長期的な「採用難」が会社を悩ませています(写真 : xiangtao / PIXTA)

転職市場から人材がいなくなる?


この連載の一覧はこちら

2019年には、もはや転職市場から人材がいなくなるかもしれません。

厚生労働省の公共職業安定所(ハローワーク)における求人、求職、就職の状況をとりまとめた有効求人倍率は9月で1.52倍。前月を超えて上昇中で、新規求人倍率、正社員に限った有効求人倍率も同様です。

ちなみに県別でみても有効求人倍率は全県で1.0倍を超えています。まさに売り手市場が継続中で、1990年前後のバブル期を超える長期的な「採用難」が会社を悩ませています。

帝国データバンクの調査では、企業の45.4%で正社員が不足していると回答。正社員の人手不足は、2006年5月の調査開始以降で過去最高を更新しています。

業種別では「情報サービス」が69.7%でトップ。以下、「家電・情報機器小売」や「放送」「運輸・倉庫」が6割以上となったほか、「建設」など10業種が5割以上となっています。さらに規模別では、「大企業」では51.8%と半数を超えるなど、規模の大きい企業ほど不足感が高く、一段とその傾向が強まっています。

アベノミクスを否定するとき、その根拠として景気回復に関する実感のなさが指摘されますが、景気回復の象徴ともいえる採用難は多くの会社が痛感しているのではないでしょうか。

取材した中堅の電子機器メーカー人事部長は「新卒採用におけるエントリー数が激減。予定していた採用数の半分以下しか人材の確保ができませんでした」と言います。ならば、中途採用で帳尻を合わせたいところですが、求人広告に掲載しても応募は皆無。人材紹介会社に依頼してもなしのつぶて。もはや、新規採用に関して、万策尽きた感がある……と嘆くばかり。業績予測に大きく影響するくらいの危機的状況と語ってくれました。それでも、策を凝らして人材の確保に奔走するのが人事部の役目と言いたいところですが、

「これほど長い採用難の時代を経験したことがない」

とのこと。想定外の状態で策が思いつかないのかもしれません。

これまで、求人倍率は5年程度でピークから下降へと上下を繰り返してきました。バブル期でも求人倍率が上昇を続けたのは5年程度。5年のうちに景気が下降して、求人倍率もダウン。こうした下降期に企業は人材を確保して、次の成長への仕込みができたものでした。

たとえば、前回の求人難は2000年前半に訪れましたが、5年と持たずにリーマンショックで求人倍率は1.0を大きく割り込み、会社が優位に採用できる状況になりました。ちなみにエネルギー、不動産業界など、景気がいい時期に採用で苦労する業界で採用数が大幅に増えました。

2020年くらいまでは求人倍率は右肩上がりで上昇する

ところが、今回は10年近く求人倍率が上昇を続けそうです。人材関連の調査会社に話を聞いても「求人倍率が下降する時期が早々にくる」と断言する話を聞いたことがありません。筆者も2020年くらいまでは求人倍率は右肩上がりで上昇すると予想しています(少子化の進行を考えると、その後も続くかもしれません)。だとすれば、求人倍率が2.0倍(全国平均で)を超える「超採用難」の時代がやってくるかもしれません。こうした想像を絶する超採用難時代になったら、会社はどのような対策を打つべきでしょうか?

やはり、前提となるのは衛生要因の改善。衛生要因とはアメリカの臨床心理学者フレデリック・ハーズバーグが提唱する概念。会社が社員の願望を満たさないと不満につながるもので、

・会社の方針

・報酬

・働く環境

などのこと。求人倍率が低い、買い手市場の状況であれば衛生要因に不満を抱きながらも、社員はなかなか動かないもの。ですが、求人倍率が高まり、売り手市場との認識が高まると状況が変わります。転職して「衛生要因がいい職場」に転職が可能になるので、不満=転職動機を引き起こします。

しかも求人倍率が上昇を始めて、やや時間が経過した時期こそ、転職希望者が増えるタイミング。求人倍率の上昇と転職希望者の増加には時差があり、打ち手を見誤ると想定以上の人材流出を起こすことになります。

