ファナックの協働ロボ(同社本社工場)

写真拡大

 作業中、ふと顔を上げると隣で働いているのはロボット-。そんな工場が近い将来、一般化するかもしれない。人とぶつかっても危害を加えない“協働ロボット”が、次々と現れているからだ。従来のロボットとは異なり安全柵が不要なため、人と同じ空間に設置できるのが特徴だ。こうしたロボットに単純作業を任せれば、人はより器用さや創造性が求められる仕事に専念できる。人手不足が深刻化する中、ロボットの力を借りる新たな働き方が注目されている。

コンビニおにぎりを次々と
 陸、海、空の交通の便に恵まれ、数多くの工場が立ち並ぶ千葉県習志野市。市の北東部でコンビニエンスストア向けの食品などを生産するデリシャス・クックの拠点では、人とロボットが協働する新たなシステムが稼働している。ロボットは作業者のすぐそばに設置され、コンビニで販売されるおにぎりを次々とコンテナーに敷き詰めていく。一度に5個のおにぎりを掴み、「毎時3600個近くを処理できる」(同社関係者)という。

 ここで活躍しているのは、川崎重工業が開発した双腕型水平多関節(スカラ)ロボット「デュアロ」。衝突を検知する機能により、人などに触れると直ちに停止するのが特徴だ。このため十分なリスク評価さえ行えば、柵を設置しないでも利用できることが国の安全規則で認められている。デリシャス・クックは、この利点に目をつけた。

 「元々、ロボットの導入を想定して作った工場ではない」と、大和一彦社長はデュアロを選んだ理由を挙げる。作業環境確保などの理由から設備の設置スペースは限られており、ロボット用に安全柵を設けるのは事実上困難だ。デュアロなら、そうした
問題に悩む必要がない。

欧州メーカーが先行
 近年、デュアロのような人と協働できる産業用ロボットが続々と登場している。先行したのが欧州のメーカーだ。2009年にデンマークのユニバーサルロボットが協働ロボット「URシリーズ」を投入。ドイツのクカも早い段階で柵が不要な軽量ロボット「LBRイーヴァ」を提案し始めた。そして2015年になると、日本のファナックや川崎重工業、スイスのABBが参入。2017年には安川電機も同種の製品を発売するなど、協働ロボットはまさに百花繚乱といえる状況だ。

 その理由は、潜在需要の豊富さにある。デリシャス・クックの例からも分かるように、柵が不要になることでこれまでロボットを使いにくかった現場にも導入できるようになる。「安全柵で囲う従来の産業用ロボットは、製造業全体から見ればごく一部にしか適用できなかった。つまり人と協働できるロボットの需要は極めて大きく、今後ユーザー層が一気に広がるはず」と、あるロボットメーカー幹部は期待する。

人手不足が深刻化
 ユーザー側に目を移すと、人手不足はここ数年でさらに深刻化し、対策が“待ったなし”の状況にある。デリシャス・クックの工場がある習志野市周辺でも、「(企業間で)人の取り合いになっている」(大和社長)という。特に同社のような24時間稼働が必要な企業は、人手不足の影響が大きい。限られた人手で供給責任を果たすためには、新たな仕組みの確立が急務だった。

 「もっと多くのロボットを導入していきたい」。同社の若林裕執行役員生産本部長は、適用範囲の拡大に意欲をみせる。現時点ではおにぎりの一部工程に導入しているにすぎない。そのほかの弁当、サラダ、スープなど主力製品をほとんど人手に頼っており、自動化の余地は豊富に存在する。

完全自動化は想定せず
 ただ一方で、全工程を機械に任せる“完全自動化”は想定していないという。「人にしかできないことがまだ数多くある」と若林本部長は指摘する。例えば、ロボット導入先の候補に挙がっているスープの充填工程。同社はロボットが容器のセットと充填機の操作を担い、蓋閉めは人が行うシステムなどを構想している。

 こうした人とロボットが互いに支え合う仕組みを確立できれば、自動化の可能性が大きく広がることになる。従来は蓋閉めなど器用さが求められる工程があると、周辺の簡単な仕事も自動化できていないことが多かった。協働ロボットの出現により、一部の難しい作業だけ人に任せるシステムが、以前より構築しやすくなっている。

 とはいえ、本格的な普及にはロボット技術のさらなる進化も必要だ。「計量の機能がより充実すれば、食品業界でもっと用途が広がるはず」と若林本部長は注文をつける。協働ロボットの領域は市場拡大が見込めるだけに、ロボットメーカー同士の開発競争が激しい。こうした新たな現場ニーズにどれだけ反応できるかが、勝敗を分けるかもしれない。