ピチピチの20代のうちにウェディングドレスを着て、なるべく若いうちにすんなりと子どもを授かり、好きな人と幸せな家庭を築きたいと夢を持つことが、そんなに悪いことだろうか?

そのために努力して婚活し、戦略的に活動することが、それほど格好悪いことだろうか?

少なくとも麻里自身は、他人から馬鹿にされたり、迷惑をかける行為だとは思わない。だからこそ、“結婚したい”という自分の本心に嘘はつきたくないし、後悔はしたくなかった。

そんな背景があったから、「それはそれで、素直で可愛いじゃん」という和也の一言は、麻里の胸に深く刺さったのだ。


そして麻里は、和也のデートの誘いに乗ってしまう...?


馬鹿だと分かっていても、無視できぬ本能


そんなこんなで、麻里はその数日後、和也とのランチに赴くべく六本木の人気フレンチ『ル スプートニク』に向かっていた。

ちなみに優樹とは、ケンカ別れをしてから早くも1週間ほどたつが、いまだに連絡はない。よって麻里は、みゆきの言う通りに“二股上等作戦” を実行する決意を固めたのだ。

―和也氏、意外にイイ男じゃない!そもそも彼、スペック的にも文句ナシよね。麻里、頑張って!!

事の一部始終をすぐさま電話でみゆきに報告すると、彼女はアツく麻里の背中を押してくれた。

それに和也も「ランチくらいなら別にいいだろ」と、麻里が一応彼氏持ちであることは承知の上で誘ってくれたのだ。




『ル スプートニク』の席に案内されると、和也はすでに席に着いていた。

夜の街でしか顔を合わせていない彼と真っ昼間に対面するのは気恥ずかしい気もするが、ゆったりと温かみのあるテーブル席は、そんな緊張を少しずつ解いてくれる。

「とりあえず、コース頼んであるから。苦手なモノがあれば言って」

和也は言葉少なげだが、不思議なくらいにこれまでの嫌味な印象はなく、スマートに食事を始めた。旬の食材がふんだんに使われたコース料理は、息を飲むほど美しい一皿が次々に運ばれる。





「ねぇ、和也くんて...結婚願望強いって言ってたけど本当?まだ28歳なのに、どうして?」

美味しい料理にすっかり心が緩んだ麻里は、何となく気になっていた疑問を投げかけた。

「...前も言ったじゃん。姉ちゃんが最近結婚して子ども生まれたんだけどさ、すごい可愛いし、幸せそうでさ。俺の周りも既婚率高いし」

「ふぅん、そうなの...」

「......だからお前、彼氏とうまく行ってないなら、さっさと別れろよ。俺、結婚を前提に付き合ってほしいんだけど」

和也の直球発言に、麻里は思わずむせ返り、顔が赤くなっていく。

「な、なによ、こんな昼間から...!あなた、そんなに私のことが好きなの...?」

「うーん、だから“顔”がタイプなんだよ。それに...」

そのとき、麻里のスマホが突如ブルっと振動した。

―麻里ちゃん、この前はごめん。今日、会って話せないかな?―

「なに、彼氏?」

麻里の表情を読み取ったのだろうか、和也は遠慮なく突っ込んで来る。

―ああ、もう...どうしてこんな時に...!!

「え...あ...、ちがう...」

しかし麻里は、スマホから目を背け、和也を誤魔化しながらも、すでに心が優樹の元へ飛んでいくのを止めることができなかった。

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好きな男or結婚前提オファーをくれる男の間で揺れていく麻里だが...?!