@AUTOCAR

写真拡大 (全8枚)

もくじ

前編
ー プロヴァンスに響き渡るV10の雄叫び
ー 明らかに騒音規制無視のジョン・ブルたち
ー グラマー度比べではM6はお話しにならない
ー 安くてパワフルなイカしたジャガー
ー マッチョなM6はクーペでどうぞ

後編
ー ちゃんとソソるクルマになっている
ー アストンならすべてが許される
ー やっぱりアストンならすべてが許される
ー 勝者はアレ でも、アッチも捨てがたい
ー 番外編 本当にボディ剛性はクーペ並み?

プロヴァンスに響き渡るV10の雄叫び

EUの通過騒音規制は、ヨーロッパ大陸にあるなかで明らかにイチバンのザル法じゃないかと思う。なんでかっていう話はここから先を読んでください。以下に書いてあるような出来事を僕は今回目の当たりにしたのです。

というわけで、いま僕はフランス、プロヴァンス北部の某所にあるD級路の傍らに立っている。急な下りのセクション。路面のアンデュレーションはウネウネにキツくて、朝日のもとだとそれらはまるで見えない岸辺にパシャパシャ打ち寄せつづける波みたいに見える。アスファルトの岸壁ならぬバンプもまたキツい。ダカール・ラリー出場車だったら別かもしれないけど、いったんほとんど停止寸前まで速度を緩めないと横切れそうにない。

まず1台目に、BMW M6カブリオレの右ハン仕様がやってきた。いうまでもなく、このあたりではあまり見かけないクルマだ。ドライバーは路面上の隆起部分にちゃんと注意して速度をゆるめ、でまた加速。507psのソリを駆り立てる。そして次の直線の彼方へと消えていく。

モータースポーツ界の伝説的名車ラリー・クワトロが猛り狂ってるときに聞こえてくる轟きに通じるものがそのサウンドにはある。とても市販車の音とは思えない。なんとまあ賑やかなこと。もうちょっとおとなしくても別にいい。その状態でも、法的に要請されるレベルをはるかに上回ってやかましいはずだから。

明らかに騒音規制無視のジョン・ブルたち

お次はジャガーXKR。音もなく現れたときの身のこなしは酷い路面の上でも上品で、そこから一転、ではなく連続的にモーレツ化していく。加速時の荷重移動によってリアが沈み込み、ジャガーは速度を上げる。

とそのとき、なんの前触れもなしに大量の音が。4つのエグゾースト・アウトレットから。このあたりには壁やビルのたぐいがないから排気音にエコーがかかって強調されることはない。

低木が繁ってるのがせいぜいの開けた場所。なのに、それでもすさまじいエフェクト。

「なんでこんなのが公道オッケーなの?」

僕としてはそう思うのがせいいっぱい。

XKRが通過騒音規制をナメてるヤローだとしたら、次のクルマはもっとヒドい。明らかに確信犯。ピエロ姿で測定室にやってきて、でもって測定員の皆様の、ほかでもないお鼻をグイッ。アストン・マーティンV8ヴァンティッジ・ロードスターが静々と視界に入ってくる。

バンプ乗り越えの挙動は乱れていない。加速にともなってリアがわずかに沈み込む。周囲に潜んでいる野生動物がすっかり油断したその瞬間、アストンの排気管内に仕込まれた一対のバルブがガバッと開いて事態は一変。ヤツらは慌てて耳栓を探すことになる。

4000rpmから上でフル・パワーをかけたときのV8ロードスターのエグゾースト・ノート。こんなのがオッケーだなんて、M1(高速1号線)を300km/hでぶっトバしても英国の速度制限に抵触しないのと同じぐらいありえない。

フェンダーのあたりにJ.P.モントーヤだのチップ・ガナッシ・レーシングだのともし書いてあったとして、それでもやっぱり同じくらい驚ける。

僕がいいたいのは、つまりはこういうことだ。盛大な排気音でもって周囲の注意をこちらに向ける必要なんてないくらい美しいクルマがもしあるとしたら、ニューV8ロードスターはまさにそれ。無音で走ってたとしても、あるいは停まってたとしても注目されまくり。

そのかっこよさに、誰もが見とれてくれる。見た目にもっとエキサイティングだったりパワーやパフォーマンスがもっとすごかったりするクルマが世の中にはある。

でも、これほどプロポーションがキレイでなおかつギュッと切り詰めっぽくコンパクトなスタイルのクルマはない。少なくとも、僕にはほかに1台も思い当たらない。

グラマー度比べではM6はお話しにならない

アストンのそばにいるときは、思わずずっと見とれっぱなしになってしまう。半ば我を忘れた状態で。ボディの曲線のキレイなこと。1974年より前の時代のレーシング・ポルシェを目の前にしたとき以外は、こんなふうになることって普通ないんだけど。

クルマが「ビューティフル」だという表現はよく使われるけど、「ビューティフル」はまさにこのクルマにこそ相応しい。そういわれて反論する人はほとんどいないと思う。

BMW M6カブリオレは違う。ビューティフルのきわみとはいいがたい。でも507ps/7500rpmはちょっとしたものだし、アストンの1700万円に対して1650万円というその値段も脅威ではある。ですよね?

