トランプ大統領は訪日中に日本がアメリカから兵器を大量購入することを期待する発言をした。その発言にタイミングを合わせるかのように、日本国防当局は、かねてよりアメリカから購入する意向を明らかにしていた超高額兵器「イージス・アショア」弾道ミサイル防衛システムを、秋田県と山口県に設置する最終調整を進めていることが明らかにした。

 イージス・アショアは、これまで弾道ミサイル防衛システムを手にすることがなかった陸上自衛隊が担当するという。これで、海自、空自そして陸自すべてが弾道ミサイル防衛という“偉業”の当事者となる態勢が確立することになる。

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「二段構え」という宣伝文句のまやかし

 日本国防当局によると、「イージス・アショアの導入により現在二段構えの弾道ミサイル防衛態勢が三段構えになる」という。だが、これは詭弁に近い表現だ。

 国防当局は、現行の海上自衛隊イージスBMD艦(弾道ミサイル迎撃バージョンのイージス武器システムを搭載した駆逐艦)と、航空自衛隊PAC-3システムによる弾道ミサイル防衛態勢を“二段構え”として宣伝している。つまり、「まず日本海海上で待ち構えるイージスBMD艦から発射されるSM-3迎撃ミサイルで弾道ミサイルを撃墜する。その段階での迎撃に失敗した場合は、地上で待ち構えるPAC-3システムから発射されるPAC-3迎撃ミサイルで飛来してくる弾頭を撃破する」という。

現行SM-3による迎撃圏。現行SM-3の射程距離は1200キロメートル(赤円)だが、弾道ミサイルの飛翔時間の関係上、500キロメートル(青円)〜600キロメートル(緑円)レンジで迎撃しなければならない。したがって、隠岐の島沖の海自イージスBMD艦で日本全域に向かってくる弾道ミサイルを迎撃できるように思われるが、実際には少なくともあと1隻、できれば合計3隻のイージスBMD艦が必要となる


 だが、これはあくまでPAC-3が配備され、迎撃態勢を維持している地点周辺20キロメートル圏内だけに限定されたシナリオだ。

 PAC-3システムによって弾道ミサイル(着弾直前の弾頭)を撃墜する確率は極めて高いとされている。1セットのPAC-3システムには、PAC-3迎撃ミサイルを16発搭載した地上移動式発射装置(TEL:トレーラーのような車輌)が2両所属しているので、計32発もの超高性能地対空ミサイルにより迎撃態勢を固めることになる。そのため、たしかにPAC-3システムは信頼に値するといえよう。

 しかしながら、PAC-3システムの迎撃性能が高い(とされている)ということは、弾道ミサイルを日本に撃ち込む側が、PAC-3が展開している場所を狙わないことを意味している。機関銃弾のように数万発、数十万発を発射することができない“なけなし”の弾道ミサイルをPAC-3によって撃墜されてしまっては元も子もない。よって「PAC-3システムを配備した場所には弾道ミサイルは飛んでこない」──これこそPAC-3の抑止力である。

 現在、航空自衛隊が保有しているPAC-3システムは18セットあるが、うち1システムは教育訓練用(このような予備セットはいかなる兵器にも必要)であり、即戦態勢はとられていない。したがって、陸上を移動して配備することが可能なPAC-3システムで防御できる地点(半径20キロメートル)は、全国で17カ所ということになる。

 それら17セットのうち2セットはアメリカ軍の重要航空基地が集中している沖縄に常備されている。また、これまでのPAC-3展開事例をみると、防衛省をはじめ中央指揮統制機能を防御するために防衛省本省敷地内、朝霞駐屯地内、習志野駐屯地内にそれぞれPAC-3システムが展開している。

現在、PAC-3防衛が保証されている7カ所の地点(小さな赤円内)


 そして、今後日本に対する弾道ミサイル攻撃が予想される局面においては、弾道ミサイル追尾情報に必要不可欠なアメリカ軍の弾道ミサイル防衛用Xバンドレーダー(AN/TPY-2)を防御するために、青森県車力と京都府経ヶ岬にもPAC-3システムを展開させる必要がある。

 したがって、それらの“予約済み”配備地点以外に展開配備可能なPAC-3システムは、全て稼働状態にある場合で10セット(教育訓練用を実戦配備すれば11セット)、という計算になる。

 このように、「日本の弾道ミサイル防衛態勢は(現時点では)二段構え」という表現は、首都圏中心部、沖縄の米軍基地周辺部、米軍Xバンドレーダーサイト周辺部、そして“幸運な”10〜11地点だけに当てはまるだけであり、まやかしに近い表現といえるのだ。

