正規社員、非正規社員の問題は、経営者の考え1つでどうにでもなる(写真:saki / PIXTA)

社員が満足する職場環境づくりとは?


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経営者は、大きなことから小さなことまで、さまざまなことを考えなければなりません。取り組むべき大きなテーマの1つに、社員に安心して仕事に取り組んでもらえるような環境、職場、会社づくりがあります。

会社は、世のため人のためにあるといっても、やはりその根底である社員が満足し、納得する社内制度、職場環境をつくり上げていくことが必要です。そのために、どのような制度があるか。

いま、政府は「働き方改革実現会議」を設けて議論していますが、そもそも働き方を国が決めるのは、いかがなものかとも思います。そのようなことは、それぞれの経営者が率先して考えていくべきです。

派遣社員、アルバイト、パートタイマーなどの非正規社員が増えている点が問題になっていますが、解決策は経営者が決めるべきことです。非正規社員でよく仕事をしている人がいるならば、その人を正規社員にする規定を作ればいい。むしろ、どれほどの実力があるのか、どれほどの仕事ができるかわからない定期採用の正社員より、よほど信頼性、確実性が高いと思います。こうした採用は、私がPHP研究所の社長をやっていた頃は、大いに実施していました。

もちろん非正規社員の人の中には、正社員にはなりたくない、一定期間だけ働きたいという人もいますから、本人の意思を確認すること、あるいは派遣会社との調整が必須ですが、数多くのアルバイトの人、派遣の人が正社員になりました。また、正規の一般社員も、彼らと日常的に差別も区別もせず交流してくれていましたから、ほとんど問題は起こりませんでした。正規社員、非正規社員の問題は、経営者の考え1つでどうにでもなる。これは政府の責任ではなく、経営者のモラルの問題、人間観、人間性の問題だと思います。

働き方改革の中では、有給休暇の消化が少ないことも問題になっていますが、これも経営者の問題です。私は、有給休暇の範囲であれば理由なしでも無条件で許可するように人事担当者に伝えていました。休暇といえば、「誕生日休暇」を有給休暇に1日付け加えて取ってもらうようにしました。社員は、「自分の誕生日に休めるという制度」です。しかも、1週間の間で取らなければ無効にするとしましたから、多くの社員は週休2日の金曜日とか月曜日に移し、3連休にして確実に休んでくれました。

誕生日休暇は、社員の間で「バースデー休暇」と呼ばれていましたが、おそらく二十数年ほど前ですから、わが国で初めての休暇ではなかったかと思います。評論家の日下公人先生が「すごいね、そりゃ僕は初めて聞いた。名前はエグチ休暇とするべきですよ、全国に広がるといいね」と褒めてくれたことを覚えています。最近、当時の人事で採用を担当していた元女子社員が、「誕生日休暇を始めてから、就職希望者が十数倍に増えたんです」と笑っていましたが、そういう誕生日休暇も、なにも国から言われなくても、経営者の一存でいくらでも決めることができるのです。

PHP研究所の社長時代、社員で物故する人が4〜5人いました。それぞれお子さんが2人、3人といましたが、残されたお子さんたちに、返済無用の「渡し切りの奨学金」を出すことにしていました。金額は不確かですが、小学生に月3万円、中高生に月5万円、大学生に月10万円だったと思います。就学している間、最後まで支給し続けました。いわゆる「民間版教育無償化」です。遺族の方から大いに感謝され、昨年もその1人のお子さんから、「大学を出て、この度結婚することになりました。無事にこの日を迎えることができたのも奨学金のおかげです」と分厚い感謝の手紙が届きました。

また、病に倒れ、有給期間が過ぎて治療している社員にも、休職扱いではなく、給与賞与は全額支払うことにしました。むろん、当人、ご家族も喜んでくれましたが、社員全員が大いに共鳴、理解して協力してくれました。こういう制度は、社員全員の理解があってのこと。振り返ってみて、改めて当時の社員への感謝の思いを強くしています。

国や政府に決めてもらわなければできない?

