「みさきまぐろきっぷ」のリニューアルを記念し、三崎口駅の駅名看板も期間限定で「三崎マグロ駅」に変身(筆者撮影)

京浜急行電鉄は10月5日、同社の看板商品ともいえる企画乗車券「みさきまぐろきっぷ」を大幅にリニューアルした。三浦半島までの電車とバスの乗車券、マグロ食事券、施設利用券がセットになったこのきっぷは、都心近くで気軽に海の幸を楽しみたい幅広い層の需要を取り込み、年々利用者数を積み上げてきた。今回のリニューアルで利用できる施設を拡充。同時に大胆な値上げに踏み切ったが、売れ行きは好調を維持しているという。

目玉は屋根なしの2階建てバス

リニューアルの目玉は屋根のない2階建ての「KEIKYU OPEN TOP BUS(オープントップバス)」の導入だ。座席指定制の有料列車「ウィング号」などで運用している同社2100形車両をモチーフにしたデザインで、前面にマスコットキャラクター「けいきゅん」の顔を大きく描いた。1階席は2100形に使用されているクロスシートの生地を使用、2019年のラグビーワールドカップ開催を記念した特別仕様のナンバープレートは「21-00」と細部にまでこだわった。

雨天・荒天を除いて三崎口駅から毎日3便を運行する。10時30分と12時30分に出発する城ヶ島までの所要30分の片道コースのほか、15時に出発する60分の周遊コースを設定した。のどかな田園風景や、宮川公園の風車、城ヶ島大橋からの海の眺めを、マイカーならば体験できない高さ3.5mの目線で楽しめるのが売りだ。周遊コースは帰りに相模湾沿いを通る。天候によっては富士山を眺められるという。定員は42人で、ガイドが乗車して見どころを紹介してくれる。


京急2100形車両をイメージした「KEIKYU OPEN TOP BUS」(筆者撮影)

このオープントップバスは、みさきまぐろきっぷの「三浦・三崎おもひで券」(レジャー施設の利用券)と座席指定乗車券を引き換えることでしか乗車できない。ここに同社がまぐろきっぷを三浦観光のマストアイテムに位置づけようとする狙いが表れている。拠点となる三崎口駅のロータリーには専用の案内所兼待合所を新設。さらに12月3日までの期間限定で、同駅の駅名看板のデザインを「三崎マグロ駅」と変えてしまうほどの力の入れようだ。

2009年に販売を開始したみさきまぐろきっぷは(1)発駅から三崎口駅までの京急線の往復乗車券と京急バスのフリー乗車券(2)まぐろ食事券(3)レジャー施設の利用券――を3枚1セットにした企画乗車券だ。

食事券は、名物オヤジで知られる「くろば亭本店」など、マグロ料理を出す約30の店からあらかじめ決まったメニュー1つを選べる。施設利用券には水中観光船「にじいろさかな号」やレンタサイクル、複数の入浴施設が選択肢にあり、お土産にも引き換えられる。食事とレジャーを自由に組み合わせて、多種多様にカスタマイズできるのが特徴だ。

リニューアルで14%の値上げ

品川駅発の場合、通常は三崎口駅でバスに乗り換えて三崎港まで行くと、往復の交通費だけで大人1人当たり約2500円かかってしまう。リニューアル前のまぐろきっぷの値段は、品川・京急蒲田・京急川崎のいずれの駅から乗っても3060円。この金額で食事とレジャー施設の利用(またはお土産)まで付いてくるのだから、おトク感は際立っている。

窓口に並ばずに自動券売機で買える手軽さも好評で、発売当初の2009年度に1万6000枚ほどだった販売枚数は年々増えていき、2016年度には15万7461枚を記録した。テレビの情報番組などでも度々取り上げられ、知名度アップに拍車がかかったという。

京急電鉄は今回のリニューアルに伴ってきっぷの値段を改定した。品川発の場合は大人3500円で、従来に比べ440円(14%)もの値上げになる。


10月5日の「KEIKYU OPEN TOP BUS」運行開始記念式典。三浦市と横須賀市の市長も駆け付けた(筆者撮影)

