かつてほど、女性の人生において「産むこと」が当たり前ではなくなってきた今の時代、「子どものいない人生」を選択する人も増えています。そして、その傾向はほかの先進国でも見られること。

ところが、欧米の女性の「産まない理由」を見ると、日本とはかなり異なる傾向があるのだそう。その詳細を、妊娠・出産ジャーナリストの河合蘭(かわい・らん)さんにレポートしていただきました。

日本の女性の「産みたくない理由」は特殊

「産みたくない女性」が増えているのは世界的な現象だが、日本女性の「産みたくない理由」は少し様子が違うようだ。

今年2017年、米国医療機器メーカー「クック・メディカル」の日本法人が、日本、アメリカ、フランス、スウェーデンの4カ国で、都市部に住む子どもがいない18〜39歳の女性を対象にインターネットで国際調査を実施した。その中で「子どもが欲しい」と答えた人は、日本が最も少なくて63%にとどまった(グラフ1)。

グラフ1「将来、自身の子どもが欲しいと思う女性の割合」

フランス、アメリカでは約8割、スウェーデンでは約7割の女性が「産みたい」と答えたのに対して、日本は産みたい人が明らかに少ない。産みたい人が大きく減り始める年齢も、ほかの国が30代後半であるのに対し、日本は30代前半から2割も減ってしまっている(グラフ2)。

グラフ2「年齢別に見た産みたい人の割合」

さらに注目すべきなのは、「産みたくない理由」の違いだった。日本以外の3カ国では「現状のライフスタイル(子どもがいない生活)に満足しているから」がトップ。子どものいない女性たちが「子どものいない人生」を生き生きと楽しんでいる様子が浮かんでくる。

しかし、日本では「満足しているから」と答えた人は一番少なかった。日本の産みたくない理由のトップは「子育てをする自信がない」というもの。第2位は「大変そう」という理由で、いずれも消極的な印象だ(グラフ3)。

グラフ3「将来、自身の子どもが欲しいと思わない理由」

もしかしたら、日本女性の「産みたくない」は、「本当は産みたいのだけれど、無理だからやめる」という意味なのだろうか?

「自信のなさ」はどこからくるのか?

この調査を実施したクック・ジャパンは調査結果を発表するイベントを開催した。私はそこで演者のひとりとなったのだが、控室でもこの「自信のなさ」はどこから来るのかということに話題は集中した。

正解はひとつではないだろうが、私なりにこの消極性の理由を考えると、日本女性は、子どもについてとても真面目に考えていて、母親業や仕事との両立の「合格点」をかなり高く設定しているのではないか、ということだ。

悩みながら産んでいる女性たちを取材してきた立場からは、日本女性は、もう少し「何とかなるさ」「自分なりに母になればいい」と考えてもいいと思う。現代では小さい子にほとんど触れることなく成長する人がほとんどなので、子どもに苦手意識があるのは当たり前だ。子育ての自信は、大体あとからついてくる。胎動を感じて感動したり、おろおろしながら何かをひとつ乗り越えたりするうちに少しずつできてくるものだ。

でも、日本には、絵に描いたような「立派なお母さん」だけがお母さんだと考えてしまう人が多い。そんな母親は実在しないのに、いつも子どもに微笑みかけてお料理も完璧に作る、きれいなママになれないなら「子どもがかわいそうだ」という女性もいる。

仕事でもやはり真面目さを発揮する日本女性は、こちらについても強い責任感を持っている。日本女性も本来は立派な育児能力を持っているかもしれないのに、この真面目で勤勉な国民性がハードルを高くしているのかもしれない。

「子どものいない人生」の満足度が高い国

日本は、ほかの3カ国よりも子育ての負担も大きい。フランスとスウェーデンは大学卒業まで親が負担する費用はわずかなので、「お金がかかるから産まない」という人はとても少ない。両立支援についても歴史は長く、退職して収入がなくなってしまう不安も小さい。

「欧米の女性は体力が違う」ということも医療関係者の間ではしばしば話題になる。日本人は筋肉の量が少ないので、子どもを抱くための筋力も欧米女性より弱いだろう。そこに、夫がなかなか帰宅しない「長時間労働」の問題がのしかかっている。人ひとり育てる子育てはどうやっても楽にできるものではないが、それでも、社会の支援や理解が足りないことは明らかだ。

でも、日本では、「出産支援が手厚くなると、産みたくない人間は肩身が狭くなる」と心配する声がよく上がる。この点についてはどうだろうか?

この調査では、事実はまったく逆だった。フランス、スウェーデンなど出産・育児への支援が手厚いことで名高い国は、子どもがいない人生に満足している人が日本よりはるかに多かったのだから。

おそらく、子どものために早く帰宅したい人を認めることは、産みたくない人を認めることに相通じるのだろう。どちらも「みんなが、違う生き方をしていい」という認識がベースにある。

日本では、産んでも、産まなくても苦しい。そんな、どこにも逃げ場のない閉塞感が、今、日本の女性たちを覆っている。この二つを一緒に吹き飛ばすには、どの立場の人も「こうでなければ失格」といった決まった形へのこだわりを捨てて、現実の自分を堂々と生きることだろう。

この調査には「男性の気持ちの国際比較も見てみたい」という声も寄せられた。それも興味深いテーマで、今後そのような調査もあるとしたら楽しみだ。

*データは「クック ジャパン」からの提供
(河合蘭)