自らのファッションスタイルを持っている2人に「自分のスタイルの作り方」を聞く

黒いセーターとジーンズがトレードマークだったスティーブ・ジョブズ氏、ボブとサングラスが特徴の『ヴォーグ』編集長、アナ・ウィンター氏。際立つ仕事をする人たちは自らのファッションスタイルを持っている。
『おしゃれはほどほどでいい〜「最高の私」は「最少の努力」で作る〜』で装うことの楽しみを説いたシンガーの野宮真貴氏と、新しいアルバム『野宮真貴、ホリデイ渋谷系を歌う。』で1曲デュエットしたクレイジーケンバンド・横山剣氏という同い年のおしゃれアイコン2人が、「自分のスタイルの作り方」を語り合った。

コスプレのようにまねをし続けた

野宮 真貴(以下、野宮):私は好きなミュージシャンや女優さんのファッションやヘアメイクにあこがれて、いろいろな装いにトライしていったんですけど、剣さんはどうやって今のスタイルにいきついたんですか?

横山 剣(以下、横山):僕もコスプレに近いくらい、いろいろな人をまねしました。ファッションに目覚めたのは、小学生の頃に好きになったF1の影響です。レーシングドライバーのおじさんたちがものすごく格好よかったんですよ。そういう人のスタイルをまねしているうちに、年月が経ちました。

野宮:たとえばどんな方?

横山:北野元(もと)さんという、すごく速いドライバーがいまして、ファッションがイギリスのジョンブルっぽい感じだったんです。コールマン髭や、ハンチング帽が格好よくて、まねしました。ソウルマンが着ているシックスティーズ・スタイルやコンポラスーツにも影響されました。

野宮:小学生のときからおしゃれだったんですね。さすが。

横山:今以上に、ファッションに夢中だったかもしれないです。

野宮:1970年前後は、既製品でおしゃれな子供服がなかったですよね。私は北海道だったからなおさらで、洋裁が得意な母に「こういうのを着たい」とお願いして作ってもらっていました。母は、みんなと同じであることよりも似合う着こなしを大事にする人だったので、制服のスカートもどんどん丈を短くして、「こっちのほうがかわいい」って。それで先輩に目をつけられたりしたけど、このときに人と同じじゃなくていい、という哲学が身に付いた気がします。

母親に「VANに就職して」

横山:いい話ですねえ。僕は、石津謙介の「VAN」というブランドの子供ライン「VAN MINI」が好きだったんです。メンズショップで扱いがあったんですけど、高くてなかなか買えなかったので、仕事先を探していた母親に「VANに就職して」と言いました。社割目当てで。


野宮:社割なんて知ってたんですね(笑)。

横山:なんとなくあるだろうなと思って。ところが、VANは社員を募集していなかったんです。そこで、VANの取り扱いがある子供服売り場を調べたら、渋谷の西武デパートのB館4階に見つかったので、母親にそこで働けと言いました。そこはほかのメーカーも扱っているから、欲しいものがすべて社割で手に入るぞと。

そこで母親がパートで働き始めると、営業時間が終わる頃に店に行って、「これとこれが欲しい」と言って、社割で買ってもらってました。

野宮:お母様の巻き込み方がすごいですね(笑)。小学生の剣さんが、VANのお洋服を格好良いと思ったのはなぜ?

横山:やっぱりレーシングドライバーの影響ですね。日本のレース界に、ああいうスタイルの人が多かったので、ファッションをまねて、そういう人たちがたまっていそうな場所にストーカーしに行きました(笑)。ホテルオークラとか、飯倉のキャンティとか。

野宮:小学生で!?

横山:小学生で。当時は、パッとした人っていうのは追いかけても捕まらないスーパーな人だったので、「そうなりたい」というよりも、一方的にあこがれていました。あと、そういう男の人の周りには、野宮さんのようにすてきな大人の女性がいるんですよ。家に帰って母親に「こういう髪型の女の人がいた」と絵を描いて見せると「それはボブ」と教えてくれたりして。

野宮:剣さんとお母様の関係が面白いですね(笑)。

男性の「スーツ」、女性の「赤い口紅」


横山 剣(よこやま けん)/1997年に結成した「クレイジーケンバンド」のコンポーザー兼ボーカル&キーボード。「音楽ジャンルからの解放」をモットーとする全方向型音楽で、幅広い年齢層から人気を博す。また、数多くのアーティ ストへ楽曲提供、自叙伝『マイ・スタンダード』の執筆など、活動は多岐にわたる。クレイジーケンバンド全国ツアーも開催中

野宮:女性にとって、手っ取り早く美人になれるアイテムが赤い口紅だと思うんです。男性にとって、そういうアイテムってありますか?