筆者は何回も、こうした転職希望者が増える転換期に遭遇しました。たとえば、金融不況で求人倍率の低迷が長く続いた1990年代。会社が社員に対して強気で昇給もストップ。転職したくても求人なんてない時代。会社は社員に対して「衛生要因で不満が溜まっても辞めない」と決めつけていました。そこでオフォスなど職場環境を改悪するようなことが平気で行われていました。待遇は据え置きか、実質的な賃下げも行われ、本社オフォスも売却。交通事情の悪い、手狭なビルへの移転も当たり前のように行われました(業績等の関係で致し方ない事情であることもありましたが)。確かに改悪されても退職率は上がらない状況。衛生要因による不満が退職に大きな要因にならない状況が続きました。

求人倍率が大幅に改善すると…

ところが2000年を超えた時期から求人倍率が大幅に改善、上昇に転じます。景気が回復して企業が採用数を増やし始めたのです。すると数年後に人材流出が続く企業が出てきました。転職希望者が増える転換期になっていることに気づくのが遅かったのです。この気づくタイミングの遅さが、景気回復時の体制準備を遅らせ、競合他社の後塵を拝する会社も生まれました。ただ、やがて、各社横並びで衛生要因の改善が行われるようになります。

たとえば、

・魅力的なオフォスへの移転

・社員が働きやすい経営方針の提示

・報酬面の改定

など。こうしたリテンション(人材の確保施策)が行われることは、働く社員にとって望ましいことです。しかしそれがどんどん加速していくと困ったことが起きます。超採用難の中、不満があって転職を考えかけた人が辞めない決断に転換するのです。現状の職場での不満が会社側の施策によってある程度解消されるからです。

厳しい指導をしていた上司も人事部の指導で驚異的なほどにマイルドで優しくなる。さらに働き方改革の流れにも乗り、残業は大幅に減少。ボーナスも大幅にアップ。オフィスには社員の働き方に気配りが細やかにされるようになることでしょう。そうして、転職を考える人が激減。

《転職市場から転職予備軍がいなくなる》

状態になるのです。

市場があっても売るものがなくなるのです。転職サイトや人材紹介会社のデータベースも枯渇して商売が厳しくなるかもしれません(業界的に悩ましいテーマなので数値的な発表が少ないですが)。

そもそも、現在でも求人倍率は上昇を続けていますが、転職希望者はさして増えていません。厚生労働省の発表でも、転職希望者は横ばいないしは減少を続けています。求人が増えても転職希望者が増えるわけではありません。希望者が増加するのは景気が悪く、求人が少ない時期。

求人倍率が2.0を超えたらどうなる?

今後、前代未聞の超採用難になり、求人倍率が2.0を超えたらどうなるか? 転職希望者が横ばいから減少に転じることになるでしょう。これまでで一番長く、厳しい採用環境がこれから訪れる可能性があることを会社は覚悟しなければなりません。では、どうしたらいいのでしょうか?

超採用難時代に人材を確保するためには、転職希望の低いorない人材が「積極的に動きたくなる」くらいのインパクトある条件を示さないといけません。転職市場に、転職予備軍は豊富には存在しません。衛生要因の面でも大胆な改善を行い「是非とも、あの会社で働きたい」と思われる条件を提示する覚悟が必要です。

そもそも転職するなら、人はいまよりもいい会社を選びたいと考えるもの。しかもほしいのは、わずかな違いではなく明らかな違い。超採用難の時代には各社横並びで衛生要因の改善は行われます。通常の改善くらいであれば積極的に人材を動かすには至りません。横並びの改善と比較して、相当なインパクト(違い、魅力)が必要になります。

たとえば、すでに枯渇状態が著しい職種であるエンジニアや外資系のエクゼクティブ人材で行われている入社時の支度金の実施。しかも、年棒等に加えて、入社初年度に1000万円超支給くらいのインパクト。あるいはヤフーではすでに打ち出されていますが、週休3日と社員の健康を向上させるための社内食堂の設置に大幅な投資など。一部の企業のことと他人事のように思うのでなく、超採用難の時代に向けた対策を考えておくべき状況にあると、自覚をもつべきではないでしょうか?

筆者は2年後には求人倍率が2.0倍を超えると予想します。超採用難の時代に備えて、果敢な取り組みが人事面でも必要ではないでしょうか。