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出世できない人は、夜の社交場でもトンチンカン!? 銀座の高級クラブで、数多くの男性の酒席を彩ってきた伊藤由美ママ(クラブ由美)、望月明美ママ(ル・ジャルダン)、桃谷優希ママ(城)の3人に話を聞いた――。

■振る舞いを学び、男を磨き、きれいに飲む

リーマン・ショックに続き、東日本大震災で接待需要が激減したとはいえ、銀座の高級クラブには上場企業のトップや政治家、芸能人、スポーツ選手などステータスもカネもある、各界の一流の男たちが集う。そこには大人の社交の場として、男を磨くための礼儀作法が満ちあふれている。

「クラブは粋とダンディズムを磨く場所です。女性を口説く場所ではないし、お酒を飲むだけの場所でもないんです。男子力がそこで磨かれ、はじめて一人前の男として周りの立派な紳士たちと同じ場所、一緒の空間を楽しめるわけです。品格が伴っていなければ、店側から上客と思ってもらえません。ましてやお金の使い方を知らなければ、そういう一流の殿方とも会えませんから、若い方には男磨きの場にしていただきたいですね」

こう話すのは政界の重鎮や創業社長など政財界の重要人物が通う「クラブ由美」の伊藤由美ママだ。男の品定めのプロであるクラブのホステスと時を過ごすことによって自らを育て、自分の振る舞い方について学ぶ場でもあるのだという。そんな銀座の高級クラブのママたちは、出世する男、伸びる男、そしてダメになる男をどのように見分けているのか。

「酒席での立ち居振る舞いにその人の人間性の素の部分が出ると思います。普段は品性に欠けているけれど、酔っ払ったら品がよくなるといった人は、まずいません。お酒を飲むときの品性、『酒品』は、その人の本当の姿でもあるでしょう。偉くなる人、人の上に立てる人というのは、『ストレスを解消するためのお酒』『現実逃避のためのお酒』は飲みません。みなさん、酒席では楽しく、ご自身も粋に、ゆったりと寛がれています。きれいに飲めない人は、きちんとした仕事ができない人と思われてもしかたありません」

飲み方が粋できれいな人とはどういう人か。

「例えばお店が混んでくれば、『一人で飲んでいるから、ご新規さんの相手をしてくれば』と、ママやホステスを気持ちよく送り出してくれる。一方、無粋な人は、『こっちが先に来ているのだから、待たせとけばいいじゃないか』と周りを気遣えない。人はどちらのタイプと一緒に仕事をしたがるかといえば、答えはいうまでもないことでしょう」(由美ママ)

「きれいな飲み方が大切です」と話すのは、大企業の社長・役員から政治・芸能関係まで多数の紳士が通うクラブ「ル・ジャルダン」の望月明美ママだ。

「明朗会計でも高級クラブはそこそこ値段が高いのは確かです。長い時間座っていたいお気持ちはわかりますが、仕事のできる、出世街道を走っている人は長居されません。『お金』よりも『時間』を大切にされるからです。出世街道から外れたときに憂さ晴らしにこられて長時間飲んで、つい荒れてしまう人もいます。偉くなるために走っていたときにはこんな姿を見せなかったのに、『年を取られたんだな』と、悲しく感じるときもありますね」

偉くなれない人に限って、支払いが終わってからも居座って、さっと切り上げるスマートさがないという。

■「自分が楽しむ」ではなく「人を楽しませる」

デキる男は、仲間同士や女の子と会話を楽しむだけではなく、店の裏方の男性スタッフにまで「元気でやってる?」と言葉をかけ、ときには手土産に寿司折りを持ってくるといった気遣いを見せる。「お客様に気を使わせるなんてもってのほかですが」と前置きしながらも、そこに器量の違いが出ると話すのは、2年前に「バブル後、最短&最年少ママ誕生」と銀座雀の耳目を集めたクラブ「城」の桃谷優希ママだ。

「伸びる人は女の子の好き嫌いを言わず、どの子にも優しく、分けへだてなく接してくれます。ご接待のときにヘルプでつく子たちが一所懸命盛り上げてサービスをしてくれたほうが、ご自分の仕事の助けになることがわかっているからでしょう。大事なお客様にかわりはないのですが、いつも横柄な態度を取られていると、ホステスも人間なので本来の接待がやりづらいのも確かです」

