度重なる故障に悩まされ、第33回大阪国際女子マラソンに復活を期す原裕美子さん=平成26年1月15日、東京都新宿区(寺河内美奈撮影)

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 スポットライトを浴びたかつてのマラソン女王が、コンビニエンストアで菓子パンなどを万引し、窃盗罪で有罪判決を受けた。

 陸上の世界選手権(世界陸上)の女子マラソン元代表で現在は無職の原裕美子被告(35)=栃木県足利市=は11月8日、法廷に立ち、トップ選手だった時期を含め、苦しんできた17年間の思いを吐き出した。何がトップランナーを転落させたのか−。

 原被告は8日午後、足利市の宇都宮地裁足利支部の法廷に立っていた。黒い細身のパンツスーツ姿。足利市内のコンビニエンスストアで今年7月、化粧品や菓子パンなどを盗んだとして窃盗罪に問われ、この日が初公判だった。

 防犯カメラの映像などから特定され、8月に逮捕された。「事件当時、たまたまボディーミルクが替え時で、お金を使うことが惜しいという気持ちがあった」

 「入れようと思ったときに防犯カメラが視界にあったが、捕まって早く楽になりたかった。ボディーミルクをカバンの中に入れた」

 盗んだときの様子を振り返ったその声はか細く、尋問には涙ぐむ場面もあったが、はっきりと答えた。

 検察側が読み上げた供述調書では「食べ吐きをすると気持ちが落ち着く。でも吐く物にお金を使うのが惜しい。捕まってもかまわないという気持ちでボディーミルクや飲料水、食べ物を盗んだ。1つくらいは払わないと店に申し訳ないと思い、パンだけ払った」。

 トップ選手時代から

 万引はこれが最初ではなかった。検察側の冒頭陳述によると、2度の罰金刑が確定。今回は6回目の摘発だった。

 きっかけは、トップ選手だったときに発症した摂食障害だった。窃盗は過食性の摂食障害にみられる典型的な特徴だという。

 平成12年、宇都宮文星女子高を卒業し、実業団のトップチーム、京セラへ。5年後の17年、初マラソンだった名古屋国際女子マラソンで初優勝した。彗星のごとく登場したシンデレラガール。同年の世界陸上ヘルシンキ大会への内定を獲得し、同大会ではメダルには届かなかったものの日本女子トップの6位入賞。19年の大阪国際女子マラソンでも優勝。同年の世界陸上大阪大会に出場した。

 だが、チームに入ってすぐに、過食と嘔吐(おうと)を繰り返す摂食障害に苦しみ始めた。体重制限などより厳しい環境で競技に取り組むようになり、輝かしい成績を残している陰で症状に苦しんでいた。「食べては吐いてストレスを解消していた」

 京セラを去り、22年には名伯楽、小出義雄代表率いるユニバーサルエンターテインメント(佐倉アスリート倶楽部)に移籍。同年の北海道マラソンで復活優勝を遂げたが、その後もけがに苦しんだ。

 25年、ユニバーサルエンターテインメントを退社し、生まれ故郷・足利市に戻った。私生活では昨年10月末、地元の男性と結婚式を挙げたが、入籍しないまま破局。原被告は「昨年結婚式を挙げたが、結婚詐欺に遭い、400万円の資金が無駄になった。つらい思い、悩みから解消されたかった」と述べた。

 弁護士は閉廷後、「自分が結婚資金を負担したけれど結ばれなかった。主観的に結婚詐欺と思ったのだろう」と説明している。

 父親は「最近は症状が出ていないと思っていた。警察が家に来たときはまたかと思った。3年半はそういうのなかったが」と振り返った。治療を試みたが、27年2月以降は通院していなかったという。

 万引「利欲的でない」

 初公判の法廷は、父親に対する証人尋問や被告人質問が行われ、即日結審。

 検察側は「動機が身勝手で再犯の可能性も高い」として懲役1年を求刑した。一方、弁護側は「実業団時代に極度の食事制限や体重制限から摂食障害となり、万引をするようになった。被害者との示談も成立している」と主張、執行猶予付きの判決を求めた。

 原被告は「しっかりと治療を続け、今後このようなことがないよう、事件のことを忘れることなく日々を過ごしたい」と更生を誓った。保釈後、入院治療を受けており、退院後も通院を続けるという。

 休廷を挟み、言い渡された判決は懲役1年、執行猶予3年(求刑懲役1年)。中村海山(かいざん)裁判官は判決理由で「自ら積極的に入院治療を行い、反省の弁を述べ、父親が通院に同行することを誓っていることなどから今回に限り、社会内で更生することを期待する」と述べた。「窃盗の常習性は顕著」と指摘した一方、摂食障害や精神的に不安定だった経緯も考慮、「利欲的とは言えない」とした。判決を言い渡された原被告は裁判官席に向かい深々と頭を下げた。

 (宇都宮支局 斎藤有美)