E7系による上越新幹線の速度向上試験が9月から始まった(写真:studio EVO)

上越新幹線は1982年に開業し、東海道新幹線、山陽新幹線、東北新幹線・東京―盛岡間と並ぶ「既設新幹線」の1つだ。これらの新幹線は、「全国新幹線鉄道整備法」に基づく「整備新幹線」とは違って建設費も巨額である。それは駅の規模が大きいことや、途中駅には必ず通過線が設けられていることでも明らかだ。建設コストを抑えた整備新幹線とは格が違う。

しかし整備新幹線が最高時速260kmで建設されたのに対して、上越新幹線の最高時速は240kmにとどまる。全国の新幹線でいちばん遅い。これは上越新幹線・東京―新潟間の距離が短くて、航空機というライバルがいないことで、ほかの既設新幹線ほどスピードアップが重要視されなかったことが理由の1つだが、運用されている車両も東北新幹線からのお古ばかりで、冷遇されている感は否めない。

上越新幹線に最新型「E7系」が登場

そんな上越新幹線に2018年度からE7系が新製投入されることになった。上越新幹線に新造車が投入されるのは開業時に投入された200系以来となる。E7系については、北陸新幹線と共通仕様のグランクラス付き12両編成を11本投入するとだけ発表されているが、グランクラスはもとより、全席にコンセントを装備した車両ということで、上越新幹線のサービスアップが期待されている。

そしてE7系を使用した上越新幹線での試運転が2017年9月から始まった。この試運転についてJR東日本は沿線自治体に「上越新幹線の速度向上試験」とアナウンスした。E7系の営業最高速度は時速260km。設計上の最高速度は時速275kmだ。はたして、上越新幹線の最高速度引き上げは可能なのだろうか。

最高速度の引き上げは、単に性能のよい車両を導入すればいいというものではない。速度向上に伴う大きな問題の1つが騒音である。速度向上によって騒音レベルに影響が及ぶのであれば、地元に通知して理解を求めるのは極めて当然の話ではある。


速度向上試験ではE7系のパンタグラフ側面に遮音板が設置された(写真:studio EVO)

しかし、この速度向上試験に使われたE7系には大きな変化があった。パンタグラフの左右にパンタグラフ遮音板という大きな側壁が設置されていたのだ。速度向上試験にはE2系1000番代も使用されたが、こちらの試験編成にもパンタグラフ遮音板が設置された。


通常のE7系にはパンタグラフ遮音板は設置されていない(撮影:尾形文繁)

パンタグラフ遮音板の役割は、文字どおりパンタグラフが発する騒音を遮断して沿線への騒音を低減させることだ。パンタグラフ関連の騒音はいろいろあり、走行風による風切り音や、架線との摩擦音、架線から離線する際に発生するスパーク音などが知られている。このうち、スパーク音についてはほぼ解消されている。また架線との摩擦音もさほど大きな問題となされておらず、いちばん重要視されるのは風切り音だといえる。

パンタグラフ遮音板が設置された理由

JR東日本では、パンタグラフの基台を流線型のカバーで覆い、基台を支持する碍子(がいし)を翼断面形状とした低騒音碍子を採用したパンタグラフをE2系1000番代やE7系に搭載。E2系1000番代はパンタグラフ遮音板を使用せずに、東北新幹線・宇都宮―盛岡間で最高速度時速275km運転を行っている。

E7系も北陸新幹線内では時速260km運転を行っているが、東北新幹線・宇都宮―盛岡間では時速275km運転をすることが可能な環境性能を持っている。そんなE2系1000番代とE7系にパンタグラフ遮音板を設置して上越新幹線での速度向上試験を実施しているのは、上越新幹線の地上設備が時速275km運転に対応していないためだ。

実は新幹線の騒音対策は車両だけで行っているわけではなく、高架橋の防音壁など地上設備側でも対策を講じることで成立している。つまり東北新幹線・宇都宮―盛岡間については地上設備でも十分な騒音対策を施しているため、E2系1000番代やE7系はパンタグラフ遮音板を使わずに時速275km運転を行うことが可能なわけだ。

東北新幹線・大宮―宇都宮間でのE2系、E7系の最高時速は240kmに制限されているが、これも騒音に関する地上設備の仕様によるものだ。余談だが、パンタグラフ遮音板を設置したE5系、H5系、E6系では大宮―宇都宮間でも時速275km運転を行っている。


現在の上越新幹線の主力車両であるE2系(写真:studio EVO)

つまり、上越新幹線の地上設備の防音設備も時速240kmで設定しているため、最高速度を引き上げる場合は地上設備もしくは車両側で騒音対策を講じなければならない。

上越新幹線の地上設備を改良して最高速度を引き上げる場合、大清水トンネルや中山トンネルなど、長大トンネル区間が4割あるとしても、地上区間の距離も意外と長く、工事費用や工事期間の確保、工事中の沿線への配慮など、考慮しなければならない点が多い。

スピードアップが必要なもう1つの理由

一方で、車両側にパンタグラフ遮音板を設置する場合、E7系11本についてはこれから新造するのだから、費用はそれほどかからないと思われる。またE2系や既存のE7系にパンタグラフ遮音板を後付け設置する場合もすでに前例があるわけで、それほど大きな問題ではないと思われる。


速度向上試験ではE2系にもパンタグラフ遮音板が設置されている(写真:studio EVO)

今回の上越新幹線スピードアップの検討は、東京―新潟間だけの話にとどまらない。現在新潟駅の在来線の高架化工事とあわせて上越新幹線と在来線特急「いなほ」の同一ホーム乗り換えも実施される計画となっており、東京と庄内エリアの移動に伴う所要時間の短縮も狙いの1つだと考えられる。むしろそれを視野に入れているからこその上越新幹線のスピードアップだといえる。

上越新幹線の速度向上試験は11月末まで行われる予定となっており、この試験の結果を受けて上越新幹線のスピードアップが実施されるかどうかが決まるものと思われるが、ぜひともスピードアップを実現してもらいたいところだ。