もちろん差別はしないが、気持ちのうえで、つい、区別をしてしまうことがあるという。

明美ママは、「部下やホステス、スタッフといった立場の弱い者に厳しく接する人は、『仕事ができて出世しそうだな』とこちらが思っていても、いずれ落ちてしまう残念な人が多い気がします」と語り、こう続ける。

「接待の場で威張っていても、偉い人とはち合わせすると平身低頭し、人を見て態度を変える姿は、はたから『裏表があって、調子がいい人だ』とすぐに見透かされます。酒席では、人間性が垣間見えるものです」

優希ママも「そういう人は一度上にいっても、周りが付いてこないので、結局はダメになる印象がある」と指摘する。

伸びていく男は全員が楽しめるように、部下にも気配りを欠かさない。

「デキる上司が部下を連れてくるときは『お疲れさま。今日は遠慮なく飲んでくれ』と部下を接待しているのかと思えるくらい上司という顔をしないし、威張りません。気を使って遠慮する部下がいると『ちゃんと楽しんでくれよ、高いんだからな』と冗談まじりに言って、場を盛り上げるために一所懸命です。そして場が盛り上がってきたなと思われたら、『あとは頼んだね』と言って、部下を残してスッと帰られます」(優希ママ)

部下を抑えつけず、いいところを引き出そうと日頃から努めているのがわかるのだという。そういう人は店への目配りも万全だ。

「お店がすいていて盛り上がりに欠けるときに、『今日は俺のために貸しきりか』と言って喜んでくださる。そして『暇だから、今日はパーッといこうか』とシャンパンを開けてくださるようなお客様には、店中みんな、素敵と思わされます」(優希ママ)

■見られるのはブランドよりも日頃の手入れ

銀座のホステスは靴や時計で人を見分けるというが、高いものを身につけていればいいというわけではない。銀座のママは、「着るもの、身につけるものは人を語る」ことをよく知っている。「身だしなみで一番大切なポイントは、自己管理ができているかどうかの目安になる“臭い”です」と由美ママは指摘する。

「自分の臭いに敏感ということは、相手への気遣いができるということ。服装や持ちものなど洒落ているのに、自分が発する臭いに無頓着という人は自己管理ができていないということです。汗をかいたら人に会う前に制汗スプレーを一吹きする、臭いの強いものを食べたら歯を磨くなど、重要なのは不快と思われない努力をしているかということ。目に見えないものに気を配れることも、上の立場の者として必要な資質の1つでしょう」

では、外見についてはどういう点に気を付ければいいのだろうか。優希ママは「昔から『足もとを見る』と言われるように靴はまず見ますが、カバンも、隅っこが切れていないか、お手入れの状態を見ますね」と話す。

「使い込んで味が出ているものと、使いっぱなしで傷んでいるものとでは、質が全然違います。お得意先の会社に伺うときは会社の看板を背負っていくわけですから、擦り切れたカバンで行くのはどうかと思います。デキない人は他社に行く機会も少ないでしょうし、そのへんの気配りがわからないのでしょうね」

優希ママが話を続ける。

「洋服も、収入が高ければ高級ブランドをいくらでも買えるでしょうが、若い方ではお給料とのかね合いからして、いくら頑張っても限りがあります。そこで大事なのが、清潔感を保ち、身ぎれいにすることです。ヘアスタイルもそうですよね。営業であれば、前髪が目にかかるような髪形より、短髪にしたほうがすっきりして見栄えもします」

■褒め言葉は自分を映す鏡わが身を省みて

ただ、身だしなみで褒められたからといって油断してはいけない。ホステスは、けなすかわりに褒め殺すことがあるから、調子に乗るのは避けること。明美ママがそのニュアンスをそっと教えてくれる。

「身につけているものを褒められたからといって、その気にならないほうがいい場合もあります。プロの目を持つホステスさんは、『あらっ』と思うものは、とりあえず褒めておきます。『このネクタイ、ちょっと変だな』と思っても、『どこのネクタイですか。やっぱり素敵!』って一応、興味を示します。それを真に受けて、次々と変わったネクタイをして店にいらっしゃるのもいかがなものかと思いますね」

褒めるのも、褒められるのも難しいものだが、「褒めるプロ」でもある明美ママはどう褒めるのだろうか。

「いくら上手に褒めても、やはり心がなければ“おだて”になってしまい、喜ばれません。だから、心から褒めたいことを見つけ、具体的に褒めることが重要です。とある社長さんから『ママは優しい顔をしているね』と言われたときはめったに言われない言葉ですし、妙にうれしくなりました。『優しい』とか、あるいは『人情味がある』という言葉は、男女問わず相手を褒めて喜ばせるキーワードかもしれません」

