代表作「まぐろバッグ」を手にするレジェンド

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 「消耗しない」ことで有名な高知に全国から人が集まる合宿があるらしい。自然あふれる土地で見たのは、古新聞を使ったアイデアのぶつかり合い。レジェンドの名人芸に感動。高知で「消耗していない」のは、ネットの人だけではありませんでした。(朝日新聞記者・金澤ひかり)

【画像】おしゃれバッグに隠された超絶技巧、材料は意外なやつ…高知「消耗しない活動」の奇跡

レジェンド現る

 高知県四万十町で開かれているのは「しまんと新聞ばっぐインストラクター養成講座」。しまんと新聞ばっぐは、2002年、高知県在住のデザイナー・梅原真さんが、四万十川の川べりの木の枝にレジ袋がひっかかっているの見て、「四万十川流域で販売するものはすべて新聞で包もう」と提唱したのが始まりです。

 今では、地元の小学校跡で開かれる合宿には全国から人が集まります。

 インストラクター養成講座を開講しているNPO法人「RIVER」は、年に1回、しまんと新聞ばっぐ作品のできばえを競うコンクールを開催しています。そのコンクールで2015年と2016年の2年連続で、大賞を受賞しているのが渡辺隆明さん(60)。新聞ばっぐのレジェンドです。

「まぐろバッグ」製作秘話

 渡辺さんに、2015年に大賞をとった「まぐろバッグ」の製作経緯を聞きました。

 2015年のコンクールの作品締め切り約1カ月前、東京に出張中だった渡辺さんは、関東でインストラクターをしている仲間たちと食事をした際、「こんなのがあるので作ってみてくれませんか」と、見開き2枚分の紙面いっぱいにまぐろの写真が印刷された広告を手渡されました。6月に関東・関西のイオン店舗周辺で配られたイオンの新聞広告です。

 「まず大きさにびっくりした」と渡辺さん。数日間の出張の最終日には他の仲間が同じ広告を持ってきてくれたので、両面がマグロのバッグを作ろうと決めたそう。

 「臨場感と立体感を出したい」と、広告の大きさを生かし、マグロの写真全体を表に出せるような折り方を考え、バッグに仕立てようと決めました。強度や折り方を思案するうちに2日が過ぎ、3日目、やっと着手。5時間かけ、全体で24枚の新聞を組み合わせてバッグの形に仕上げました。

「想像と創造の人」

 養成講座のアシスタントを務めてくれた岡林香菜子さんは、渡辺さんを「まさにレジェンド。想像と創造の人です」と紹介してくれましたが、なるほど。納得です。

 渡辺さんは、普段、県内の学校に図工などの教材を販売しており、普段からものづくりには近しい人です。インストラクターの1期生で、新聞ばっぐ作り歴は8年です。「私には手に負えないのでお願いします」と持ち込まれる広告などもあるそう。

名作「あと1日」

 レジェンドに、コンクール用の作品を作る時に心がけていることを聞きました。

 「話題性のあるものをつくること。作品にする紙面は広告が多いけど、その際に見るのは絵柄や文字をどのように出すか。創造力を巡らせます」。特に、引きつける言葉のある広告の場合は、文字を全面に使うこともあります。

 2016年の受賞作品「あと1日」がその一つです。広告の文字の一部がバッグのデザインになるよう折られ、ワインバッグのサイズになっています。

「何も消費しない」満足感

 合宿では2日間にわたって新聞ばっぐ作りを学びます。参加者の目標はインストラクターの認定を受けること。合宿の成果によって、その合否が決まります。

 1日目に基本的な作り方を習い、2日目はレジェンド渡辺さんが、大中小のバッグを折る様子を、参加者それぞれが動画で撮影。その動画を見ながら、おのおの黙々と作品を作ります。
 
 紙のこすれる音が響く教室。でもみんな動画をみながら折っているので教室のあちこちから渡辺さんの声が聞こえます。変な感じ。

何も消費せず3時間も集中

 気がつけば、なんと3時間ほど、折り続けていました。あっという間でした。この間、私が折ったバッグは計9個でした。手は真っ黒。でも、何度も繰り返し折ることで、最後の方は動画を見なくても自力で作れるようになっていました。

 そして渡辺さんの点検時間です。作った作品の中から一番自信のあるものを渡辺さんにみてもらいます。渡辺さんが一人の作品を30秒ほどかけてチェックしていきます。再び静まりかえる教室。ドキドキします。そして参加10人の作品全てを点検し終わり、渡辺さんからの講評。

 結果は……全員合格でした!

 会場を後にし、昼食をとり、その後、四万十特産の塩を生産されている方の作業場を見学させてもらいプログラムは終了。「何も消費しない」のにも関わらず、この充実感たるや!

 仲良くなった合宿のメンバーと、帰り道にある道の駅でお土産を買いながら帰路につきました。