日本橋高島屋は、日本橋三越本店とともに、このエリアの象徴的な存在となっている(撮影:尾形文繁)

かつて、「黄昏(たそがれ)の街」といわれ、高齢者や背広姿のビジネスパーソンばかりが目立った日本橋(東京都中央区)。「2020年までに最も変化する街の1つ」(不動産の業界関係者)というほど、様相が一変している。


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月島や晴海地区に新しい超高層マンションが林立したことで、週末に親子連れの姿が目立つようになった。また、レストランを充実させた商業施設「コレド室町」(2010〜2014年開業)が呼び水となり、若いカップルやお年寄り夫婦など、全国から訪れる老若男女の観光客で連日にぎわいを見せている。

「人が集まる街」へと変貌した日本橋は、東京オリンピックが開催される2020年ごろには、さらに進化しそうだ。日本橋に本社を構える三井不動産や八重洲に拠点を置く東京建物など大手デベロッパーが、このエリアでオフィスを中核とした複数の大型開発を計画しているからだ。

日本橋は"お買い物"の街でもある

日本橋は老舗百貨店の日本橋三越本店や日本橋高島屋、旧・東急百貨店の跡地に立つコレド日本橋などが店を構え、知られざる「買い物」の街である。

特に高島屋にとって、日本橋は思入れが深い土地だ。1933年に開業し、2009年に重要文化財に指定された日本橋高島屋は、横浜店、大阪店と並ぶ基幹店舗の1つ。

「グループの総合戦略として『街づくり戦略』を掲げているが、その象徴的なプロジェクト」(木本茂社長)と同社が強調する「日本橋高島屋S.C.」という大型プロジェクトは、今まさにヤマ場を迎えている。

本館に隣接する地に三井不動産が建てる31階建ての高層タワーの低層部(地下1階〜地上7階)に、専門店を集めた「新館」を来年2018年秋に開業する。さらには昭和通り側の複合ビルの低層部(4、5階)にも、「東館」を2018年春に先行オープンする。



規模は現状の1.4倍に拡大


2018年秋に全施設が開業すると、日本橋高島屋は従来比で1.4倍の面積に拡張される(写真:高島屋)

関連の総工費は150億円に達し、2015年に開業した「ウオッチメゾン」を加えると約6万6000平方メートルと、従来に比べて約1.4倍の「都市型ショッピングセンター」となる。

「日本橋に大きなショッピングセンターを作るのは、高島屋の悲願だった」と、木本社長は語る。

高島屋は日本橋のこの新店舗で、新しい顧客の開拓を狙う。同社の従来店舗は50歳代以上のシニア層を主要客としているが、新店舗は若い層を中心顧客として設定している。

「次世代の顧客をどのようにして取り込んでいくかということは、高島屋の経営課題の1つ。日本橋の新店舗を20歳〜40歳代の顧客にも利用してもらえるように、今テナント誘致を進めている」(木本社長)

新店舗のテナント誘致を担うのは、子会社の東神開発だ。同社は田園風景が広がっていた東京都世田谷区玉川の地を、50年にわたって開発し続け、専門店が集積する「玉川高島屋S.C」へと変貌させた実績がある。

ショッピングセンター開発の実績が十分にある東神開発だが、新顧客開拓の使命を受ける日本橋のプロジェクトについては、当初からテナント誘致の明確な"解"を持っていたわけではない。

東神開発の清瀬雅幸専務は、「高島屋に来たことのない、いわば『食わず嫌い』の顧客に目を向けてもらうには、どのようなテナントを誘致すればよいか」を考えに考えたという。

そこで、まず地元町内会や日本橋エリア開発の中心的な存在である三井不動産などと、対話を重ねることに重点を置いた。時には飲み会にも顔を出し、聞き取り役に徹し「日本橋の街に必要な機能は何か」を探った。

そこで浮かんできた答えが、従来の店舗で主力としているファッションではなく、「食」を全面に打ち出すという”解”だった。

日本橋ではファッションアイテムを中心とする物販はすでに充実している。またアマゾンやZOZOTOWN、楽天といったネット販売が増えていることもあり、この分野を強化しても将来的な成長を見込めなかった。

新館は半分が食関連のテナントに


高島屋の木本茂社長は、1956年生まれ。1979年に横浜高島屋(現高島屋)入社し、横浜店副店長や新宿店長を務めた。その後、常務取締役、構造改革推進室長などを経て、2014年2月から社長を務めている(撮影:尾形文繁)

一方で食分野については、「(周辺に)マンションが増えているので、これからも生活人口が増える。オフィスも数多く開業するので、オフィスワーカーも増加する。食の需要は十分にあるだろう」(清瀬専務)。

そこで東神開発は、日本橋の新店舗では食関連のテナントを充実させる方針だ。

まず、新館の6階と7階をレストランフロアにし、地下1階では総菜などの食品を販売する。そして、1階の一部分にも食品テナントを入れるという。

つまり、新館の全8フロアのうち実に4フロアを、食関連のテナントが占めることになる。

食関連の商品を求めて来店する客の利便性を考慮し、営業時間も延長する計画だ。日本橋の本店は通常、朝10時30分に開店し、夜7時30分に閉店するが、一部の店舗は朝の開店を早くし、夜の閉店も遅くする。

食関連商品を充実させると、店舗全体の客単価は従来店舗よりも低くなることが予想される。だが、高島屋はまずは集客重視で取り組む構えだ。

もくろみどおり、客数を増やして新店舗の売り上げを伸ばすことができれば、2020年前後には本館の改装に着手する可能性もありそうだ。

ただ、日本橋には東京駅を挟んで対峙する丸の内エリアほど洗練されたイメージはないのも事実。日本国道路元標がある日本橋の上には首都高速道路が覆いかぶさっているが、地下移設については国土交通省や東京都が本格的な検討を始めたばかりだ。

さらに当初、「2018年春には大規模改装を終える」としていた日本橋三越本店も、来年秋に本館1階をリモデルするだけの内容に後退している。

新機軸を盛り込んだ高島屋の都心型ショッピングセンターは、日本橋全体のイメージを向上させる役割も担っている。日本橋の未来はどうなるのか。高島屋のチャレンジはその成否を占う1つといえそうだ。