栃木県壬生町にある、ファナック壬生工場。CNCやモーター、アンプ、レーザー加工機用の発振器などを製造する(撮影:尾形文繁)

「もし、壬生(みぶ)工場がなかったら、需要の急増を賄うことができなかった」

工作機械用のNC(数値制御)装置で世界トップシェアを誇るファナックの稲葉善治会長兼CEOは、11月1日に栃木県壬生町の同社工場で開かれた式典で、そう述べた。


「みぶ羽生田産業団地第6期土地売買契約締結式」で、記念撮影に応じるファナックの稲葉善治会長(右)と福田富一栃木県知事(左)(撮影:尾形文繁)

ファナックは2014年9月に壬生工場の建設計画を発表。栃木県と土地売買の基本合意書を取り交わし、県が整備した工業団地69.3ヘクタールの土地を段階的に購入する契約を結んだ。式典は6期目の土地売買契約に伴うもので、今回の契約をもって、この工業団地は完売した。

工作機械の活況に新工場がうまくはまる

ファナックの投資総額(第1期)は、土地取得費105億円を合わせて1000億円。すでに6棟の生産設備を建設しているが、東京ドーム15個分の敷地には、まだかなり余裕がある。将来的には、山梨県忍野(おしの)村にある本社工場並みの生産能力を構築する予定だ。


ファナックのCNC(コンピューター数値制御装置)。この操作パネルとサーボモーターを工作機械に搭載し切削を制御することで、正確・精密な金属類の加工を可能とする (記者撮影)

この工場で主に生産するのは、工作機械の精密制御を担うCNC(コンピュータ数値制御)装置という、工作機械には欠かせない重要ユニットだ。

工作機械の需要は目下、急拡大中だ。CNC装置の国内シェア7割超を占めるファナックは、供給責任を果たそうと、フル操業で対応している。昨年立ち上がった壬生工場の存在がなければ、注文をさばききれなかったかもしれない。

「BCP(事業継続計画)の観点から、また供給責任を果たすために、冗長になっても生産設備の複線化は進めていく」と、稲葉会長はかねて述べ、壬生工場のほかに、筑波などにもロボット工場の建設を進めていたが、この工作機械の空前の活況にうまくはまる格好となった。

工作機械は、「機械を作る機械」=マザーマシンといわれ、機械部品を加工する機械だ。つまり、工作機械の受注・生産が活況ということは、企業の生産設備への投資が活発ということを表す。

工作機械の業界団体、日本工作機械工業会(日工会)は、毎月、会員企業の受注総額を発表している。9月の受注総額は1490億円で、2015年3月の1474億円を超えて、統計開始以来の過去最高を更新した。

好調な要因はいくつかあるが、筆頭に挙げられるのが半導体製造装置やスマホなどの電子機器関連向けの受注だ。今年の年明け頃から受注が拡大。とりわけ、中国向けで高水準の受注状況が続く。これに加えて、自動車や一般機械も拡大傾向だ。

また、これまでは「iPhone」の新機種の開発時期に、EMS(電子機器の受託生産サービス)メーカーが工作機械を大量に購入する「スマホ特需」によって、受注高が大きく押し上げられてきた。今年はスマホ特需の影響が小さい中での活況だ。

「悪い要因が見られない。国内も好調に推移しており、手ごたえを感じている」(日工会・石丸雍二専務理事)

生産現場もフル操業というメーカーがほとんどで、「うれしい悲鳴」という状況になっている。

年間受注総額が過去最高を更新する勢い

日工会は年初に、今年の受注総額を昨年比8%増の1兆3500億円と見込んでいたが、受注が好調なことから、9月に1兆5500億円(昨年比24%増)に引き上げた。11月13日に発表された10月の受注高(速報値)も1406億円という高水準となった。今のような状況が続けば、年間受注高は過去最高だった2007年の1兆5900億円を超える可能性も十分にある。

当然、ファナックをはじめ、DMG森精機やオークマ、牧野フライス製作所など大手工作機械メーカーの業績は好調。2017年4〜9月期決算の発表では、各社がいずれも2018年3月期の通期業績の上方修正を行った。


ファナックは、11月1日に、栃木県との土地売買契約と併せて、レーザー工場の竣工披露式も開催。福田知事らが工場を視察した(撮影:尾形文繁)

ファナックは、2018年3月期の売上高見通しを、期初予想の6114億円から6930億円(前期比29.1%増)と大幅に引き上げた。ロボットも大きく伸びているが、CNCやサーボモーターで構成されるFA(工場自動化)事業でも、売上高は第1四半期の489億円から、第2四半期に564億円と拡大。自社で作る小型切削加工機などの工作機械も、前年比で大きく拡大している。

しかし、工作機械業界に死角がないわけではない。それは、部品の調達難に伴う納期の長期化だ。

工作機械で使う主要部品の1つに、製造工程での精密な「位置決め」に欠かせないリニアガイド(直動案内機器)がある。ベアリングを使う製品だ。主なメーカーは世界シェア5割を超えるTHKと日本トムソンで、製造する企業は限られる。

重要部品の調達難が大きなリスクに


リニアガイド(直動案内機器)の部品群。半導体製造装置や工作機械で使うリニアガイドが世界的に不足している (撮影:今井康一)

そのうえ、この部品は生産が急増する半導体製造装置にも数多く使われているため、世界的な品薄状態が続いている。部品メーカー関係者によれば「納期が来年の夏という条件でもリニアガイドの注文が入る」という。工作機械メーカー各社は、部品の確保と納期対応に追われているのが現状だ。「何とか納品遅れを発生させていない」というが、部品の調達難は大きなリスクとして横たわる。

とはいえ、今後の見通しは決して悪くない。中国向けや半導体製造装置向けも、当初は年内くらいまでで失速するのではないかとみられていたが、「毎年6月がピークで、冬に向かって需要が落ちて、春節後に息を吹き返すのがパターンだったが、今年はそのパターンが当てはまらない。日本のメーカーを含めて繁忙な状況」(稲葉会長)というように、勢いが止まる気配はないという。

「機械を作る機械」である工作機械の受注動向は、企業の設備投資の状況を見る、先行指標といわれる。業界の好調さは、本格的な好景気の波が訪れることを予言しているともいえるだろう。