実施してきたことを書き並べ、自画自賛しているわけではありません。要は、国や政府に決めてもらわなければできないというようなことではないということなのです。まして、法律で決めたら実施するという経営者がいるとすれば、その経営者の自立性、自主性のないこと、だらしなさは問題だと言いたいのです。

給料にしても、一国の総理大臣が経済団体に乗り込んで「労働者の賃金を上げるように」と言わなければ、上げない、上げられないというなら、経営者の恥と思わなければならないのではないか。そのふがいなさには、まったく言葉もありません。

松下幸之助さんは、1967(昭和42)年に「むこう5年で欧米並みの賃金に引き上げる」と宣言し、実際に実行しましたし、それ以前の1960(昭和35)年には「5年後から週休2日制を実施する」と宣言し、他社に先駆けて導入しています。これらも、なにも政府から言われたことでもありませんし、指導されたわけでもありません。

経営者が「やる」と決めたら、いくらでもできるのです。私も社員の年収を最も近い関係の大企業の、それぞれの社員の同期より10%多く支給することを実施しました。このようなことは誰からも要請されたことはありませんし、強制されたことでもありません。賃金をどうするかということも、政府や国の問題ではなく、経営者が社員にどれだけの満足を与えるかの意識、自覚にあると思います。

いくらでも社員にやる気を持たせ、誇りを持たせ、満足して仕事に取り組んでもらえる制度は考えられる。それを、「法律の問題」「国の問題」などと言い訳がましく言い募る経営者がいるとすれば、言い訳をするのではなく、堂々と闘えばいい。ヤマト運輸の故・小倉昌男氏のように担当官庁と「喧嘩(けんか)」すればいいのです

さまざまな工夫をして、社員に満足してもらえる職場、環境づくりを経営者が心掛ける。社員が喜んで仕事に取り組む環境をつくることを、経営者は怠ってはいけません。社員あっての会社だからです。

経営者が「働きやすい環境づくり」に取り組めばいい

これからの経営者も時代を先取りして、どんどん社内の環境づくり、社員が満足する「働きやすい環境づくり」に取り組めばいいのではないかと思います。たとえば、よく言われるように、テレワーク。「在宅勤務」を積極的に取り入れる。BARIS(バリス)革命(Big-Data、AI、Robot、IoT、Sharing-Economyの頭文字)の時代が指呼の間でやってくることを考えれば、すでに取り組んでいる会社もありますが、先端的にテレワーク、在宅勤務に切り替えていく。

また、転職をしやすいように、受け入れやすいように「再入社制度」を実施する。退職して5年以内であれば、また戻ってきたいという人材を無条件で受け入れる。その社員は5年間、「板場の修業」に出していたと思えばいい。そのあいだに、その社員はさまざまな人脈を築いているかもしれません。自社にない新しいスキルを身に付け、あるいは自社にない視点を持つようになっているかもしれません。喜んで転職させ、喜んで受け入れる。そこに、今の自社にはない異質の文化が入って、非連続的な、異次元の発展につながるかもしれません。なにより、社員も喜ぶでしょう。大いにやる気を起こすでしょう。

保育園不足も課題になっていますから、職場に「保育室」を設けるという知恵もいいかもしれません。これは、すでに実施している会社があります。男性社員、女性社員を問わず、その子どもたちを預かる。そうすれば結婚しても、安心して子どもをつくり、また、出社しても、落ち着いて仕事に取り組めるわけです。

加えて、保育士資格を持った社員を採用し、その保育室で3年間勤務してもらう。そのあと通常勤務に戻る。あるいは、外部の保育園に出向させる。会社名を背中に書いた上着でも着て保育活動をすれば、責任感も一層高くなるでしょう。その3年間が空白になる、本人にとってマイナスになるということはありません。スポーツ選手を自社の宣伝で入社させ、7年間も実務から離れた社員が、のちに重役になった例はいくらでもあります。

こちらはルールの問題もありますので簡単ではありませんが、社外役員も廃止するべきではないでしょうか。おおよそ日本において、社外役員ほど役に立たないものはありません。たまにしかその会社に接しませんし、社員と同じ空気を吸ってもいないのに、的確なアドバイスができるはずもありません。アドバイスを得たいなら、そのときに聞きたいテーマにふさわしい他社の役員に、そのつど来てもらって話を聞けばいいことで、私の経験からは、そのようなポストが必要であるとは到底考えられません。それならば、社員を役員にしたほうがいいと私は思います。

まだまだ、いろいろな「よき環境づくり」のアイデアはありますが、要は、政府や国に頼ることなく経営者の意識次第で、いくらでも、新しい働き方、社員の働く環境づくりはできるということをお伝えしたいと思います。