日本消費者連盟には「近隣の洗濯物の香り」に関する相談が相次いだ(写真:プラナ / PIXTA)

香りに害と書いて「香害(こうがい)」――。今、香水などの香料による体調不良を訴える人が増えている。

中でも、やり玉に挙げられているのが、衣類の柔軟剤だ。さわやかな香りがする一方で、頭痛やめまい、吐き気などに悩まされるケースが出ている。NPO法人・日本消費者連盟(日消連)が今夏に2日間限定で開設した「香害110番」には多くの“通報”が相次いだ。

洗濯物の香りの相談が最多

「家の窓を開けると、隣の家に干している衣服から柔軟剤のにおいがして、頭痛が長時間続いた」「電車やエレベーターに乗ると、隣の人の衣服から柔軟剤のにおいがしてせきが止まらなくなった」

日消連にはこうした相談が213件寄せられた。その中で最も多かったのが、近隣の洗濯物の香りについてだった。日消連で香害問題に取り組む杉浦陽子氏は「今回寄せられた相談は氷山の一角にすぎない。化学物質による被害は誰にでも起こりうる」と警鐘を鳴らす。

柔軟剤は洗濯後の繊維を柔らかく保つ仕上げ剤。もともとは微香タイプが多かったが、2000年代半ばに海外製の香り付き柔軟剤が発売されると瞬く間に人気商品となった。これをきっかけに日本のメーカーも相次いで同様の商品を投入した。

その一方で、前述のような頭痛やめまいを訴える声が聞こえ始めた。2013年に独立行政法人の国民生活センターが柔軟剤に関する相談内容を公表したところ、同様の相談が増えていった。同年にはセンターに331件の相談があり、それ以降の相談件数も毎年100件超で推移している。


ドラッグストアやスーパーでは香り関連の製品がズラリと並んでいる(撮影:今井康一)

このような状況に柔軟剤メーカーはどう対応していくのか。

現在、各メーカーはテレビCMで「香りの感じ方には個人差があります。周囲の方にもご配慮のうえ、お使いください」といった文言を表示。ホームページには製品の香りの強さを表記するなどの対策を講じてきた。それでも国民生活センターや日消連に体調不良を訴える相談は後を絶たない。

消費者庁との話し合いも実施

ある柔軟剤の大手メーカーは「一企業として対応するのではなく、日本石鹸洗剤工業会(日用品メーカーなどで構成されている業界団体)で何らかの方針が出されたら、それに従うだけ」と素っ気ない反応を示す。

8月末には日消連など複数の団体と消費者庁との間で香害対策についての話し合いが行われた。日消連はそれ以降も要請を続けているが、現時点で具体的な対策案は提示されていない。香害対策について消費者庁は「議論は継続しているが、現時点で決まったものはない」と述べるにとどまる。

「今後は消費者庁だけではなく、文部科学省にも訴えていく。香り付き柔軟剤による体調不良を訴える声は、学校からも多く寄せられている。柔軟剤をやめよう、とまでは言えないが、香りに関するエチケットを教育する場が必要だと感じている」(杉浦氏)

需要がある以上、香り付き柔軟剤の商品はこれからも投入されるはず。メーカーや消費者庁による対策と同時に、一人ひとりが「香りのマナー」を意識しなくてはいけない時代に来ているのかもしれない。