山崎賢人×広瀬アリス『氷菓』、実写とアニメはどう違う? “目で語る”役者らの演技を考察

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 山崎賢人と広瀬アリス主演の、謎解き青春学園エンターテイメント映画『氷菓』。原作である米澤穂信の小説〈古典部シリーズ〉は、これまでにもコミカライズやアニメ化も果たし、多くのファンに愛されている作品だ。

参考:本郷奏多、楽観主義の山崎賢人に鋭いツッコミ 「賢人って何も考えてないもんね」

 原作者の米澤も、公開前に自身のTwitterで「映画はその偉大な先行作(アニメ)に対し、殊更に背を向けようとするのではなく、かといってむろんのことそれに寄りかかるのでもなく、蓄積は大切にしつつ別の表現をしてくださいました」と語っている通り、アニメ版と実写版との違いを気にしているファンも多いのではないだろうか。

 今回の映画『氷菓』を見ていてまず気になったのは、劇中で音楽が流れるシーンがかなり限られているという点だ。回想シーンと折木奉太郎(山崎)の推理シーン以外は、ほとんど劇伴がつかない。そのため、人物のセリフ以外にも、細かな動作音や環境音が自然と耳に入ってくる仕様になっていた。

 そうした劇伴の少なさが、全体的にどこかレトロで落ち着いた作品の世界観を、より一層引き立てているように感じられた。古典部メンバーが、ヒロイン・千反田える(広瀬)の自宅で作業している時に、背景にうっすらと聞こえる鳥のさえずりや蝉の声。紙に文字を書く際に生じる、マジックペンのキュッキュとした音や鉛筆のカリカリとした音。そうした些細な音が耳に強く残り、田舎の風情やアナログ感を意識させられたように思う。

 さらに、本来、物語の山場では心情の盛り上がるような劇伴をつけるのが一般的だが、本作ではそうしたシーンでも、ほぼ無音楽だった。また、山場においては役者のセリフもそれほど多くはなく、無言のまま数秒が経過するような場面も少なくなかった。その、ほぼ無音状態を効果的に演出していたのが、役者たちの“目”の演技だ。

 原作では、折木がえるに初めて会った際にもっとも惹きつけられたのは、彼女の“瞳の大きさ”だと書かれている。正直なところ、山崎はさておき、広瀬はアニメや漫画版のえるとはかなり異なる雰囲気で、“かわいらしい天然”というよりは、“しっかりものの美人”といった印象だ。だが、広瀬の目の大きさや、瞳に光が入ってキラキラと輝くさまは、アニメ版のえるのイメージにかなり近い。えるの決めゼリフ「私、気になります!」の部分では、広瀬の顔がアップでスクリーンに映し出され、瞳がより強調されている。

 広瀬自身、決めゼリフのシーンは「監督からも、まばたきをしないでください、あごを引いてください、動かないでくださいとすごく言われていて。(中略)あのシーンは『目を特徴にしたいので』とクランクイン前から言われていました」と、インタビューで語っている。(引用:映画.com/氷菓 インタビュー)

 えるだけでなく、折木も推理シーンでは少し目線を上げることでひらめきを表現しているほか、糸魚川養子役の斉藤由貴も、クライマックスでは渾身の“瞳の演技”をみせる。彼女が過去を語るシーンももちろん劇伴はついておらず、セリフ量もそれほど多いわけではない。だが、斉藤が大きな瞳を震わせながら涙をためるシーンは、それだけで説得力バツグンで、まさに“目で語る”演技であった。

 山崎と広瀬という、青春恋愛作品常連の若手役者らを起用しているものの、そうした音響の使い方や細やかな演技もあってか、いわゆる青春映画のようなキラキラ感(『氷菓』風に言えば“薔薇色”感)は、良い意味で抑えられていたように思う。

 ほかにも、原作のセリフ回しやアニメの衣装を忠実になぞりながらも、時代設定や推理の内容が若干異なるなど、実写ならではのオリジナル要素も存分に組み込まれていた。古典部ファンであれば、そうした差異についても、推理ならぬ間違い探し的な感覚で楽しめるのではないだろうか。

※山崎賢人の「崎」は「たつさき」が正式表記

■まにょライター(元ミージシャン)。1989年、東京生まれ。早大文学部美術史コース卒。インストガールズバンド「虚弱。」でドラムを担当し、2012年には1stアルバムで全国デビュー。現在はカルチャー系ライターとして、各所で執筆中。好物はガンアクションアニメ。