2017年11月14日は、韓国の朴正熙(パク・チョンヒ)元大統領の生誕100年にあたる。

 様々な行事があったが、いまだに「経済成長を実現させた偉大な指導者」「独裁、親日、腐敗の象徴」というまったく相反する評価に分かれている。

 「こんなものをどうして作るんだ! 日本に行け!」「何を言ってるんだ、このアカどもが!」

 2017年11月13日、生誕100年の前日にあたるこの日、ソウル市の朴正熙記念図書館前で、銅像の除幕式が予定されていた。ところが、これに反対する市民団体などがデモをし、大混乱に陥った。

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銅像を巡るののしり合い 英雄か独裁者か

 「4メートルの朴正熙銅像に・・・2つに裂かれた大韓民国」

 11月14日付の「毎日経済新聞」はこんな見出しの記事を社会面トップに写真付きで掲載した。

 「英雄」か「独裁者」か。韓国では、この歴史的人物に対する評価がいまなお揺れている。

 朴正熙元大統領は、波乱に満ちた人生を送った。1917年、韓国東南部の慶尚北道亀尾(クミ)で生まれた。大邱(テグ)師範学校卒業後、一度は教員になったが、軍人を目指す。

 満州国陸軍士官学校を優秀な成績で出て、日本の陸軍士官学校に留学する。

 韓国が独立した後、韓国軍入り。少将だった1961年に軍事クーデターで政権を握った。その後、1963年から1979年10月26日に部下である韓国中央情報部長に暗殺されるまで、大統領として、長期政権を率いた。

 腐敗政権を倒し、北朝鮮に対抗しながら、経済開発を果たす。この目標のうち経済政策については、「漢江(ハンガン)の奇跡」といわれた高度経済成長を達成した。

 1961年から1979年までの間に、1人あたり国民所得は82ドル→1647ドル、輸出は4100万ドル→150億ドルへと急激に増加した。

 ソ連(当時)などの支援を受けて経済的に優位に立っていた北朝鮮を圧倒するほどの経済成長だった。

 強いリーダーシップで韓国を経済強国に育てた実績は、韓国内だけではなく海外でも高く評価されている。

 一方で、1972年10月に、「維新」を宣言し、憲法を改正して長期執権体制を築いたころから「独裁色」がさらに強まった。反対勢力を弾圧し、民主主義に逆行する強権政権を続けたことに対しては批判も根強い。

 朴正熙氏は、個人生活では悲劇に見舞われ続けた。

 1974年の8月15日、光復節(独立記念日)の記念式典。大阪府警の交番から盗まれた拳銃で在日朝鮮人が朴正熙大統領(当時)狙撃を企てた。この流れ弾にあたって夫人である陸英修(ユク・ヨンス)さんが死去した。

 5年後の1979年には、朴正熙氏本人も銃弾に倒れた。

 夫人が銃弾に倒れた後、「ファーストレディ」役割を務めたのが長女である朴槿恵(パク・クネ=1952年生)氏だった。「漢江の奇跡をもう一度」とばかり、朴槿恵氏は2013年に大統領に就任した。

娘が大統領である時期に生誕100年を迎えるはずが・・・

 本来なら、朴正熙氏の生誕100年の記念日は、娘である朴槿恵大統領のもとで祝うことになるはずだった。朴槿恵氏もこの日を夢見ていたはずだ。

 ところが、一連のスキャンダルが発覚して、朴槿恵氏は弾劾され、その後、収賄などで逮捕、起訴され、いまは拘置所で裁判を受ける身になってしまった。

 朴正熙氏の生誕100周年に合わせて、韓国では記念切手の発行が一度は決まっていた。ところが、政権交代を機に、これが取りやめになってしまった。

積幣清算

 文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、2017年5月の就任以降、「積幣清算」を最優先政策に掲げている。文字通り、積もり積もった弊害をなくすという政策だ。

 朴槿恵政権で起きたスキャンダルの背景には、長年の政経癒着がある。さらに経済の両極化の進行も、一部の特権層が不公正なやり方で利権を追求したことも一因だ。社会にはびこる、様々な長年の弊害を取り除く。

 文在寅政権は、こうした姿勢を強めている。

 その政策の一環として、朴槿恵政権時代の様々な問題を摘発している。最近は、この矛先がその前の李明博(イ・ミョンパク=1941年生)政権にまで向かっている。

 李明博政権時代の国防相が最近、軍のサイバー部隊を政治的に利用したとして逮捕されている。

 李明博元大統領は、2017年11月12日、文在寅政権の「積幣清算」について、「6か月間、見ていたが、これが改革なのか、政治的報復なのか、疑念を抱くようになった。いま、外交安保の危機に直面しているのに、軍組織や情報機関を無差別に不公正なやり方で捜査することで、安保を危うくしている」と述べた。

 「積幣清算」の狙いは、必ずしも、過去の保守政権の特定人物を標的にして攻撃することではないはずだ。

 文在寅大統領も「個人に対する処罰が狙いではなく、不公正な特権構造を直すことが狙いだ」と繰り返している。

 だから、「積幣清算」を掲げる文在寅大統領が、依然として70%もの支持率を維持している。

 多くの国民は、朴槿恵政権時代のスキャンダルに失望している。一部の特権層に富が集中している構造に怒りを感じている。

 公正な社会を実現するという意味では、「積幣清算」という政策に共感している。

 とはいえ、これが「政治報復」になってしまうことへの懸念もある。清算作業を進めれば、どうしても過去の政権や有力者に切り込むことが避けられないからだ。

 だから、「積幣清算」は、きわどい政策でもある。

過去の大統領をどう評価し、遇すべきか?

 韓国紙デスクはこう話す。

 「朴正熙氏の生誕100週年に、朴正熙氏を評価する団体と否定する団体がののしり合うことには、決して多くの国民が同意していない。一部の団体が『積幣清算』政策に乗って、過去の保守政権や『親日派』を攻撃している側面も否定できない。『積幣清算』が方向を見失うと、国民の間の対立を激化させる恐れもある」

 朴正熙氏の生誕100周年を迎えた2017年11月。まさにこの時期に、韓国では、過去の政権に対する追及が進んでいる。

 「朴正熙氏は、韓国経済の発展に大きく貢献した偉大な指導者だった。一方で、政権末期の独裁体制は、韓国の民主主義を後退させてしまった。この2つの相反する側面を持つ指導者だった」

 「どちから一方にだけ偏った評価を多くの国民はしていないはずだ。だから、銅像を巡って、衝突する様子を好ましいなどとは思っていない。『積幣清算』は、銅像に反対、賛成というような2分法を意味するのではないはずだ」

 40代の大企業中堅管理職はこう話す。

 過去の大統領をどう評価してどう遇すべきか――。

 暗殺、投獄、自殺…悲劇を繰り返してきた韓国のここ40年の「前職大統領の歴史」にどう終止符を打つか。「積幣清算」の大きな課題でもある。

筆者:玉置 直司