Al Gore(アル・ゴア)/1948年生まれ。1993〜2001年に米国副大統領。著書に『不都合な真実』など。「気候変動による危険に関する情報を世界に提供した」として2007年にノーベル平和賞を受賞(撮影:今井 康一)

アル・ゴア元米国副大統領は地球温暖化対策の重要性を訴え続けている。しかし、ドナルド・トランプ米大統領は今年6月、温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」から米国は脱退すると表明した。温暖化対策は後退してしまうのか。日本がなすべきことは何か。自ら出演した映画『不都合な真実2:放置された地球』の11月17日公開を前に来日したゴア氏に聞いた。

──「パリ協定脱退」を知ったとき、どのように感じましたか。

とても心配した。米国の脱退を理由に、ほかの国々も脱退するのではないかと恐怖すら感じた。しかし翌日には「パリ協定に残る」と多くの国々が表明してくれたので心底ホッとした。

米国では、カリフォルニア州やニューヨーク州など多くの州のほか、何百もの都市、何千もの企業のリーダーたちが「われわれは、まだパリ協定に残っている」と言ってくれた。米国法や国際法に従えば、米国がパリ協定を正式に脱退できるのは、2020年に行われる次の米国大統領選挙の翌日ということになっている。

トランプ氏と話すことはもうない

──トランプ氏の脱退表明にもかかわらず、米国の姿勢は変わらないのでしょうか。

今日現在、米国はパリ協定に合意した状態にある。2020年にトランプ氏に代わる新たな大統領が選ばれ、その新大統領が再びパリ協定に参加したいということであれば、その手続きをすればいいだけだ。

──トランプ氏とは、パリ協定脱退が表明される前に話す機会があったようですね。再び話し合いの場を持つことはありますか。

ないだろう。温暖化対策と気候変動を改善するために何をするべきか、自分の話せることはすべて伝えたし、彼も納得してくれたと思っていたが、そうではなかった。

──映画の中で「米国は温暖化対策あるいは気候変動対策において世界のリーダーであるべきだ」と語っていました。

私はそう願っている。米国は過去70年間、世界において重要なリーダーシップを発揮してきた。トランプ氏がそれをやめたいと思っても、多くの米国人はそう思っていないだろう。米国人は今、岐路に立たされている。トランプ大統領という「実験」を続けるのか、考えなければいけない。

――そうした中で、今後米国の環境政策においてキーマンとなるのは誰でしょうか。

上院議員、そして下院議員にも頼りになる人物が何人かいる。カリフォルニア州のジェリー・ブラウン知事も地球温暖化対策におけるすばらしいリーダーだ。また、マイケル・ブルームバーグ前ニューヨーク市長も、この分野でめざましい成果を挙げている。草の根活動も進んでいて、私にインスピレーションを与えてくれる活動家が各地域に育っている。

化石燃料業界はウソを喧伝している

――地球温暖化対策におけるゴアさん自身の最も大きな功績は。


ゴア氏は現在でも積極的に、温暖化の影響を受けている「現場」を訪れている(『不都合な真実2:放置された地球』©2017 Paramount Pictures. All Rights Reserved.)

温暖化について科学者が予想し、警鐘を鳴らし続けてきたことを、シンプルな言葉に「翻訳」し、多くの人に伝えるという点ではそれなりの成果を挙げているのではないか。幸運なことに、私がわかるまで何度も我慢強く説明してくれる科学者と多く巡り会うことができた。

──温暖化対策に取り組む中で、壁と感じていることは何ですか。

温暖化の最も大きな原因となっている化石燃料業界は、非常に組織化されており、何百万ドルも使って人々から真実を隠そうとしている。かつて喫煙の危険性を欺くためにたばこ会社が雇ったのと同じ広報代理店を活用して、科学に関するウソを喧伝している。

巨大な環境汚染業者たちは、間違った情報を流すことによって、「環境問題はまだ考えなくてもいい問題だ」という考え方を人々の間に広げようとしている。これが私にとって最大の障害だ。

──どう戦いますか。

「炭素の価格付け(カーボンプライシング)」をもっと活用すべきだ。具体的には、炭素税(温暖化ガスの排出量に応じて課税するもの)もしくは、排出量取引制度(温暖化ガスの排出枠を決めたうえで、その枠を超過達成した分を取引する制度)だ。が、それよりも先に取り組むべきことは、石炭やそのほかの化石燃料を利用することに対する資金援助をやめることだ。

──温暖化対策で日本や日本人に期待することは何ですか。

日本は発展途上国の石炭火力発電所建設に対する支援を、世界で最も積極的に行っている。これはとてもショッキングなことだ。日本政府は納税者のおカネを石炭火力発電所の補助金に使うべきではない。事態を悪化させるだけだ。

日本には世界に知られる技術力がある。太陽光発電や燃料電池、電気自動車などの技術は、世界的にもエキサイティングな進化が続き、価格が下がっている。こうした技術的な進化は、環境問題の最も有望な解決策と言える。技術大国日本は、この分野でもっと貢献できるのではないか。

──映画では、テスラCEO(最高経営責任者)のイーロン・マスク氏率いるソーラーシティ社や、スペースX社の活躍が目立っていました。

多くのハイテク企業がすばらしい役割を果たしている。そうした企業のCEOたちが環境問題への意識が高いのは、彼らの製品を使うことで「世界をよりよい場所にしている」という実感を得ている利用者がいるからだ。日本でも多くの企業が、環境問題の改善につながる製品の研究開発に相当の資金をつぎ込んでいると聞く。

インドの環境対策は米国や日本より進んでいる

──温暖化対策において、高い経済成長を目指す新興国と、低成長の先進国が足並みをそろえるのは容易ではありません。

新興国は、日米などとは異なる問題に直面している。環境問題へのスタンスは各国で決めるべきだ。新興国における貧困問題は深刻で、生活水準をまず引き上げなければならない。しかし、だからといって、われわれが過去に利用していた環境を汚染する古い技術を使う必要はない。21世紀の技術がある。

パリ協定で最後まで合意に反対していたインドも今は大きく変わった。石炭火力発電所の建設計画中止が相次ぎ、太陽光発電所が記録的な勢いで増えている。しかも、今後13年以内にガソリン車とディーゼル車の販売を禁止し、すべての新車を電気自動車にする、と発表した。今やインドのほうが米国や日本より環境対策を早く進めているのだ。