以前掲載の「任天堂株、この8ヶ月で2倍に。復活の「スイッチ」が入った要因」という記事では、窮地に追い込まれていた任天堂が「Nintendo Switch」の成功により復活を遂げたことをお伝えしました。今回のメルマガ『週刊 Life is beautiful』では、著者でスクウェア・エニックスに勤務していた経験もある米在住の世界的プログラマー・中島聡さんが、ゲーム業界の関係者側の視点で「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」をプレイした感想と、業績が好調な昨今の任天堂について詳述しています。

元スクエニ勤務の中島聡が語る、「Switch」「ゼルダ」そして任天堂

少し前のメルマガに書きましたが、Nintendo Switch を購入して「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」で遊んでいます。私は、(自分で作ったゲームのテスト以外は)ほとんどゲームはしないタイプです。最後にガッツリと遊んだのは Nintendo Wii 用の「ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス」(2006年発売)なので、11年ぶりです。

スクエニで働いていた私が言うのも何ですが、ファイナルファンタジー、ドラゴンクエストなどを一応試したのですが、「経験値あげ」の苦行がどうも好きになれませんでした(ファイナルファンタジー XI は例外ですが、これは中毒性が強すぎて、1ヶ月間の廃人生活の後に辞めました)。

そんな中で、「ゼルダの伝説」シリーズのみは、家族でも楽しめるため、Nintendo64用の「時のオカリナ」、ゲームキューブ用の「風のタクト」と楽しんで来ました。

しかし、DS、3DS、Wii U 版には、なぜか手が出ませんでした。DS はスクエニに働いていた時に仕事上持っていましたが(脳トレを少し遊んだぐらいです)、3DS と Wii U に関しては本体すら入手しませんでした。

そんな私が、なぜ入手困難な Nintendo Switch を購入してまで「ブレス オブ ザ ワイルド」を遊んでいるかと言えば、それは「CEDEC2017ゼルダの伝説BotW講演でゲーム業界は5年進む」という記事を読んだからに他なりません。

スクエニにいた頃から、どこにでも自由に行ける「オープンワールド」な RPG の話は出ており、その代表的な例が Final Fantasy XI でしたが、それが 「ブレス オブ ザ ワイルド」でどう進化したかを、自ら確かめたかったのです。

ここまで、延べで十数時間遊びましたが、確かにゲームバランスが素晴らしく良くできています。いきなりラスボスにチャレンジすることも可能でありながら(すぐに死んでしまいますが)、あえて強い敵を避けながら、のんびりとマイペースで遊ぶことも出来る点が、このゲームの強みです。

そもそも私が Switch を購入したのは「ブレス オブ ザ ワイルド」を遊ぶためであり、「このゲームを終えて次のゲームを遊ぶ」理由もないので、ラスボスどころか中ボスの攻略すら先延ばしにしつつ、「今日は採掘でお金稼ぎ」、「今日は、雑魚狩で部材集め」「今日は新しい祠を2つ見つけたので、そこで終わり」などと「まったりプレー」を繰り返して楽しんでいます。

とにかく奥行きが深く、かつ、グラフィックスが美しいので、私のような遊び方をすれば、数週間(ひょっとすると数ヶ月)に渡って楽しめる訳で、ROI(Return of Investment = 投資効率)という意味でも悪くないと思います。

ちなみに、「ブレス オブ ザ ワイルド」が画期的なのは、オープンワールドであることではなく、その中に散りばめられた「パズル」が物理エンジンベースに作られているため、解き方に大きな許容度がある点です。その結果として、しばしば複数の解き方が自然な形で存在し、それが「裏技的な楽しみ方」を積極的に許容しているのです。

この「複数の解答」や「裏技」に関しては、任天堂の開発者の人たちも強く意識していたそうですが、これこそが「ブレス オブ ザ ワイルド」が「ゲーム業界を5年進めた」と言える本当の価値であり、(ゲーム開発者が)学べる部分は多々あると思います。

数年前に、iOSのSprite Kitを初めて試した時に、物理エンジンを使った「ゲームではないのに、ゲームのように楽しめるもの」を作って自分だけで遊んでいたことを思い出しますが、今になって考えれば、あれをもう少し深堀して商品化すべきだったのだと、思います(時間を見つけて、再度チャレンジしても良いと思っています)。

ちなみに、任天堂という会社の業績についても知りたくなったので、発表されたばかりの、第2四半期(9月末)の株主向けの説明資料を読んでみました。

上のグラフが、北米で Switch の発売後の販売量の推移を Wii および Wii U と比較したものです。Wii よりも若干遅いペースですが、リリース日が、Switch が3月、Wii はクリスマス前であることを考えれば、十分に満足できる数字だと思います。特に、これまでは品薄で入手が困難だったため、クリスマス商戦に向けて、ニーズを満たす生産をすることが出来れば、Wii の数字を超えることも十分に可能だと思います。

実際、この資料によると、3月の時点では、任天堂としては初年度の販売台数を1000万台に設定し製造計画を立てていたそうですが、ニーズを満たすために、その目標を1400万台に引き上げたそうです。4月からの6ヶ月間で既に489万台を販売したので(リリースした3月の売り上げ274万台は含まない数字)、残りの6ヶ月で911万台を売るという、かなり積極的な計画です。

ゲームに関して言えば、上にも書いた「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」に加えて、「スーパーマリオ オデッセイ」が発売後3日間で200万本を売るという大成功を収めており、まさに任天堂ならではの「Content is King」戦略が効果的に働いています。

この二つのゲームは、ユーザーからも評論家からの評価も非常に高く、どちらもMatacriticで97点という高得点を得ており、「歴代ゲームベスト100」の中に12位、13位と並んで入っています(2017年に発売されたゲームでこのリストに入っているのは、この二つのみです)。

ちなみに、この Switch の成功を受けて、今期(2018年3月期)の売り上げと純利益の予想を(前期の終わりに発表した)、それぞれ7500億円、450億円、から9600億円、850億円に引き上げたそうです。

ちなみに、以上の情報は、全て任天堂の「株主・投資家向け情報」というページから入手しました。上場企業は、この手の情報を公開することが義務付けられているので、企業のことを一歩踏み込んで知りたい場合には、とても役に立ちます。

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