ただし、販売枚数については強気の姿勢を崩さない。原田一之社長は10月5日、三崎口駅で開いた記念式典で「今年度は20万枚に届くのではないか」との見方を示した。前年度実績を2割強上回り、過去最高を更新するとの見立てだ。

同社によると、今年度は上半期(4〜9月)だけですでに12万枚弱を売り上げた。リニューアル後の10月は天候不順で苦戦したもようだが、冬季でも2月には河津桜のシーズンの需要が見込めることから20万枚は達成できるとみている。

値上げの理由はバス以外にも

京急電鉄の営業部担当者は「値上げは何もオープントップバスのためだけではない」と説明する。今回、バスのフリー区間を三崎口駅の北西方面にある横須賀市の体験型施設「ソレイユの丘」の周辺にまで広げたほか、オープントップバス以外にも、ソレイユの丘の遊具チケットや日帰り入浴を新たにレジャー施設券の選択肢に追加。食事場所は「まぐろ3点盛り合せ定食(さざえの壺焼付き)」が食べられる城ヶ島の「濱田屋」など4カ所を加えた。

同社は2016年からまぐろきっぷが利用できる飲食店や施設の混雑状況を、ウェブサイトと三浦海岸・三崎口の両駅に設けた液晶モニターで確認できるようにしている。「空席有り」から「待ち時間2時間以上」まで6段階で表示する仕組みだ。

まぐろきっぷは1日の販売枚数に上限を設けているわけではなく、利用する店舗も自由に選べる。このため休日や行楽シーズンには人気の店舗や施設に客が集中してしまう事態が起きやすい。きっぷの認知度が上がるに従い、混雑する場所が増えてきているのは悩みの種だ。今回のリニューアルによる対象施設の拡大には、選択肢を増やして利用客を分散させる狙いもある。値上げ分の一部は従来からある施設の「分け前」を上乗せすることにも充て、サービス向上につなげるという。


今年2月に運行した「みうら河津桜号」。車内で琴や尺八の演奏を聴きながら三浦半島へ向かう。参加者には「みさきまぐろきっぷ」が配られた(筆者撮影)

京急グループは2016〜2020年度の中期経営計画で「都市近郊リゾート三浦の創生」をエリア戦略の重点テーマに掲げている。この数年、イベント列車などを通じ、改めて三浦半島への送客に力を入れてきた。河津桜が見頃を迎える時期には、琴や尺八の生演奏が走行中の車内で楽しめる「みうら河津桜号」を運行。昨年夏には水着のファッションショーを車内で繰り広げる「京急マーメイドトレイン」を走らせて話題を呼んだ。

一方、今年2月には三崎の産直センター「うらりマルシェ」との共同企画として、品川駅3番線に停めた電車の車内に海産物・野菜を並べた「京急うらりマルシェ号」を開催。三浦半島の魅力を発信しようと、あの手この手で取り組んでいる。

地域活性化のヒントになるか

沿線の活性化には地元の積極的な協力が不可欠だ。原田社長は10月5日の記念式典で、三浦半島の観光活性化に向けて「われわれもできるかぎりのことをやっていきたいが、三浦半島全体が連携していくことが非常に重要だ」と強調した。実際、オープントップバスの導入にあたっては「道路の脇に大きな木があったりして、三浦市や神奈川県、警察に協力をいただいてルートを確保した」(道平隆・常務取締役鉄道本部長)といい、行政の理解があってこそ実現できた。

式典に出席した三浦市の吉田英男市長は、まぐろきっぷについて「『電車賃タダ』くらいのサービス商品だと思う」と褒めちぎった。そのうえで、市内を走る路線バスを例に挙げて「(本来利用者の少ない)日中の時間帯でも多くのお客様に乗っていただいていると実感している」と需要掘り起こしの効果を指摘する。

鉄道会社と地元の店舗・施設、行政が連携して企画乗車券を盛り上げ、沿線外から人を呼び込むことで地域のにぎわい創出につなげる。鉄道利用人口の減少への対策が全国的な課題となるなか、まぐろきっぷの成功は沿線活性化策を検討するうえでのヒントになるのではないだろうか。