トップピアニストの指の動きはしなやかかつ高速ですが、どのような世界を見ることでそういった超絶技巧が実現しているのかは常人には想像できないものです。プロのピアニストがいったいどこをどのように見ているのかをアイトラッキングカメラで撮影する実験が行われ、アマチュア上級者とは大きく違う目の動きをしていることがわかっています。

What Does a Pianist See? | Eye Tracking - Episode 1 - YouTube

プロピアニストのダニエル・ビリアフスキー氏。ピアノ歴は33年で、大学の教授やスタインウェイアーティストを務めています。



めがねタイプのアイトラッキングカメラを装着してピアノを演奏します。



「準備はいいかな?」



「カメラを見て」という指示が飛びます。



次に「他のところを見て」。ビリアフスキー氏の視線の先は、黄色のドットで示されます。



「あっちのカメラを見て」という最後の指示。アイトラッキングカメラは正常に機能していることが確認でき、準備が整いました。



鍵盤に指を置いて演奏を始めるビリアフスキー氏。



ゆったりとしたメロディーを奏でつつ演奏するビリアフスキー氏ですが、自分の手を直視することはほとんどないことがわかります。





演奏している場所とは大きく離れた場所に視線が飛ぶと……



手がその視線を追うように移動してきました。



演奏するピアニストは鍵盤をおぼろげに眺めており、手を見ているわけではないようです。





「今度は君もやってみるかい?」と、ピアノの奥に座る女性にビリアフスキー氏が話しかけました。



女性はシャーロット・ベネットさん。ビリアフスキー氏に2年間ピアノを教わっている生徒で、いわば「プロピアニストの卵」。ピアノ上級者であることは違いありません。



アイトラッキングカメラを装着してベネットさんが演奏を始めました。



ビリアフスキー氏に比べると、手を直接見ているシーンが多いことが確認できます。



「僕の想像以上に視線の動きが忙しいね」と感想を述べるビリアフスキー氏。



また、ベネットさんの視線の動く範囲が狭いことも指摘されています。



アイトラッキングカメラの映像が乱れていますが、これは、ミスをして顔を左右に振ったからだとのこと。



あらためて、ビリアフスキー氏の視界の様子。



鍵盤を幅広く使うダイナミックな楽曲でも、視線の先は手ではなく周辺のゾーンを行き来しています。



激しい目線と手の動きに「めまいがしそうだね」と笑う二人。



視線が左右の手の付近を行き来するように大きく動いている様子がわかります。









視線が手を乗り換えるように次々と移り変わる様子を演奏中には意識していないので、アイトラッキングカメラの映像はビリアフスキー氏にとっても非常に興味深いとのこと。



次に、「新譜の演奏」で実験。



五線の間をいったりきたりしますが、視線は楽譜を見るばかりで、鍵盤をみることはほとんどありません。





要所では鍵盤をちらりと見ますが……



一瞬の出来事で、視線はほとんど楽譜に向けられています。



「上下に動く視界が、曲が進むにつれて水平方向に移動しているね」とビリアフスキー氏。



続いてベネットさん。



ベネットさんの場合、視線は楽譜と鍵盤の間を行ったり来たりします。





ビリアフスキー氏に比べると、より手に注意を払っていることが確認できます。



講師の立場として見て、ベネットさんが鍵盤を見ることを心地よいと感じている様子が興味深いとビリアフスキー氏は述べています。



「決して君を責めているわけじゃないよ。ただ、より経験の多い僕にとっては、鍵盤を見ない方が、より鍵盤を感じることができて心地いいんだ」



アイトラッキングカメラで「ピアノを演奏中の視線の動き」を調べた結果は、以下の通り。ベネットさんが自分の手を見ている時間が42%あるのに対して、ビリアフスキー氏はたったの17%。ほとんど手を見ることなく、ピアノを演奏していることがわかりました。



さらに、ベネットさんとビリアフスキー氏の視線の動く範囲をヒートマップにしたのが以下の画像。ベネットさん(上)の視線は広い範囲をめまぐるしく動くのに対して、ビリアフスキー氏(下)は視線の動きが安定していることがよくわかります。