フォードの100%傘下ではなくなって以降に出る最初のアストンの比較の相手としてどのクルマを選ぶべきか、ということに関しては僕らの間でいろいろあった。

ポルシェじゃいくらなんでもベタすぎるとか、M6とこれとどっちか迷うヤツなんていないんじゃないのとか、あるいはXKRじゃブルー・カラーっぽすぎるんじゃないかとか、ケンケンガクガク。

で結局ビーエムとジャガーを連れてくことにしたわけだけど今回。この選択が正しかったか間違ってたかはおいおい明らかになると思う。ただ、現時点でもこれだけはハッキリいえる。

すなわち、カレラGTでももってこないかぎりポルシェじゃ相手になんてならない。なりたくても全然ムリ。主観的には、アストンはそれっくらい高いところにいる。

クーペからコンヴァーティブルになったことで70kgのウェイト・ペナルティがついてしまった。でもこのアストン、ジャガーの場合と同様ベースのプラットフォームがフィクスト・ヘッドありでもなしでも大丈夫なように設計されている。なので後付けっぽい補強ワークはギリギリ最小限のレベルにとどまっている。これの前に出たアストンのコンヴァーティブルのボディが大したことなかった、なんてことをほとんど忘れてしまいそうになる。

DB9ヴォランテのあのブルブルなスカットルに対するホメ言葉がナンかあるとしたら、「見た目にはイケてるね」ぐらいのものだろう。

でもプロジェクト・チーフのデイヴ・キングによると、その状況も変わるらしい。

V8ロードスターを作るなかで彼らはものすごく多くのことを学んだそうで、その成果がすぐにもDB9ヴォランテに反映されることになっているから。

安くてパワフルなイカしたジャガー

クーペ→ラグ・トップにともなう変更点は、そのいずれもが有意義なものばかりというわけではない。たとえばスプリングのレートは10%アップ。

それにともなって、ダンパーの減衰力もまた相応にアップ。バンプ側もリバウンド側も両方。一方、ライド・ハイトは5mmアップ(不思議なもので、たったの5mmなのに見た目上はハッキリ高くなってしまっている)。

アンチロール・バーは変更なし。スポーツカーの屋根開き派生モデルのロール剛性がクーペ版のそれよりも高いだなんて、いったいぜんたいどういうことか。そんなの、前例あるのか? 

いやいや。少なくとも、僕は聞いたことない。アストンによるとロール剛性アップによる乗り心地の悪化はないそうで、だったらぜひともクーペ版のアシにも同じセッティングを採用していただきたい。

なお、ロードスターは完全なというか泣いても笑ってもというか2人乗り。キャンバスのルーフはフル電動で、畳んだ際は2つのコブ、じゃなかったレザー・トリムされたバットレスの下にしまいこまれる。

ついホンの最近までは、ジャガーとアストンとは親戚どうしだった。アストンがフォードといっしょだった次期は。でも、いまはお互い別々の人生を歩んでいる。いまでもフォードはアストンの株式の15%を保有しているけど、彼らの手元に残ってる高価格帯ブランドはジャガーだけだ。  

XKR、イカしている。もし僕がアストンのセールスマンだったらコイツは頭痛のタネになると思う。なぜって、こんなにソソる見た目のクルマが1430万円〜で買えるから。

ロードスター比なんと100万円も安い。しかもこれ、パワーが426psもあって車重は1780kgしかない。パワーウェイト・レシオはトンあたり239ps。アストンの同225psを上回っている。

マッチョなM6はクーペでどうぞ

いうまでもないことかもしれないけど、今回の勝負は要するにグラマー度較べほとんどそのものだ。したがって、BMW的にはほとんど全然オイシクない。でもって正直にかつ率直に認めてしまうと、1700万円近いお金を払って買って乗るものとしては僕はこのクルマ、わけわかんない。クーペの大ファンではあるけれど、コンヴァーティブルは値段見ただけでちょっと高すぎると思ってしまう。M6は本質的にマッスル・カーだと僕は考えていて、だからそれベースの高速クルーザーなんぞを作ってどんなイイことがあるのかよくわからない。手に負えないクルマ。

重量増(220kgほどですが)によるパフォーマンス低下はわずかにある。でもこれ、依然としてすごーく速い。405psモードのままでも全然問題なく他の2台とコンヴォイを組んで走っていける(最後のあと101psはボタンを押さないと使えるようにならない)。

技術的に、およびダイナミック性能的にも、BMWは他の2台よりも高いレベルにある。車体構造はビックリするほどシェイクと無縁で、ちゃんと使える2人ぶんの後席があって、しかも乗り心地はクーペ版のそれよりむしろイイ。

なぜって、乗られかたがクーペ版とは違うということでBMWはこっちのほうによりソフトなアシを組み合わせているから。

ただビックリなことに、高速で走った際のキャビン内のエアフローの暴れっぷりはBMWがいちばんヒドい。ガラスのリア・スクリーンを上げると事態は鎮静化するけど、でもそうなるとこんどはまた別の問題が発生することになる。

すなわち、せっかくのラグスターなのにブートリッドからガラス板が突き出しているのはいかがなものか、という。要はカッコ悪い。ブザマ。屋根開きモータリングのなんなるかをイマイチ理解していない。僕にいわせれば。

グラマー度の高い低いでほとんど勝負が決まってしまう今回なので、そこのところは見逃しておけない。

後編へつづく。

AUTOCAR JAPAN誌 49号