エリートとはフランス語のéliteが由来で、「選び抜かれた人」という意味だ。

日本で言われる“エリート”とは、学歴が高く且つ年収の高い男性を指す場合が多い。

東京大学出身、世界的IT企業のアメリカ本社への転職が決まっている亮介は、まさに世に言う”エリート”。

そんな亮介が、日本に一時帰国している半年の間に、日本での婚活を決意する。

しかし、亮介の婚活はなかなか苦戦を強いられた。

やっと出会えたと思った心惹かれる女性・香奈は、 「男関係が激しいと言う噂がある」と片瀬から告げられる。香奈に対して少し疑いつつも、その話を信じられない亮介だった。




「何をあげようか・・・」

亮介は銀座にある老舗デパートで、今年退官する大学教授へのプレゼントを探していた。

「ワインが好きだったからロブマイヤーのグラスにするか、あるいはモンブランの万年筆にするか・・・」

生活用品や文具などを探し回っていると、ある一角に、和物を中心とした催し物がされていた。その中に、鎌倉に店舗があると言う、和小物を取り扱っているお店の商品が並べられていた。

ーふぅん、和物も粋で良いかもな。

何気なく見ていると、そこには見覚えのあるポーチが並んでいた。

ーこれって、香奈ちゃんが持っていたポーチの柄と一緒だ。

そのポーチは、淡藤色と生成色の麻の葉模様の布に、引き手部分が特徴的な形をしたファスナーがついていた。思わず手に取ってまじまじと見ていると、店員の女性が寄って来て話しかけた。

「プレゼントか何かお探しですか?そちら、先日復刻した15年前に作られていたデザインで、職人さんの手縫いなんです。最近は若い人にも人気ですよ。」

「そうなんですね」と答えながら、首を傾げた。香奈は「おばあちゃんの形見の古い着物で手作りした」と言っていたからだ。

その時、タイミング良く香奈からLINEが届いた。

―来週の水曜日、時間ができたんですが、ご飯でも行きませんか?

もう来ないと思っていた香奈からのLINEに驚きながらも、この誘いに乗るかどうしようか返信に迷った。

しかし香奈の噂が本当か自分の目で確かめたかったし、もし本当ならばなぜ見抜けなかったのか、今後のためにもう一度確認しておきたいと思った。

―連絡ありがとう、水曜日、大丈夫だよ。


亮介VS香奈。亮介が「自分の目で確かめた真実」とは?


香奈が亮介に連絡した訳


「えー、もったいなーい。キープしとけばいいじゃん。」




そう言ったのは、大学時代からの香奈の悪友である芽衣だ。芽衣は早々に結婚したが、夫が海外出張で家をよく空けるため、今でも独身時代と変わらず香奈と一緒にお食事会などに出かける仲である。

「やっぱりそうかな?確かにあれから3回お食事会に行ったけど、全然良いと思える人に出会えなかった・・・」

「そうだよー、結婚してしまえばこっちのものだし、旦那なんて教育すればいいじゃない。その亮介って人、真面目なんでしょう?どうせ結婚して子供でもできれば、安定を求めるわよ。」

ーたしかに、一理あるな。

こうして香奈は芽衣の言葉に素直に従い、亮介と再び食事に行くことにした。



「レストラン選びのセンスも悪くないわね。」

『リストランテ ヒロ 青山』には何度か足を運んだが、大人な雰囲気と素材にこだわった繊細な味が楽しめるとあって、香奈のお気に入りの店の一つだった。

それに亮介の前では頑なに電車しか使わない香奈のために、駅近くの店を指定して来たのだろう。

店に着くと、すでに亮介が席に座って待っていた。その後ろ姿を見て、不覚にも“男らしくて格好良い背中だな”と思ってしまった。

「亮介君」と声をかけた時の香奈に向けられた笑顔を見て、“やはり自分に好意がある”と確信した。

ーもしかしたら、今日あたり何かアクションを起こしてくるのかしら?

