東芝・綱川智社長(ロイター/アフロ)

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 テレビアニメ『サザエさん』(フジテレビ系)といえば、わが国を代表する長寿番組であり、日曜の夕刻は家族そろって『サザエさん』を見るのが、多くの家庭に浸透してきた習慣ともいえる。現在でも、関東地区で放映されるアニメ番組のなかで、『サザエさん』はトップの視聴率を維持している。その国民的アニメの知名度を生かして自社の宣伝を行ってきたのが東芝だった。1969年10月の放映開始以来、東芝はサザエさんのスポンサーにつき、今日までそれを続けてきた。 

 現在、東芝は不適切会計問題、米ウエスチングハウスの買収に端を発する巨額損失の発生によって、『サザエさん』のスポンサーからの降板を検討しているようだ。今年6月の時点で、東芝の綱川智社長はスポンサーを継続する考えを示していたが、事態はかなり厳しいことが伺われる。2018年3月末に東芝が債務超過(貸借対照表<バランスシート>の資産の合計価額よりも負債の額が大きく、資本がマイナスの状態)から抜け出せない場合、同社は上場廃止となる。上場廃止を回避できるか否か、先行きは見通しづらい。

●財務状況の悪化が止まらない東芝
 
 11月9日に東芝が発表した中間決算では、営業利益が2,318億円となった。前年同期に比べると1,386億円の増益が達成され、表面的に見れば東芝の事業は好調なように見える。

 しかし、業績回復は東芝が重視しているインフラ事業などからもたらされたものではない。業績の回復は東芝が売却を決定したメモリ事業に依存している。上半期の売上高2兆3,862億円のうち9,720億円が当該分野から獲得された。“新生東芝”を目指すための柱と考えられているインフラ、エネルギー等の事業は、事実上、収益に貢献できていない。

 すでに、東芝メモリは日米韓の企業連合に売却されることが決まった。いうまでもなく、東芝は収益の柱を失う。加えて、今回の決算では不動産の売却やスイスのスマートメーター会社であるランディス・ギア社の株式を売却したことも業績を支えた。この状況をまとめれば、東芝はリストラによって企業としての存続を成り立たせている状況にあるといえる。

 一方、株主資本は減少している。言い換えれば、東芝株を保有している投資家は、経済的な価値を失い続けているのである。今回の決算では東芝メモリの分割に伴う税負担(3,400億円)が計上されたことから、最終損益は赤字となった。その結果、9月末の株主資本はマイナス6,198億円となり、債務超過が深刻化している。

 東芝の財務内容がさらに悪化するリスクも軽視できない。特に注意が必要なのが訴訟関連などの費用が膨らみ、引当金の積み増しが必要になることだろう。機関投資家などの株主による損害賠償請求だけでなく、四日市工場を共同運営するウエスタンデジタルとの法廷闘争の動向も影響する可能性がある。

●東芝の上場廃止は回避できるか?
 
 東芝はメモリ事業の売却益をもとにして債務超過から脱却することを目指している。日米韓連合への東芝メモリの譲渡は、グロスベースで2兆円程度の売却益をもたらし、同社の自己資本はプラスになる見込みだ。現時点で、譲渡完了後の自己資本は3,300億円に回復する見込みだ。

 問題は18年3月末までに、メモリ事業の譲渡が完了し、想定通りに東芝の自己資本がプラスになるか否かだ。事業の譲渡は決定したものの、その実現には不確定要素が多い。現時点で上場廃止が回避できるかはわからない。上場廃止に追い込まれる可能性も排除はできないだろう。

 特に、日米欧中をはじめとする各国の政府が、東芝のメモリ事業の売却が独占禁止法に抵触するか否かをどう判断するかに関する不透明感は強い。基本的に、独占禁止法に関する判断には、早くても半年程度の時間がかかるといわれる。9月に東芝メモリの譲渡に関する決議が行われたことを踏まえれば、各国政府の認可が下りるタイミングは3月末ぎりぎりになると考えたほうがよいだろう。

 また、ネットワーク技術の発達と普及が進むなか、東芝メモリの売却によって特定の企業が半導体市場全体に影響を与えやすい状況が出現する可能性もある。中国のように、党主導で企業の経営拡大を重視している国の場合、そうした懸念はより強いものとなりやすい。譲渡は決定したものの、実際の売却手続きがどう進むかは見通しづらい。

 もし、来年3月末までに東芝メモリの譲渡が完了しない場合、東芝の債務超過額は7,500億円に達する見通しだ。17年3月末の債務超過額は5,529億円だった。既存事業で訴訟やリストラなどに伴う費用を吸収していくことは容易ではないと考えるなら、想定以上に債務超過額が膨れ上がることもあり得る。

●一段と厳しさを増す東芝の経営再建
 
 東芝内部でも、当初の計画に沿って債務超過を脱し、上場を維持することが容易ではないとの危機感が高まりつつある。すでに同社は想定通りに財務の立て直しが進まないリスクシナリオの顕在化に備え、資本の増強を検討している。第三者割当増資をはじめとする複数の資本増強策が検討されているとみられる。

 現時点で、東芝の資本増強に応じる投資家などは多くはないのではないか。東芝の置かれた状況は厳しい。メモリ事業を手放した後の東芝が、グローバル市場の中で存在感を示すことができるとは考えづらい。経営の存続が可能だとしても、同社が社会的な信用を取り戻すことは容易ではないはずだ。その結果、収益の改善を前提に今後の経営動向を議論していくことは現実的ではない。ガバナンス面についても不安が残る。冷静に考えれば、東芝の資本増強に応じることには、かなり慎重な判断が求められるだろう。

 最終的に、資本の増強に応じる可能性が高いのは、国内の銀行だろう。現時点で大手銀行(ホールディングスレベル)は東芝の上位株主に名を連ねている。東芝に倒れられると、銀行のバランスシートが傷む。足許の低金利環境のなかで銀行が収益を増やすことも容易ではない。多くの銀行にとって、その状況は避けたいはずだ。最終的に国内の金融機関が東芝を救済する可能性はあるだろう。

 ただ、それは延命にすぎない対応と考えられる。東芝は、一部の経営者の影響力が行き過ぎることを止めることができなかった。その痛手は大きく、最終的には収益の稼ぎ頭である医療や半導体関連の事業を切り売りするしかない状況に陥った。今後も、『サザエさん』のスポンサー降板などのコストカットや、資産の売却は続けられるだろう。それは、東芝という企業そのものがなくなっていくことにつながるかもしれない。
(文=石室喬)