桑田佳祐から「日本のアニタ・ベイカー(米R&B歌手)だ」と称賛されたシンガーソングライターをご存知だろうか。今年4月に17年に及ぶインディーズ活動を経て、ミニアルバム『うた弁』でメジャーデビューした半崎美子だ。同作に収録の「お弁当ばこのうた〜あなたへのお手紙〜」はNHKの『みんなのうた』4月〜5月のうたとして放送され話題となった。そんな彼女の魅力は、ライブに詰まっている。【文=松尾模糊】

人との出会いと繋がり

半崎美子(撮影=camp LLC)

 半崎は4日、東京・EX THEATER ROPPONGIで『「うた弁」発売記念ツアーファイナル コンサート2017〜特選!感謝の根菜盛り合わせ弁当〜』を開催。根菜や根など「土の中」をテーマに19曲を披露。華やかで温かみのあるステージで観客を魅了した。ここで感じたのは、彼女が人との出会いと繋がりを何よりも大事にしているということだ。

 2013年からは東京・赤坂BLITZでの単独公演を3年連続で成功させている。今公演はデビュー後、初ワンマンとなる。ここでは彼女がおこなってきた17年の音楽活動の集大成を見せたいと、開演前の囲み取材でも意気込んでいた。

 ライブでは、そんな彼女の強い想いを言葉の節々に感じ取れた。ワンマンでは、毎年テーマを設けているという。今回の「土の中」というテーマについて、「春にメジャーデビューという形で芽が出たのですが、17年間の活動の中で、土の中で根をはり続けた、その17年を皆さんと一緒に深堀りしていきたいと思います」と観客に語り掛けた。

 ここでは、半崎の家族に対する愛情と、家族のそれに負けないくらいの愛情のやり取りがリアルにステージを形作っている印象を受けた。「お弁当ばこのうた〜あなたへのお手紙〜」で、演奏中にステージ上を人参の着ぐるみを着た半崎の姉である、朝子さん親子が走り抜けるというコミカルな演出から、彼女が両親への想いを込めたという楽曲「永遠の絆」を、自身初となるストリングスのみでの演奏で披露する場面など「家族愛」溢れるステージであった。

 中でも、朝子さんは毎年のように出演していて、ファンにもお馴染みだという。この日も「朝子〜!」という歓声が観客から上がっていた。昨年の赤坂BLITZでのライブにも出産日にビデオレターで出演。大きく膨らんだお腹のシルエットが強調される全身タイツで踊っていたという。今回は、そのお腹の子も1年のときを経てステージに登場。半崎のスカートの裾を掴み、泣いているその子を2人であやす姿も微笑ましかった。

 今回ステージの背面には、歌詞の世界観をより引き立てるイラストがスクリーンに映し出され、印象的だった。スクリーン映像は全て、半崎が親戚だと勘違いして、連絡を取ったことを機に出会ったという映像作家・半崎信朗氏が手掛けている。半崎は、彼とその家族とも親交があることを語っていた。彼女が一つひとつの繋がりを重んじる様子が窺える。

 そして、もちろんファンとの繋がりは彼女が最も大事にしているものだ。デビュー前にショッピングモールで椅子の搬入からポスター貼りまで、自身でおこなってきた。半崎は「17年前は発信ばかりで、受信することをしていませんでした。ショッピングモールを回るようになって、受信する力が強くなったと思います」と語る。

 半崎の楽曲「空の青」は、ショッピングモールで出会った家族の母親が早くに亡くなった後、お墓参りの帰りに見た、抜けるような青い空と亡くなったファンへの想いを曲にしたという。半崎は「人はよく亡くなった方の為に生きると言うけれど、私は亡くなった方に支えられて生きてるなと、よく思います」とこの曲を演奏する前に語っていた。

人生に根付いた歌

リハーサルの様子

 これまでは、赤坂BLITZ公演も自力でおこなってきた。半崎は「毎年、年末に貯金を使い果たすというスリリングな公演をやってきました。今年は事務所にいるので…変な意味じゃなく(笑)」と冗談気味に話してはいたが、その苦労とパワーは想像を絶する。

 半崎は「ずっと個人で活動してきた時から、私は“階段”ではなく、“はしご”を選びました。階段のように一段飛ばしもできないですし、手と足をしっかり使って一段一段上る。その感触がしっかり残っています。そのはしごがぐらついても、必ず誰かが支えてくれました。私はメジャーに移っても、エレベーターではなく、はしごを選ぶんだろうなと思っています。しっかりと一段一段上って行きます」とメジャーデビュー後も変わらぬ想いを観客の前で誓った。

 17年という途方もないように思える期間を一人で生き抜いてきた。しかし、そこには家族をはじめ、スタッフ、関係者、そしてファンの支えがあり、半崎自身もその支えにしっかりと応えるように曲をしたためて来た。土の中で根を張り続けたその活動は、今年春にメジャーデビューと言う形で一輪の花を咲かせた。これから彼女には17年よりもっと長い人生が待ち受けているだろう。その中で、彼女の活動が桜の木のように大きな幹となって、満開の花々を咲かせる日もそう遠くないだろう。

 半崎自身「今は人の生活に根付いた曲を書きたいと思っていますが、これから40代、50代になったら人生に根付いた歌が書けると思ってワクワクしています」と今後の活動について前向きに語っていた。「自分より曲が長生きして欲しい」という彼女。彼女が曲として蒔いた種が、いつか誰かの人生を支える根となって再び芽を出すのかもしれない。