今年7月にニューヨーク・マンハッタンにオープンした鮨屋「sushi AMANE」。

先日発表された「ミシュランガイド ニューヨーク2018年版」で同店は1つ星を獲得しました。オープンからたった3ヶ月の星獲得は、同ガイド史上最短の快挙です。

そんな「sushi AMANE」で大将を務めるのは、27歳の若き鮨職人・宇井野詩音(ういの しおん)さん。

和食ブームが続き、多くの日本食店が軒を連ねるニューヨークで、たった3ヶ月でミシュラン1つ星を獲得した舞台裏とは。

大将・宇井野さんに話を伺いながら、彼の鮨人生とともに紐解きます。

18歳で名店「鮨 さいとう」に弟子入り

熊本県天草市

宇井野さんは熊本県天草市の出身。海に囲まれた幼少期を過ごし、魚を獲ったり海に潜ったりしている中で、魚の魅力にはまっていきました。

地元の高校に通いながら、この先の進路を考えた時にあることを思います。

ある程度の進学校に通っていたので、大学へ進学することもできたかと思います。しかし、そこへ行って何をするのかと思った時に、自分の得意分野である料理、特に魚に関することを選んだ方がいいと思いました。その中でも、日本人のアイデンティティである鮨を学びたいと思ったのです。

テレビなどで鮨屋の世界は厳しく、10年残る人は1人か2人ということも聞いていたという宇井野さん。

だからこそ、そこで頑張ってみようと思いました。

高校卒業後、鮨職人を志した宇井野さんは上京し、8年連続ミシュラン3つ星を獲得し続けている名店「鮨 さいとう」の門をたたきます。

鮨を本格的に学ぶならやはり江戸前だと思いました。天草にいたので東京の鮨屋事情がわからず、当時出始めたミシュランガイドと日本人が評価する食べログのレビューを見て、国内と海外どちらにも評価されているところが気になり『鮨 さいとう』に電話をしました。

上京して面接に行った時に、「鮨 さいとう」の大将・齋藤さんが鮨を握ってご馳走してくれました。

初めて食べる江戸前鮨は、緊張して味わう余裕がなかったですが、それでも美味しくて、この作り方を裏に入って学べるというのはとても楽しみでした。

「鮨 さいとう」時代の宇井野詩音さん

弟子入りしてから約6年、ついにお客さんに鮨を握りました。

初めてのお客様は、当時ずっと可愛がっていただいていたお客様でした。齋藤さんが『今度こいつに握らせようと思うんですけど、来てもらえませんか』と仰ってくれて、後日自分の鮨を食べるためだけに来ていただきました。

初めての握りは形にもなっていなかったけれど、それでもお金をありがたくいただき鮨職人としての一歩を踏み出しました。

27歳でニューヨーク「sushi AMANE」大将に

「sushi AMANE」の暖簾

「鮨 さいとう」で修行を積んでいたある日、ニューヨーク出店の話が舞い込んできます。当時26歳でした。

お客様からしか聞いたことがなかったニューヨークに対して不安はありましたが、知らないものを見てみたいという好奇心の方が強かったです。

旅行が好きでいろんな国へ行く度に、魚市場へ足を運んでいた宇井野さん。

日本にはない魚や美味しい食べ方に出会うのが楽しかったです。まだアジアにしか行ったことが無かったので、アメリカにはどういう魚がいるのかという興味がありました。

ニューヨーク「sushi AMANE」で大将となることを決意し、オープン準備を始めます。

「sushi AMANE」店内

そして迎えたオープン1日目。

事前準備はしていましたが、とにかくバタバタでした。準備期間が長かった分、ようやく握れたという嬉しさはありました。でも、まだまだこれじゃいけないという思いが強かったです。

空調や音楽など、店内環境においてもお客さんを迎え入れてお金をいただける状態ではなかったと語ります。

「鮨 さいとう」を知っている人や口コミを聞きつけた人で、「sushi AMANE」の8席は埋まりたちまち人気店に。

そんな喜びの裏には、ニューヨークならではの苦労もあります。

まずお客様の好みが日本人とは違います。仕入れについても、交通トラブルで配達が遅れることもよくあります。また、日本の魚を仕入れるときは直接魚を見て買えないので、少し多めに発注して、その中からお客様にお出しできるものを選ぶというやり方でなければうまくいきません。

言葉の壁にもぶつかります。

現地スタッフもまだ魚の使い方をよく知っているわけではないので、慣れない言葉で一から教える必要があります。苦労といえば苦労ですが、対応していくしかないと思っています。

また、ニューヨークに来てからあることに気が付きました。

ニューヨークの街は鮨に馴染みがあるといいますか、いろんな所で鮨の文字を見ますし、お客様が興味を持たれていることを強く感じます。今こうして自分がやれているのも、日本や世界で今まで鮨を広めてこられた方へ感謝をしなければと思っています。

わずか3ヶ月でミシュラン1つ星を獲得

宇井野さんが握る鮨

2017年7月12日にオープンした「sushi AMANE」は、暖簾を掲げてわずか3ヶ月で「ミシュランガイド ニューヨーク2018年版」で1つ星を獲得します。

齋藤さんをはじめ、『鮨 さいとう』のお客様からの紹介だったり、ニューヨークにいても繋がりを感じるので、今まで関わりを持たせていただいた方への感謝の気持ちがあります。こちらに来て、全てが自分の判断ですが、それも齋藤さんのもとでやらせていただいた経験があってこそです。今は自分ができることを手を抜かずにやることが大切だと思っています。

ミシュラン認定を受けて、ますます熱い視線を注がれる「sushi AMANE」。

今後もニューヨークで勝負をしていきたいという思いがある一方で、他の国にも興味があるそうです。

メキシコ人のスタッフから地元の魚の写真を見せてもらい、まだまだ知らない魚がたくさんいることに気が付きました。また、こちらのボストンのマグロは美味しいですし、今まで知らなかった日本のいろんな産地の魚を仕入れてみると新しい発見があります。

流通や漁師さんの技術は確実に日本の方がいいですが、単純に味だけでいうと、世界中に美味しい魚はたくさんあるはずなんです。それらを自分で確かめてみたいです。

尽きることのない探究心をもつ大将が握る、感謝とともに先代から受け継がれた至極の鮨は、今日も食通のニューヨーカーたちを唸らせています。

<店舗情報>
所在地:245 East 44th Street, New York, NY 10017(地下1階)
交通手段:グランド・セントラル・ステーションから徒歩5分
営業時間:月〜土 18:00〜23:00(18:00〜、20:30〜の2部制)