保険の見直しは、検討事項が多く難しい(写真:さわだ ゆたか / PIXTA)

「検討事項が多すぎて、保険をどのように見直せばいいのかがよくわからない」――。これは、大手生保の保険に加入中の会社員の方などから、よく受けるご相談です。そこで今回は、明快な見直し方法をご紹介します。

なぜ、見直し方法がわからないのでしょうか。一定額の積み立て部分に、死亡・3大疾病・入院・先進医療等に備える保障がセットされている契約の見直しを、営業担当者から提案されているものの、検討事項が多く、本当に必要な保障の選別などが難しいというわけです。

「保障額」の金額のみに注目


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確かに、複数の保障機能がパッケージされた契約の提案書などを提示された場合、日頃から保険のことばかり考えているわけではない一般の人たちは、頭を抱えるだろうと思います。2017年のノーベル経済学賞受賞で話題になった「行動経済学」の言葉を引用すると「情報負荷」が大きい状態なのです。

そこで、筆者がおすすめしているのは、「ご契約の明細」「主な支払い事由」「保障内容の概要」などの欄を見ないようにすることです。そして、「保障額」の金額のみに注目します。これが最も簡単で有効な方法だと思います。

たとえば「入院一時金」5万円、「入院サポート」10万円、「外来手術」2.5万円、「入院中の手術」10万円、といった項目が並んでいる場合、「入院……」「……手術」という説明は読まず、単に5万円や10万円という金額だけを確認するのです。

すると、「入院時に貯蓄を取り崩す不安」や「加齢とともに高まる入院リスク」などを意識していたお客様も「2万5000円から10万円のおカネのために、保険に入るのではない」と容易に判断できるようになります。

「骨折時に5万円なんて……どうでもいいよね」と笑いながら話す人も出てきます。生命保険では、各種の給付金を受け取る「状況」や「おカネの使い道」の想像することから、さまざまな判断が難しくなるのだ、と痛感する瞬間です。

数年来、各種媒体で、繰り返し伝えていることですが、お客様が、保険金額だけで利用の是非を決めている好例としては「自動車保険」があります。事故で人を死に至らしめた場合の「賠償責任」の保障は、億単位のおカネがかかることもあるため「無制限」で加入し、中古車で買い替えても数十万円程度と思われる「車両保険」には加入しないのです。

預貯金でこなせるものは預貯金で

自動車保険の例に倣うと、生命保険でも単純に提案書等で提示されている金額のみチェックしたらいいことになります。大手のパッケージ商品にしても、検討すべき項目は、1000万円単位の金額に達することが多い一定期間の死亡保障と、300万円くらいの実費がかかることもある先進医療に対応している保障くらいに絞られるはずなのです。

この方法のポイントは、保険会社・商品分類やお客様の年齢・性別・職業等を問わないことです。「いくら(自分で)出せるか」という問題だからです。

たとえば、筆者は「がん保険」を検討中のお客様とお話しする際、提案書やパンフレットの「診断時」「抗がん剤治療」といった給付事由が記載された部分を、ノートなどで隠します。

そして、金額のみ確認してもらい、「100万円を保険会社経由で手にするには保険料がかかります。でも、自分の口座から出すとコストはほぼゼロです」と伝えます。すると「言われてみたらそうですね」と答える人が増えるのです。

もちろん、そう単純には割り切れないかもしれません。「でも、やっぱりがんは怖い」という反応を示す人もいると思います。そのお気持ちはわかるつもりです。筆者の親族も半数以上ががんで他界していますし、仕事柄、インパクトがある事例や体験談に接する機会も多いからです。

ただ、だからこそ、金額だけで決めることにしたほうがいいと考えています。印象的な体験談などに日常的に接していると、保険はおカネを用意する方法の1つであることを忘れそうになるからです。自身の営業マン時代を振り返れば、それこそ「お守り」のように見えた時期もあるのです。

がんになって必要なのは「おカネ」

ところが、虚心に「100万円くらいのおカネを用意する方法」として見ると、「がん保険」であっても、なにやら怪しい選択肢に思えてきます。コストの妥当性が疑われるからです。

保険料には、保険会社の運営費に費消されるおカネが「見込み」で反映されています。その割合を開示している会社は、筆者が知るかぎり1社で、「がん保険」では20〜30%といったところです。つまり、保険料が各種の給付金として加入者に還元される割合は、80〜70%程度と見られるのです。

専用ATMに1万円入金すると2000〜3000円もの手数料が引かれるイメージです。情報開示していない会社の場合、3000円では済まないかもしれません。賠償責任を保障する保険のように億単位の金額が絡む場合はやむをえないとしても、自分で出せる金額について、そんなATMを利用するのは愚行でしょう。おカネの心配をしているのであればなおさらではないでしょうか。

ところで、自分で出せる金額について、盲点になっているように感じることがあります。預貯金の残高ばかりを気にしている人が多いのです。自己資金はほかにもあるのです。特に、保険との付き合いが長い中高年の人などに留意してほしいのは「加入中の保険にたまっているおカネ」の存在です(筆者は「埋蔵金」と呼んでいます)。

具体的には(外貨建ても含む)「個人年金保険」「学資保険」「養老保険」「終身保険」「変額保険」などです。これらの保険は、年金・満期金・死亡保険金等の支払いのために、保険料の相当部分を蓄えておく仕組みです。そのため、満期前などであっても、解約時にそれなりにまとまった額のおカネが払い戻しされることが珍しくありません。

仮に、10年以上前の契約で、毎月2万〜3万円の保険料を払い続けている場合、すでに200万〜300万円程度の払戻金があるでしょう。したがって、この類いの契約を継続している人は、大病に罹った場合など、解約しておカネを用意する手があるのです。

たとえば、3大疾病になった際、300万円くらいの保険金が支払われる保険への加入、あるいは特約の付加や継続などで悩んでいる人は「すでに契約中の保険の中に相当額のおカネが積み上がっている。それを引き出すだけだ」と考えたらいいのです。

払戻金が100万円程度の場合でも「がん保険の診断給付金の額くらいは、すでに用意ができている。日額5000円の入院給付金なら200日分、持っていることになるのだ」と評価したらいいでしょう。

入院時などに「今、(貯蓄性がある保険を)解約したら、払った保険料に対してマイナスになる」「差し引きゼロになるまで解約できない」などと言う人がいますが、よくある間違いです。

100万円程度の給付であれば保険は不要

「契約後、代理店に支払われた手数料が戻ってくるだろうか」などと想像してみてほしいのです。今あるおカネやこれから手にできるおカネをどう扱うか、という問題なのです。「いつでも100万円くらいの払戻金が手に入るのだから、100万円程度の給付額が約束されている保険への加入は不要」と判断するのが賢明なはずです。

リスク管理の本などでは、保険はリスクを「移転」する手段と説明されています。自己資金で対応できないリスクを保険会社に負ってもらう仕組みだからです。その代わり「移転料(保険料)」がかかるので、自力で対応できる事態には、保険を使わないほうがいいのです。

一方、自己資金などでリスクに対応することは、「リスクの保有」と言います。長年、損保系生保などで商品設計などにかかわってきたある専門家は、一般の人たちが、諸々の不安からか、忘れてしまいがちなのは「リスクを保有する重要性」だと語ります。筆者も同感なので、最後に引用しておきます。