人気低迷の米国フィギュア界ではチェンへの期待が大きい(松尾/アフロスポーツ)

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平昌五輪まで100日を切り、大会の華とも言える競技のひとつフィギュアスケートへの注目が世界的に高まっている。平昌五輪を占うグランプリシリーズの第4戦のNHK杯が行われた大阪中央体育館も、連日満員御礼。羽生結弦が右足首を痛めて欠場した影響からか、男子シングルスの番組視聴率は、関東世帯平均で6.7パーセントと低迷したが、女子シングルフリー時には10.5パーセントをマークしている。2月にはGPファイナルが名古屋で開催され、12月21日からは、代表選考会のクライマックスである全日本選手権が行われる。だが、その日本での盛り上がりの一方で、フィギュアスケートの中心から離れ、人気が低迷してしまったいるのが米国のフィギュア界だ。

 フォーブス誌は、「ネーサン・チェンは米国フィギュアスケートを再生できるか」と題した記事を発信した。近年国際舞台で台頭した新たなスターの存在と、人気低迷を続ける米国フィギュアスケートの復活の可能性を分析した。

 記事では米国フィギュア界の現状を「低迷に秘密はない。米国の女子代表の国際舞台での散漫な演技、そして理解の難しい採点システムの存在が、この美しきスポーツの足かせになっている。国内大会は空席が目立ち、スポンサー探しも難しい。録画放送によるテレビ視聴率も広告程度のレベルまで凋落してしまった」と厳しく報じた。

 同記事によると、米放送局のNBCが中継した今年1月の全米選手権は、女子のフリーをプライムタイムで放送したが視聴率はわずか1.8%。視聴者数は280万人という近年においては最低の数字となった。

 CBSが放送した1998年の全米選手権では、ミシェル・クワンとタラ・リピンスキーが争い視聴率13%を記録し「比較すると非常にショックな数字」だという。

 またこの数字の上には、94年のリレハンメル五輪でナンシー・ケリガンと彼女を襲撃したトーニャ・ハーディングの話題によってたたき出された48.5%という歴史的な数字も残されている。

暗い現実に直面している米国フィギュア界だが、記事では「復活へ向けたのろしは上がり始めている」とも書かれた。4回転の申し子と言われる18歳のネーサン・チェンへの期待だ。

「3カ月に迫った平昌五輪で、18歳のネーサン・チェンというこれまでで最もエキサイティングなスケーターを見ることになるかもしれない。ソルトレークシティー出身のチェンは、現在見る限りで最もアクロバティックな選手。5種類の4回転ジャンプを飛び、最近の競技でその武器を披露している」と、シニアデビューした昨季、いきなりグランプリファイナルに進出、銀メダルを獲得したチェンを紹介した。

 またチェンのコーチのラファエル・アルトゥニアン氏 が、平昌五輪に向けて「フリーで4回転ジャンプを7回組み込む」との可能性を語ったという。

 チェンは、今季フリーで4回転ループに初成功、ルッツ、フリップ、サルコー、トゥーループに続く5種類目の4回転ジャンプを手に入れた。1月の全米選手権では、FSに4回転を5つも組み入れて史上初の快挙と騒がれたが、さらに2つ増やして7つの4回転を入れたプログラムで臨むとなれば、基礎点が大幅にアップする。もし、それらのジャンプに成功すれば金メダルに大きく近づくことは間違いない。
 
チェンは「Icenetwork.com」の世界ランキングでは4位に過ぎず、平昌五輪では、まだ勝ち目は低いと見る向きも多いが、「この状況が、一層興味を引く」としている。金メダル候補筆頭の羽生に先のグランプリシリーズのロシア杯で勝利したことで、2人がさらに高みを目指しあうことに期待が寄せられている。

 チェンも「五輪での金メダルは可能だと信じています」とコメント。

「その(金メダル獲得の)レベルに達するためには、まだ多く課題の克服が必要ですが、絶対に可能だと思っています」と続けた。

 

 米国男子フィギュア界の過去の金メダリストを振り返れば、トリプルアクセルを米国人として初めて成功させた1988年カルガリー五輪のブライアン・ボイタノにまでさかのぼる。ボイタノは、そこでライバルのブライアン・オーサー(カナダ)を破った。 

 続いて2010年のバンクーバー五輪でエバン・ライサチェクが金メダルを獲得しているが、「彼の驚きの勝利では(男子フィギュアスケートへの期待は)膨らまなかった。ライサチェクは、エフゲニー・プルシェンコ(ロシア)に僅差で勝利したが、この時はチェンとは異なり、4回転を含まない安全なプログラムを選んだ。チェンが金メダルを取るには誰もやったことのないプログラムでハイリスクな演技が必要だ」と指摘した。

 2002年ソルトレーク五輪で銅メダルを獲得したティモシー・ゲーベル氏は、ESPNへの取材に対して、「スポーツ技術の進化に挑戦する選手を見るのは素晴らしいことで、それが米国人であればなおさら」と語っている。米国選手が遅れを取ってきたなか、チェンが技術的には、世界でもトップにあるとの意見だ。

チェンは、まず12月末から1月に開催される2018年全米選手権で五輪代表に選出されなければならないが、「その時には、もしかしたら、日本の羽生、ロシアのメドベデワ のように米国で絶大で熱烈なファンを得ることができる」とも示唆した。

それでも、「壁はもちろんある。韓国との時差も障害となる。競技として一度自滅してしまった近年の問題を拭うにも時間が必要」と警告。フィギュアは、2002年のソルトレーク五輪での採点、判定に関するスキャンダルが発覚して以来、より競技性の高いスポーツとなっているが、「1990年代にあったような推測や論争により、このスポーツの魅力の半分を奪ってしまった」という意見も書かれた。

 そして米国でのフィギュアスケート人気の回復には「女子選手の活躍が必要」だという。

「テンリー・オルブライト、ペギー・フレミング、ドロシー・ハミル、キャロル・ヘイス、クリスティ・ヤマグチ、ケリガン、クワン、リピンスキー、サラ・ヒューズ、サーシャ・コーエンといった系譜に並ぶ選手が生まれれば素晴らしいのだが」

現在、18歳のカレン・チェンが有力選手だが、2015年から負けなしのロシアのエフゲニア・メドベデワの対抗馬になるほどの実力はなく、26歳のアシュリー・ワグナーには限界が見られ、グレイシー・ゴールドは、摂食障害により選手生活から離れている。現実として女子選手に前向きな兆しは見られない。

 平昌五輪のシーズンに合わせたかのように、94年のリレハンメル五輪直前に「ナンシー・ケリガン襲撃事件」を犯したトーニャ・ハーディングを描いた映画『I, Tonya』が、クレイグ・ギレスピー監督、マーゴット・ロビー主演で12月初旬に全米で公開される。記事は、この映画にひっかけて「(フィギュアスケートの魅力というものを)もしハーディングが思い出させてくれなければ、おそらくチェンが4回転でそうしてくれるだろう」という言葉で締めくくられた。羽生のライバルのチェンは、全米フィギュア界の浮沈を背負って平昌五輪を目指すことになる。