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text:John Evans(ジョン・エヴァンス)

もくじ

ー 生産ラインのない大手「自動車メーカー」
ー トイ・ストーリーよりも多い画像点数
ー VRの世界 思った以上に進んでいる
ー きっかけは目前の「技術の移り変わり」
ー 番外編 皮革の見た目を再現するコツ

生産ラインのない大手「自動車メーカー」

ブラックプールから約10km離れた田舎にある、小さな会社の名前を聞いたことがあるひとは、おそらくほとんどいないだろう。

しかし大手メーカーであることには変わりない。だからといって組立作業員はどこにもいない。

何を作っている会社かというと、代表的な製品はオンライン・コンフィギュレーター。

色やトリムなどを選択し、自分だけの夢のクルマを作り上げる、あのシステムを作っているのだ。クルマ好きならば、一度はメーカーの公式サイトを訪れ、あぁでもない、こうでもないと、自分好みのクルマを仕立てたことがあるのではないか。

社名は「リアル・タイムUK」。ウェスビーのランカシャーにあり、ベントレーやフォルクスワーゲンのオンライン・コンフィギュレーターを設計して生み出した。

社内を覗いてみると、誠にマニアックな世界が広がっている。

トイ・ストーリーよりも多い画像点数

例えばベントレー・コンチネンタルのピアノ・ブラック塗装+単板仕上げのタモ・アッシュや、ゴルフのオプションである17インチ合金ホイールなど、システムで表示される部品はすべてクルーやヴォルフスブルクの工場で使われているのと同じコードで表される。

それぞれのコードは部品あるいはクルマ全体の平らな二次元画像を生成する。次に、リアル・タイムUKの熟練したデザイナーがこれらの平面的かつ機能的な画像数千枚に濃淡、奥行き、質感を持たせて生彩を与える。その結果、本物と見紛うほどのクルマや部品の画像が出来上がるのだ。

かつて、新車を買いたい顧客はパンフレットとオプション・リストを見て仕上がりをイメージしなければならなかった。ところが今は、コンフィギュレーターでクルマの仕様を決め、具現化したものを高画質なパソコンまたはスマートフォンで見ながら細かな部分まで完成させることができる。

ベントレーは、顧客がコンフィギュレーターを弄るのに、およそ8分のページ滞在時間を費やすと把握している。GTだけでも塗装、シート皮革、ダッシュボード化粧板、ステッチ仕上げといったオプションの組み合わせが70通りもあることを考慮すると、8分というのは非常に短い。

GTのコンフィギュレーターでこれらのトリムの組み合わせを表現するには162,000枚の画像が必要となる。これは映画トイ・ストーリーの製作に使われた画像数よりも多い。162,000もの画像を1枚ずつパソコンに表示していったとしたら上映時間は5時間になるだろう。

GTよりもはるかに多くの設定項目があるミュルザンヌの820,000画像を上映したなら9時間20分にもなる。そんなミュルザンヌの恩恵を引き継いだベントレーのサーバーは、14,000を超える設定を同時に行うことができる。

最も難しくて手間がかかる作業はリアル・タイムUKの2階のオフィスで行われている。

VRの世界 思った以上に進んでいる

ここでは有能かつハイテクに精通したクルマ好き集団が、多くのレイヤーを三次元化してコンフィギュレーターで細部まで綺麗に視覚化できるようにしている。

彼らが作り出すベントレーの前照灯レンズは美しい。また、ブレーキ・キャリパーの色と合金ホイールの色合いが対応するよう細部までこだわって再現している。

リアル・タイムUKのベントレーやフォルクスワーゲンのオンライン・コンフィギュレーターは二次元画像だが、ウェスビーにあるオフィスの1階では(同社はマンチェスターにもオフィスがある)、三次元のバーチャル・リアリティ・コンフィギュレーターで最後の仕上げをしている。

この日はちょうどフォルクスワーゲンのT-Rocが解禁された日だったので、このクルマで試させてもらえることになった。

まずバーチャル・リアリティのヘッドセットを付けてハンド・コントローラーを握る。そしてコントローラーにあるボタンを操作すると目の前に突如バーチャルなT-Rocが現れた。

クルマの周りを歩いたり、中に入ったり、と自在に動くことができる。中に入るには、ボディを通り抜けるか、ドアを開ければ良い。何もかもが完璧に詳細な三次元で表現されていて、まるで本物のT-Rocがこの小さな部屋に実在しているかのようだ。

将来的には、バーチャルな荷物を積んでトランクの負荷量を確認することもできるようになるようだ。触覚機能も備わるので、スイッチギアのボタンを押したりレバーを動かしたりした時にどんな動作をするのか実際に見られるようにもなる。

さらに、路面からの感覚を的確に伝達できる機能を持った何かを着用すれば、バーチャル・リアリティでデコボコ道を走行した時の乗り心地を体感できるようになるかもしれない。

同社の社長に話を聞いてみよう。

きっかけは目前の「技術の移り変わり」

リアル・タイムUK の創立者であり社長でもあるトニー・プロッサーはバーチャル・リアリティの将来性に胸を踊らせている。

「この技術は場所を問わないので、ディーラーはショールームを飛び出して営業できるし、顧客は自身のイメージに頼ることなく選んだクルマの細かい点まで確認して体験できるようになります」とのこと。

目に見えないものを見えるようにするこの男には先見性があると言える。彼は1990年代前半にブラックプール美術大学でテクニカル・イラストレーションを専攻していた頃、二次元のソフトが三次元に進化し、さらにはピクサーの映画トイ・ストーリーのような三次元動画へと発展していることに着目した。

「技術の移り変わりを目の当たりにして、その一端を担いたいと考えました」と彼は言う。

「当時その技術を活用している自動車メーカーはいなかったので、それをクルマに応用して先駆けとなるため1996年にリアル・タイムUKを立ち上げました。現在当社にはオフィスがふたつあり、社員は34名で、まだ成長を続けていますよ」

ベントレーの「Look Closer」というプロジェクトに携わったことはプロッサーにとって自慢の成果だろう。これは、ギガピクセルの画像を使ってミュルザンヌの助手席に刺繍されたベントレーのロゴに約800mの距離からズームインするというものだ。

一見、お遊びのようなプロジェクトだが、ひとびとのクルマ作りを可能にするという大切な仕事はウェスビーのオフィスの2階で真剣に取り組まれている。

自律走行車が現実のものとなって人間が車内で自由にくつろげるようになったとしたら、コンフィギュレーターはもっと面白いオプションを提示していかなくてはならないだろう。

クルマに未来があるとすれば、それを取り巻くテクノロジーも、まだまだ発達できる伸びしろがあると思った。

番外編 皮革の見た目を再現するコツ

シートのフォームに皮革を張り伸ばしたときの質感を再現するのがコンフィギュレーター・デザイナーの腕の見せ所である。

見る人に本物だと思わせられるような表面の輪郭、皺、刺繍の盛り上がりを作り出すのが狙いだ。

ベントレーからCADデータを受け取ると、デザイナーはまずコードを変換して視覚化する(図1)。

次に、シートのひとつひとつの要素を手作業で再現し、実際の製品の豪華さや快適さを具現化する豊かさと深みを加える(図2)。

その後画像は素材と照明のアーティストに回される。そのアーティストが製造プロセスで使用される実際の材料を再現し、ベントレーの皮革の香りが漂ってくるような最高の品質を備えた完成品を作り出す(図3と4)。