今日も、昔祖母が買って使っていた変な着物柄のポーチを持って来ている。母が形見として貰った物で、手縫い物だと言っていた。

既製品のそれを母から借りて、祖母の着物で自分が手作りしたことにしている。男の人ってなぜか”手作り”とか"お婆ちゃんっ子"と言う言葉に弱い。



亮介にとって、今日のデートはこれまでと違う意味で大事だった。自分が見てきたものが本当なのか、見極めようと思っていたからだ。

「亮介君。」

そう言われて見上げた先に、亮介の知る、“素敵な女性”である香奈の姿が目に映った。

「今日は来てくれてありがとう!仕事が忙しくって、なかなか連絡できなくてごめんね。亮介君は、元気だった?」

1度目のデートの時と変わらない笑顔で話す香奈に、やはり片瀬の言う“噂”は何かの間違いではないか、誰かが香奈に嫉妬して勝手に言っているだけではないか、と思う。

いつものように取り留めのない話をしているうちに、亮介はあることに気がついた。

香奈には、瞳や綾乃に見られたような、女性特有のねっとりとした女の部分を感じない。また、彼女達のようにスキンシップもない。

ケタケタと飾らない笑い方にサバサバとした印象は、男友達といるかのように居心地がよかった。

それでいて、髪を触る仕草や時折見せる朧げな目が、女性らしい色っぽさを感じさせた。

ーやはり香奈は、僕が知っている“男性関係が激しい女性”の特徴とは違うな・・・

けれど亮介はこの後、あることがきっかけで香奈を疑い始める。


亮介が疑った出来事とは?


カバンの中から見えた物


帰り際、亮介が先にお会計を済ませていた事を知った香奈は、「え、でも・・・」と言って、財布を出そうとカバンを開けた。 その時、例のポーチがちらりと見えた。




ーやっぱり、柄もファスナーも一緒だ。

亮介が先日デパートで見た物と、そっくり同じ物に見えた。ファスナーの引き手金具の特徴まで同じデザインだった。

ーたしか、祖母の着物地を使った手作りだって言っていたよな?

普段なら気にも留めない小さな嘘だが、先日の片瀬の言葉から、香奈の全てが疑わしく思えて来た。

しかし、疑わしいのはこのポーチの件だけで、その他は相変わらず亮介には“素敵な女性”に思えた。素敵な、完璧な、隙のない・・・

ー香奈の本性がわからない・・・

そんなモヤモヤを抱えながら、駅まで二人で歩いて行った。

香奈はいつもタクシーを「もったいないから」と断って電車で帰る。そんなところも亮介がいいな、と思った要因だったが、今はこの行動すら疑わしい。

「今日はご馳走様。駅まで送ってくれてありがとう!次はどこか遊びに行きたいな。また連絡するね。」

そう言って、香奈は半蔵門線の渋谷方面のホームに降りて行った。

ー結局、何も分からなかったな。

そう思いながら携帯を見ると、昔バイトをしていた時に知り合った友人の健太からメッセージが来ていた。

-渋谷の『高太郎』で飲んでいるから、亮介も来ないか?

せっかく駅にいるし少しだけ参加しようと、亮介もホームに降りて行った。すると、遠くの方に香奈の姿が見えた。香奈は携帯で誰かと大きな声で話している。

ーなんか、さっきまでと雰囲気が違うな。

そう思った時、渋谷行きの電車が到着した。

すると香奈は、列や車内から降りてくる人達を無視して、我先にと、通話をしたまま車内に乗り込んで行ったのだ。

―えっ・・・。

車内から降りてきたサラリーマンらしき男性が香奈とぶつかって彼女を睨んだが、香奈は電話を切ろうとはしない。

先程までとは打って変わったモラルのない、自分本位な行動は、亮介の心を完全に冷めさせるには十分だった。

香奈の本性を知ることができてすっきりしたような、切ないような、見抜けなかった自分が情けないような、様々な感情が渦巻く。

ー片瀬さんの言っていた噂も、嘘ではないのかもしれない。

片瀬の話が、100%本当かどうかは分からない。面白おかしく、ちょっとした噂に尾ヒレがついてしまっているだけかもしれない。

しかしもう、真実はどちらでも良かった。

亮介は、全身の力が抜けるように「フゥッ」と大きなため息をつきながら、次の電車で渋谷へと向かう。香奈からお礼LINEが来たが、既読スルーした。



店に着くと、健太と黒髪の女性がカウンターで飲んでいた。

ーあれ?女性?

てっきり同じバイト仲間だった翔と飲んでいると思っていたのに。

「健太、久しぶり!」

その言葉に気がついた女性が亮介の方に振り向いた。その瞬間、亮介は驚きで息を呑んだ。

「・・・一ノ瀬さん・・・?」

▶NEXT:11月23日 木曜更新予定
新たな女性登場。健太と呑んでいた一ノ瀬さんとは?