JR名古屋駅のレストラン街「名古屋うまいもん通り」。名古屋駅の駅ナカでは「名古屋めし」を出す飲食店が増えている(記者撮影)

東京や大阪から新幹線に乗ってJR名古屋駅にやってきた人が最初に目にする「名古屋めし」はきしめんだろう。立ち食いきしめんの店「住よし」は、新幹線の上り・下りホーム、在来線の1〜11番ホームなど名古屋駅のホーム上だけで7店舗もある。

住よしが名古屋駅で開業したのは1961年。それから半世紀以上にわたって駅ナカ店舗を増やしてきた。店舗によって味が違うらしく、ファンの間では「どのホームのきしめんが最もおいしいか」といった論争が絶えない。ある愛好家に言わせれば、「在来線の店舗のほうがおいしい」。新幹線ホームの店ほどには利用者が多くなく、注文が入ってから天ぷらを揚げているため、揚げたての天ぷらを食べられるからだという。住よしを運営するのはジャパン・トラベル・サーヴィスという東京の会社で、関東、東海、関西のJR駅ナカを中心に店舗を展開している。

名古屋駅は「名古屋めしの見本市」


名古屋駅の駅ナカに店を構えるカフェ「アバンテ」の看板メニュー「小倉トースト」(写真:JR東海)

初心者にとっては、きしめんが名古屋めしの代表格だが、きしめんだけが名古屋めしではない。あんかけスパゲティ、みそ煮込みうどん、ひつまぶし、みそカツ、天むす、エビフライ、手羽先、台湾ラーメン、小倉トーストなど、名古屋人が愛する名古屋めしは多種多様だ。これらの中には名古屋以外の地方で生まれ名古屋に根付いたものもある。

こうした名古屋めしの名店が、名古屋駅の駅ナカに続々とオープンしている。名古屋駅のメインのレストラン街は飲食店と弁当類の販売店など約50店で構成されるが、そのうち16店が名古屋めしを提供。名古屋駅はさながら名古屋めしの見本市といった様相を呈する。

1987年に国鉄からJR東海(東海旅客鉄道)へと衣替えしたとき、名古屋駅ナカのグルメといえば、「日本食堂」や「レストランみかど」。当時の鉄道駅では定番のレストランが主体だった。地元の鉄道通のベテランは「当時の名古屋駅で名古屋めしと呼べるものは、きしめん、みそカツ、あとは売店で売っているテイクアウトの天むすくらいだった」と回想する。

では、いつ頃から名古屋駅は名古屋めしを強化するようになったのか。JR東海傘下で名古屋駅の店舗開発を担当するのが名古屋ステーション開発だ。その企画開発課の古谷野岐彦課長によれば、「正確な時期はわからないが、名古屋めしがメディアで注目されるようになってから少しずつ増えてきた」。だとすると、名古屋めしが全国区になったきっかけの1つである愛知万博が開催された2005年以降ではないか。

名古屋めしは有名店誘致でブレーク

誰もが知る名古屋めしの人気店は2010年に登場する。手羽先で有名な居酒屋「世界の山ちゃん」が立ち飲み店の営業を開始した(現在はリニア中央新幹線の工事に伴い閉店)。


「味仙」の台湾ラーメン。2015年に名古屋うまいもん通りの拡張に伴って誘致された(写真:JR東海)

ブレークしたのは、名古屋うまいもん通りが拡張された2015年だ。新店舗として、台湾ラーメンの「味仙」、あんかけスパゲティの「スパゲティハウス チャオ」、ひつまぶしの「まるや本店」といった名古屋めしの有名店を多数誘致。これによって、名古屋駅における名古屋めしの注目度が一気に高まった。

名古屋駅ナカのレストラン街はうまいもん通り以外にもいくつかあり、名古屋めしの店はあちこちに点在している。だが、名古屋めしを出す店を1カ所に集約したほうが、観光・出張客にとってはわかりやすいようにも思える。たとえばJR仙台駅には牛たんの専門店を集めた「牛たん通り」があるなど、地方の駅は郷土料理を出す店を1カ所に集めて、観光客の注目度を高めている。


あんかけスパゲティ専門店「スパゲティハウス チャオ」の看板メニュー「ミラカン」(写真:JR東海)

しかし、古谷野氏によれば「そうした考えはない」という。それは、名古屋駅周辺で働く会社員もターゲットにしているからだ。「今日は何を食べようか」と迷うことが多いビジネスパーソンにとっては、名古屋めしを1カ所に集約せず、あちこちに分散させておくほうが、選んでもらいやすいのだそうだ。

ちなみに名古屋駅には全国の人気ラーメン店を1カ所に集めた「名古屋・驛麺通り」がある。「昼は必ずラーメンを食べるという人は結構いる。そうした人向けにはラーメンだけのエリアを設けておくほうがよい」(古谷野氏)とのことだ。

名古屋駅の駅ビル、JRセントラルタワーズとJRゲートタワーにもレストラン街がある。その店舗構成は、フレンチ、焼肉、すし、中華などバラエティに富む。名古屋めしの店はゼロではないが、名古屋うまいもん通りと比べると圧倒的に少ない。その点で両者はうまく差別化を図っている。


名古屋うまいもん通りに12月に出店する「山本屋本店」のみそ煮込みうどん(写真:JR東海)

12月には、うまいもん通りに4店舗が新規出店する。うち2店が、みそ煮込みうどんの「山本屋本店」とえびフライが名物の「まるは食堂」だ。名古屋めしの存在感がさらに高まることになる。だが、駅から一歩外に出ると、その存在感は駅の比ではない。新幹線側の駅前に広がる地下街「エスカ」では、33ある飲食店のうち実に23店が名古屋めしを提供する。まさに激戦区そのものだ。

JR名古屋駅は実は劣勢?

エスカの名古屋めしシフトは、駅前にある「ビックカメラ」が開業した2003年にまでさかのぼる。それ以前、ビックカメラの場所には衣料雑貨系の店舗があり、エスカもその店の客層に合わせた飲食店を並べていた。しかし、2003年にビックカメラがオープンすると、エスカも店舗の入れ替えに舵を切り、徐々に名古屋めしの店を増やし始めた。その結果が、今日の23店につながっている。2015年に名古屋めしを強化したJR名古屋駅は、エスカから見れば、「何を今さら」といった感じなのだろう。


名古屋うまいもん通りは名古屋めし強化で客をさらに取り込めるか、12月の新規出店の成否が注目される(記者撮影)

エスカの名古屋めしシフトは大当たりし、「観光・出張客も地元客に負けないくらい多い」(エスカ広報担当者)という。そう考えると、名古屋駅の名古屋めしシフトは、実は駅の外で勢いづく名古屋めし店に客を取られないための囲い込み策だという構図が浮かび上がってくる。

名古屋駅周辺の地下街はエスカだけではない。「ユニモール」「メイチカ」など多くの地下街があり、それぞれが独自の飲食店網を展開する。新幹線では独り勝ちのJR東海が、飲食店戦略では多くのライバルと向き合っている。「男子家を出れば七人の敵あり」という格言は、JR東海が名古屋駅で置かれている現状に、まさにぴったりくる。