■粋か野暮かお金の使い方も問われる

時代が変わったとはいえ、銀座のクラブは一般のサラリーマンが自腹で通える店ではない。そのため今も会社の経費や接待費で支払う社用族が多いのも事実。「そのお金の使い方には、『粋』か『野暮』かが顕著に表れるもの」と話すのは由美ママだ。

「会社持ちの飲み代だからこそ、お金の使い方に差が生まれます。つまり、ここぞというときに身銭が切れるかどうかです。例えば、ひいきにしている女の子の誕生日や引退する女の子の餞別、お店の開店記念日に、さらりとご祝儀が出せるかどうか。ポケットマネーなら、個人的にお祝いや、別れを惜しんでくれていることになりますよね。そのときに、『接待だったら、会社の経費でもう少し高いお酒を取ってあげられるけど、今日はプライベートだから、松竹梅のランクなら梅で勘弁ね』と言われると、『そちらで十分です。ありがとうございます』って素直に喜べます」

銀座のクラブには生花がつきものだが、自前のお金で花束を買ってきて「高いものではないけど、おめでとう」と言って贈られれば、やはりうれしいものだろう。自分の懐を痛めて使った身銭は、会社の経費の何倍もの価値がある。他人の懐でしか付き合いができない男は、いくら金払いがよくても、そういった生きたお金を使えないのだ。

「お金のバランス感覚が悪い人は粋できれいな飲み方ができない人です」と話すのは優希ママ。

「とても高い腕時計をされて、スーツも靴もきめているのに、異常にお金の使い方に細かい人がいます。お客様のボトルを私たちもいただきますが、気に入った女の子にしか飲ませない。お気に入りじゃない女の子には『君はもういいから。水飲んどけよ』と言って、これ見よがしに邪険に扱うんです。普通の飲み方をされればいいのに」

■仕事も恋愛も恩を着せずスマートに

もちろん夜の銀座であるから色っぽい側面もあるが、伸びる男はお金にものをいわせて女性を口説かない。

「うちは恋愛禁止ではありませんし、夜の銀座は女の子とちょっとした疑似恋愛気分を楽しむ場所でもあります。でも、たくさんお金を落としたからといって、女の子を自由にできるというのは大きな間違いです。そういう方は女性をハントできるお店に行けばいいでしょう」(由美ママ)

優希ママも、「クラブは口説く場ではありません。『あれだけしてあげたのに、見返りが何もないの?』って言ってしまうような人は人間としての度量が狭すぎる」と話す。

「偉くなる方は、ホステスでもOLさんでも、女性に惚れさせるもの。ホステスだって素敵な男性には惚れますから、『あらっ、この人素敵!』と思わせるように持っていくのが男の美学です。ホステスにノルマがあるのを利用して、『ノルマが大変』と聞いた途端に、『〇〇してやるから』『○〇してあげたのに』と恩着せがましく言うのは、聞き苦しいですよね」

同伴アポのキャンセルにも、男としての出来不出来が垣間見える。

「『この日は無理』と切っておしまいにするのと、『申し訳ない。代わりにこの日どう?』と別の日を提案するのでは、印象が全然違いますよね。さらにスマートな方は、自分が同伴できない場合は、部下を“代打”として立たされます。手を叩いて喜びたくなりますけど、『ああ、寂しい。でも、ありがとう』とお返しします」(優希ママ)

由美ママも、「約束を守るのは大前提。でも、銀座で遊んでくださるのはお仕事があってこそ。ですからお仕事は絶対優先してほしい。やむをえずキャンセルの場合には次の約束をくださるとありがたいです」と声をそろえる。「酒の席の約束なんて、冗談に決まってるだろ」などと言って逃げるのは、言語道断だ。

「仕事ができる」と「出世をする」には小さいようで大きな違いがある。出世を望むならば、仕事の結果だけでなく、自分の行動を見直そう。社会人として、人として、上に立つ者としてふさわしいマナーや立ち居振る舞いができているだろうか。

一流の男のすべての条件を備えることは難しいかもしれないが、1つずつ身につける努力はしたいもの。夜の酒席にはその人物の器量が如実に表れることを肝に銘じておきたい。

(ジャーナリスト 吉田 茂人 撮影=ARI HATSUZAWA(伊藤由美氏)、板橋 葵(桃谷優希氏) 写真=PIXTA)