中村新一氏

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★〈生きがい編〉定年後のうつ

 夕刊フジが9月に開催した「シニア懇談会」では、生涯現役を実践中の男女7人の生の声を聞き、シニアが直面する問題やテーマがリアルに浮かび上がった。今回は「定年後の心もよう」について考えてみたい。

 ■喪失感にさいなまれる

 大手電機メーカーに長年勤務していた中村新一さん(71)は現役時代、定年退職後のことはそれほど深く考えず、不安感もなかった。60歳で役職定年を迎えたとき、“定年がいきなりやってきた”感じがしたが、精神的なダメージはなかった。すぐにフルタイムの再就職をしたからだ。

 「そこで5年ほど働いて、65歳で会社を退職した時、これで会社生活が終わるんだという寂しさがこみ上げてきました。しばらく何もできず、うつ病のようになりました」と、中村さんは当時を振り返る。

 それは東日本大震災が発生し、日本中が混乱した時期と重なる。中村さんは憂鬱な気持ちに拍車がかかり、新しく何かを始める気にはとてもなれなかったという。

 65歳以上でかかるうつ病は「老人性(高齢者)うつ病」といい、特有の要因がある。

 ■人との関わりが回復へと導く

 何もしないまま1年を過ごしていた中村さんだが、心配した元部下の女性から、社長を含め社員全員が女性という翻訳会社「A&People(エイアンドピープル)」(東京都渋谷区、浅井満知子社長)を紹介された。ここで中村さんはITシステムを担当することになる。

 仕事内容は、社内ITシステム関連やPCヘルプサポートなどで、現役時代の経験とは異なった。しかし、パソコン関連のさまざまなトラブルをネット検索やメーカーへの問い合わせで解決し、社員のサポートに真摯(しんし)に取り組んだ。

 「皆さんには翻訳業務に専念してもらい、パソコン関連のトラブルなどは私の方ですべて引き受けています。未経験の業務内容でしたが、試行錯誤しながら今は知識もついてきました。皆さんに頼りにされることで充実感もあります」(中村さん)

 老人性うつ病の予防法のひとつに、「社会や人との関わりを絶やさないようにすること」が挙げられる。現役時代に築き上げた部下との繋がりが、次のステージの「人や社会との関わり」に結び付き、それが中村さんをうつ状態から回復させた。幸運な事例だろう。 (「オレンジ世代」取材班)