ゴールを決めた前田は真っ先にベンチへ。「チーム全体で獲った得点」という想いがあった。写真:滝川敏之(サッカーダイジェスト写真部)

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[J2リーグ41節]長崎 3-1 讃岐/11月11日(土)/トラスタ
 
 62分、悲鳴すら起こらなかった。約35分間にわたって守ってきたリードがなくなると、トランスコスモススタジアム長崎を沈黙が支配した。ホームでJ1昇格を決められないかもしれない……。そんな雰囲気すら漂っていた。
 
 だが、選手たちは諦めずにピッチを走り回る。高木琢也監督も勝利を掴むために策を練っていた。ファン・サポーターは必死に声を張り上げて後押しする。手放しかけた流れを、一体となって手繰り寄せようとしていた。
 
 再びスコアが動いたのは、11分後の73分だった。主役は前田悠佑。2012年から長崎に所属しているチーム最古参。クラブのJFL時代を知っているベテランだ。
 
 右サイドで澤田崇がボールを持つと、近くにいたファンマに預けた。トラップすることなく、ゴール前へとクロスを上げる。中村慶太が競る。イーブンボールが転々とペナルティエリア外に向かう。
 
 ペナルティエリア内に一歩入った辺り、ほぼ中央。「いい反応ができたかな。今日だけでなく、あのセカンドボールを拾うか拾われるかで流れは随分と変わってしまう。常に狙っていたなかで、今回はたまたまシュートを狙える位置だっただけ」。そこに前田は現われた。
 
「シュートコースは見えていた」という。「あそこに流し込もうと考えていて、『上手くいったな』と」。丁寧に右足でミートすると、GKが横っ飛びして伸ばした手の先をボールが抜けて行った。
 
 スタジアムは揺れた。2万2200人を超えるサポーターが総立ちになる。そんななか、前田は一目散にベンチを目指した。殊勲者はピッチ外にいたメンバーを「こっちへ来い」と手で呼ぶと、抱きついた。
 
「ピッチに立てるのは11人だから試合に出られない選手は絶対にいるけど、そういう選手たちも頑張っている。自分は代表して出場しただけで、あれはV・ファーレン長崎というクラブ全体で獲った点なので、ゴールを奪えたらベンチに行くのは決めていた」
 
 82分に追加点。これで3-1。クラブ史上初のJ1昇格は目前だった。前田は抑えられない気持ちの昂りを感じていた。アディショナルタイムの4分は短いようで、長かった。そして、主審がホイッスルを鳴らした。
 
 27分の乾大知の先制点より、73分の前田の勝ち越し点より、82分の翁長聖の追加点より、大きな歓声が湧き起こった。“ナガサキをひとつに”という合言葉がとても良く似合う瞬間だった。
 
「12年に加入してから、歳月は長いようで短かった。プレーオフで2回(13年、15年)負けていて、その悔しさが今年のJ1昇格につながった」
 
 前田はピッチに倒れ込んだ。「やり切った」。次々にいろいろな想いがこみ上げてくる。グラウンドがない時期も知っている。いくつもの失敗も経験した。その度に立ち上がり、前を向いて歩いてきた。
 
 悲願の結実。感極まり、自然と涙は頬をつたっていた。
 
取材・文●古田土恵介(サッカーダイジェスト編集部)

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