わが家の近所のユニクロが無人で精算する「セルフレジ」になった。商品をカウンターに置くと、その情報をセンサーが読み取り、クレジットカードを入れると支払いができる。店員は横で見ていて、とまどう客を指導するだけだ。

 一部のコンビニで導入されているセルフレジは、店員がバーコードを読み取り、客が支払いだけを自動でやるものだが、これでは無人化できない。ユニクロのセルフレジは、商品の情報を無線ICタグで読み取るのが特徴だ。これは商品に小さな半導体をつけ、その情報を無線で飛ばすものだ。

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高コストの正社員が自動化のリターンを高める

 ICタグの技術は新しいものではない。20年ぐらい前にも「ユビキタス」などといわれ、いろいろな流通企業が試みたが成功しなかった。理由は簡単である。そのコストに見合うメリットがなかったからだ。当時もPOS(販売時点情報管理)システムはあったので、店員がバーコードを読み取る代わりにICタグを使う意味はなかった。

 最近セルフレジが増えたのは技術進歩もあるが、最大の原因は人手不足だろう。その原因は単なる人口減少ではなく、サービス業の非熟練化(de-skilling)である。レジのような単純労働は置き換えやすい。

 正社員のコストが高い日本は、自動化投資のリターンがきわめて高い。最近、銀行で大規模なリストラが相次いでいるのも、定年退職する銀行員の給料が特に高いからだ。決済業務はATM(現金自動預け払い機)などで完全に自動化できるので、銀行はすべて無人店舗になってもおかしくない。

 正社員に置き換わるのはパートタイム労働者だ。彼らの時給はセルフレジのような「機械との競争」で決まるので労働生産性に等しくなり、大きくは上がらない。その市場は急速に拡大しているので、慢性的に人手不足だ。

 他方で正社員の事務職は減り、高齢化で賃金は下がる。これが人手不足が続いても(正社員と合計した)平均賃金が上がらない原因だ。こういう現象(要素価格の均等化)は1990年代に中国が世界市場に参入してから始まった現象で、中国の労働者がセルフレジに置き換わっただけである。

電気自動車の鍵は配車サービス

 他方、こういう労働の変化を規制で止めている業界もある。トヨタが本腰を入れて日本でも電気自動車が話題になり始めたが、普及はほとんど進まない。自家用車では、航続距離や充電時間の問題がクリアできないからだ。これは技術というよりインフラ整備の問題である。

 2040年ぐらいまでの長期では、電気自動車の生産台数が内燃機関をしのぐという予想が多いが、本質的な変化は自家用車が(ウーバーのような)配車サービスや(レンタカーのような)カーシェアリングによる移動サービス(TaaS:Transport as a Service)に置き換わることだ。

 自家用車は、きわめて効率の悪い乗り物である。アメリカでも19世紀には鉄道が主要な乗り物だったが、自動車メーカーと石油資本が政治力で鉄道をつぶした。アメリカの田舎ではタクシーも拾えないので、遠いバス停まで行ってめったに来ないバスに乗るしかない。

 これに対して日本のように公共交通機関の発達した国では、電車とバスでほとんどの用は足りる。地方ではタクシーを使えばいい。週末の家族旅行はレンタカーで十分だ。もっている時間の3%しか使わない自家用車を「所有」する意味はないのだ。

 これまで車の共有は不便だったが、配車サービスの発達で飛躍的に楽になった。これは自動運転とともに発達し、コストは60%以上さがり、アメリカでは2030年までに90%以上の車がTaaSになる、というコンサルタントの予想もある。

 これは自動車業界にとって喜ぶべきこととも限らない。そうでなくとも都市部では「クルマ離れ」が進行し、2012年から乗用車の国内販売台数は減っている。この傾向は、配車サービスが普及すると、いっそう強まるだろう。

 こうしたオンデマンド労働は、未来の労働の姿である。ネットワークで情報を共有できれば、タクシー会社を法人で営業する理由はない。すべてのタクシーが個人タクシーになって配車ネットワークで動けば、移動コストは今の半分以下になる。

 中国では「滴滴」などの配車サービスの利用者が4億人以上に達するという。これは自家用車を買う経済力がないことが原因だが、中国政府は配車サービスと一体で充電インフラの整備も進めており、この分野で日本を圧倒する可能性もある。

自動車の「無人化」を止めることはできない

 ところが配車サービスの所管は国土交通省、電気自動車は経済産業省とバラバラだ。今年の国土交通白書では、配車サービスについて「安全の確保、利用者の保護等の観点から問題があり、極めて慎重な検討が必要」つまり何もしないと書いている。

 ウーバーは世界約70カ国でサービスを行っているが、日本ではタクシー業界が労使ともに強硬に反対している。政府の規制改革推進会議でも「ライドシェア」がテーマになっているが、業界は「違法な白タクだ」と反対している。

 もちろん現在の道路運送法では、白ナンバーの自家用車でタクシーを営業することは違法だが、白タクを規制したのは、タクシーは事後的に料金を払うのでバカ高い料金を請求されても拒否できないからだ。そういうトラブルは通信ネットワークで情報を共有すればなくすことができる。

 こういうとき業界が持ち出すのは「安全性」だが、それは業としての規制とは別の問題である。道路運送法を改正して白タクを合法化し、その安全性を監視すればいい。

 タクシーの業界団体は、農協とよく似ている。産業としては先細りで、規制強化で独占を守ることが利潤の最大の源泉なので、政治的なロビー活動は激しい。市場規模がGDP(国内総生産)の0.3%しかないタクシー業界が基幹産業である自動車産業を滅ぼすなんて信じられないだろうが、それが日本の現実である。

 配車サービスは、かつてインターネットが通信網をシェアすることで電話料金を大きく引き下げたのと同じ破壊的イノベーションである。それは最終的には自動運転と結びついて、セルフレジのような無人運転が可能になるだろう。

 独占利潤がなくなって産業規模は小さくなるが、価格が下がって消費は増え、サービス全体の規模は大きくなる。破壊的イノベーションを規制で止めることは既存企業を延命するだけで、結果的には業界全体がグローバル化の敗者になる。

 政府が「生産性革命」で生産性を上げることはできないが、規制や税制で下げることはできる。そういう障害をなくせば生産性は上がる。政府にできることはまだ多いのだ。

筆者:池田 信夫