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 老後のお金について、どれくらい準備しておけばいいのでしょうか。

 もちろん、あればあるだけ安心ではありますが、会社員の給料だけでは多額の老後資金を用意できるはずがありません。そこで、本連載前回記事では、公的年金の範囲内でやっていける生活を提案しました。

 ただ、生活自体はダウンサイジングすればなんとか年金の範囲内でやっていけるかもしれませんが、働けなくなってから病気になったり介護が必要になったりすると、まとまったお金が必要になります。このお金を、年金のなかから捻出するのは難しいでしょう。

 そこで、住宅ローンの支払いも子どもの教育費負担も終わっている家庭は、老後の2大出費ともいえる介護費と医療費の負担をどれくらい見積もっておけばいいのでしょうか。まず、介護費用をいくらくらい用意しておけばいいのか、見てみましょう。

●老後の介護費用は1人あたり3000万円必要?

 介護にかかる費用は、かなり高額になると思っている人が多いようです。

 生命保険文化センターが3年に1度実施している「生命保険に関する全国実態調査」(平成27年度)を見ると、「世帯主または配偶者が要介護状態となった場合の必要資金」について、平均で3040万円という予想の数字が出ています。つまり、「1人3000万円くらいはかかるのではないか」と多くの人が思っているということです。2人なら、約6000万円ということになります。

「えっ、そんなの無理!」とあきらめないでください。実は、同調査では、実際に介護を経験した人たちが負担した費用についても聞いています。これを見ると、介護で一時的にかかった費用の平均は80万円。さらに月々の費用が平均7.9万円で、平均的な介護期間は59.1カ月でした。これをトータルすると、約550万円になります。1人約550万円ですから、2人では約1100万円ということです。

 3000万円と550万円では、天と地ほどの差があります。なぜ、これほど想像と現実のギャップが大きいのかといえば、おそらく公的な介護保険について、あまり知らないからではないでしょうか。

 介護保険では、多くの人が実際にかかった費用の1割負担でサービスを受けられます(上限あり)。収入が多い人は負担額が上がりますが、それでもせいぜい2割程度。なぜなら、介護保険には高額介護サービス費制度という仕組みがあり、どんなに介護サービスを受けても介護保険の対象なら1カ月に支払う利用者負担額は月4万4400円が上限となるからです。

 たとえば、要介護5で月に36万円の介護サービスを受ける人の場合、通常は月の自己負担が3万6000円となります。では、2割負担の人は7万2000円、3割負担の人は10万800円かといえば、そうではありません。高額介護サービス費制度を使えば、月4万4400円になります。介護サービスの費用そのものが低いので、食事代その他を含めても、月々の費用が平均7.9万円というのはうなずけます。

●老後の費用、2人で1500万円を確保する!

 医療費についても、日本では全員がなんらかの健康保険に加入しているので、病気になって治療を受けても健康保険の対象であれば1〜3割の自己負担で済みます。しかも、介護の高額介護サービス費と同じように、高額療養費制度によって上限額が決まっています。

 たとえば、入院して月に100万円の医療費がかかったとしましょう。自己負担が3割なら月30万円だと思いがちですが、実際は高額療養費制度を申請すれば8万7430円で済みます。この高額療養費制度は収入に応じて負担が変わり、収入が低い人であればもっと安くなります。

 しかも、70歳以上はもっと負担が少なくなる人が大半です。月収28万円以上の現役並みの所得がある場合、100万円の治療を受けると月の自己負担は8万7430円になりますが、年収156万〜約370万円の場合は月にいくら医療費がかかっても保険対象の治療については5万7600円で済みます。住民税が非課税の方などは、さらに安くなっています。

 さらに、高額療養費制度では医療費を世帯で合算することができます。たとえば、2人とも70歳以上で同じ保険に加入している場合、それぞれが入院して月100万円ずつの治療を受けたとしましょう。2人合わせて治療費が200万円だったとしても、負担する額は月5万7600円でいいのです。ただし、高額療養費制度の上限は2018年8月から少し変わります。

 今は、がんで手術をしても1週間から10日ほどで退院するケースが多いです。病院に長く置いてはもらえませんし、高齢者の場合は介護の施設のほうに回されるのが一般的です。

 そのため、老後の医療費は2人で200万〜300万円程度と見ておけばいいでしょう。さらに、そこに100万〜200万円の予備費を加えると、制度をしっかり利用すれば、前述した介護費と医療費をあわせて1500万円くらいあれば、なんとか対応できることになります。

 もちろん「それでも心配」という方は、そこに安心できるだけの金額を上乗せすればいいでしょう。ただし、そのぶん生きているうちに楽しく使えるお金は減ってしまうということです。
(文=荻原博子/経済ジャーナリスト)