横山:スーツがそうかもしれませんね。ある種、緊張感のあるものだからこそ、慣れが大事といいますか。Tシャツみたいに着倒すというか、カジュアルな服と同じようなシーンでも着てしまうとか、いい意味で雑な着方ができるようになったらすてきかなと思います。

野宮:わかります。新しいエッセイにも書きましたが、赤い口紅も、全部をきちんとお化粧してつけるとトゥーマッチになるけれど、薄いお化粧に赤い口紅をつけると、ぐっと洗練されて見えますからね。赤い口紅もスーツと同じで、とにかく毎日つけて、慣れることが大事です。

横山:舘ひろしさんや四方義朗さんのような感じですよね。スーツに対して緊張感がありすぎると、いわゆる「着られている」七五三のような状態になっちゃいますし。

野宮:慣れって大事ですよね。まずは自分がその格好を見慣れてないといけないですし。でも、スーツを着ていれば男性はカッコよく見える分、それ以外のファッションがおかしなことになっている男性も多いですよね。剣さんは、ファッションで失敗したことってありますか?

横山:いっぱいあります。初めてトレンチコートを着たときは、その大げささに萎縮してしまって、似合わなかったですねえ。

野宮:トレンチコートは、女性にとっても、似合う1着を見つけるのが難しいアイテムかも。

横山:ハードボイルドな格好をしてみたかったんですけど、全然様にならなかった。野坂昭如さんみたいにサラッと着たかったんですけど。

野宮:野坂さん! サングラスもお似合いでしたよね。

横山:ラグビーやボクシングで鍛え抜かれた肉体と精神。要は中身が装いを突き抜けて出てくる格好よさがありました。

野宮:年齢とともに着こなせるようになるものってありますよね。トレンチコートに挑戦したのは何歳頃ですか?

横山:中学生でした。小学生の頃からずっと着たいと思ってて。

野宮:早い(笑)! 剣さんは「シンデレラ・リバティ」を作曲したのが17歳ですし、いろいろと早熟ですよね。

自分のトレードマークの見つけ方

野宮:私、著書の『おしゃれはほどほどでいい』に「トレードマークはスターだけの特権ではない」ということも書いたんです。自分のテーマカラーを決めたり、毎日ワンピースだったり、同じ柄を着続けたり、自分が好きなものを貫き通すと、それがトレードマークなると思います。剣さんでいえば、帽子とサングラスですね。

横山:僕も好きなものを身に着けていたら、結果的にトレードマークになったパターンですね。帽子を被らず丸坊主のときもありますし、サングラスをしないときもありますが、8割方がハットとサングラスなので、そうなりました。先日、F1日本グランプリの決勝で、レース前に「君が代」を歌ったときは、TPOをわきまえないのも粋じゃないなと思って、サングラスではなく素通しの眼鏡をかけて、脱帽しました。

野宮:サングラスも最近、だいぶかける人が増えましたよね。

横山:自分は目のデザインにあまり自信がないので、サングラスが楽なんです。目線が泳いで挙動不審になりがちなので、キョドリ隠しです(笑)。野宮さんは目もすてきですし、サングラス姿も格好いいです。

野宮:サングラス、大好きです。かけるだけで顔の印象を変えてくれますし、もはや洋服の一部だと思ってます。あと、夜にかけるサングラスが好き。

横山:なぜですか?

野宮:え? なんだか格好いいから(笑)。男性は女性よりもファッションで遊べるところが限られてしまいますよね。あとはネクタイとか靴くらい?

横山:そうですね。ネクタイは差し色として、気分に合わせて選んでます。

野宮:女性だったら、ジャケットの襟に毎日違ったブローチをつけたりするのも楽しいですね。その日の予定に合うもの選んだり。好きなものがトレードマークになっていくのはすてきだなと思います。ただ、好きなものと似合うものが違うときもあるので、客観的な意見も大事。


横山:特に、好きな色と、自分の肌の色との相性は、自分ではわからないところがあるので、そこは客観的な意見を参考にしたいです。スタイリストとか、会社の仲間とか。この仕事だと、初対面のスタイリストさんが用意してくれたものを、まな板の上の鯉状態で着ることもあるんですけど、それも楽しいです。「こんなふうになるんだ」って。

野宮:新しい発見をしたいときは、1回リセットするといいと思います。「この人すてきだな」と思うお友達に、お店を教えてもらったり、お買い物に付き合ってもらったり。そこで、店員さんに相談しながら一式そろえれば、そこに合うアイテムを買い足していくことで、ずっとおしゃれでいられると思います。

横山:なるほど。プロの人をうまく使うのはいいかもしれないですね。

(構成:須永貴子、撮影:菊岡俊子)