「三段構え」にはならない理由

 日本国防当局は「現在二段構えの弾道ミサイル防衛態勢を、三段構えにして迎撃可能性をより一層高める」ためにイージス・アショアの導入を急いでいる。

 しかしながら、現在の弾道ミサイル防衛態勢は、上記のようにごくわずかな地点を除いては海自イージスBMD艦による一段構えに過ぎない。それも、複数のイージスBMD艦が日本海や東シナ海に展開している場合に限定される。そこで、イージス・アショアを秋田県と山口県に設置して、イージスBMD艦による一段構え態勢を補強しようというわけである。

 現在4隻が運用されているイージスBMD艦の場合、軍艦という性格上、4隻全部が常時出動しているわけではない。それと違って、青森県と山口県に建設される「弾道ミサイル防衛基地」に設置されるイージス・アショアは、常時日本海を越えて飛来する弾道ミサイルに即応することが可能である。したがって、イージス・アショアの導入が、イージスBMD艦による迎撃態勢を強化することは確実だ。

 ただし、イージス・アショアによって日本に飛来する弾道ミサイルを迎撃するためには、飛来する弾道ミサイルをできるだけ早く探知しなければならない。北朝鮮ならびに中国(満州地方)から発射される弾道ミサイルは、わずか7〜10分程度で日本に到達してしまう。そのため、発射された弾道ミサイルを探知し、その飛翔データを秋田県と山口県に設置されるイージス・アショアに伝達するための「前進センサー」、すなわち現在6隻が運用されているイージス駆逐艦を少なくとも2隻は日本海に展開させておく必要が生ずる。したがって、イージス・アショアを導入したからといって海上自衛隊の防衛資源の節約には繋がらない。

 また、イージス・アショアは、イージスBMD艦に積載されている各種弾道ミサイル用センサーや武器システムを、地上に建設された固定基地に基本的にはそっくりそのまま陸揚げしたシステムである。迎撃用ミサイル(SM-3対空ミサイル)も共通であるし、弾道ミサイルを迎撃するポイント(上空で弾道ミサイルを撃墜する位置)も共通である。したがって、現在運用中のイージスBMD艦を2隻、秋田県と山口県に陸揚げして固定しただけということに等しい。

 つまり、確かに迎撃戦力強化にはなるが、イージス・アショアと競い合っていたTHAADシステムとは違って、「二段構えを三段構え」(実際には「一段構えを二段構え」)にするような強化策ではないのである。

アメリカの売り込み戦略に乗った日本

 トランプ大統領が日本政府に対して弾道ミサイル防衛システムのようなアメリカ製兵器の購入を期待する意向を示す以前から、日本政府は、オスプレイ中型輸送機、F-35A戦闘機、AAV-7水陸両用装甲車、そして弾道ミサイル防衛システムなどの超高額兵器の輸入を積極的に推し進めてきた。

 とりわけ、北朝鮮によるアメリカ本土攻撃用のICBMの完成が近づくにつれ、日本政府も日本のメディアも、あたかも日本に対する軍事的脅威は北朝鮮弾道ミサイルだけかのように、北朝鮮弾道ミサイルの脅威を声高に叫びはじめた。

 しかしながら、たとえ北朝鮮軍が日本を攻撃可能な弾道ミサイルを200発あるいは500発を手にしようとも、金正恩政権がそのような軍事的脅威を背景にして日本に政治的要求を突きつけたり、ましていきなり日本に弾道ミサイルを撃ち込む動機などは存在しない。

 北朝鮮による対日弾道ミサイル攻撃は、アメリカが北朝鮮を軍事攻撃したときにのみ現実のものとなる。その点は、日本にとって深刻な潜在的脅威であり続けている中国の軍事的脅威とは大きく異なっている。

 したがって日本政府が何が何でも北朝鮮の弾道ミサイル攻撃を避けたいのならば、アメリカによる北朝鮮に対する軍事攻撃を抑制することが、最大の、かつ確実な弾道ミサイル防衛ということになる。

 それにもかかわらず、中国による重大な軍事的脅威などには目もくれず、アメリカの対北朝鮮軍事攻撃を容認し、アメリカ側の言いなりになって超高額なアメリカ製弾道ミサイル防衛システムを購入しまくるという姿勢は、どこの国家の防衛当局のものなのか不明であるとしか言いようがない。

筆者:北村 淳