『犬が伝えたかったこと』(三浦健太/サンクチュアリ出版)

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 世の中、空前の猫ブーム。媚びることなく、自由気ままな姿が逆に愛おしいといい、犬派から猫派に転じたという人の話もよく聞く。犬派からすると、ちょっとさびしい情勢だ。

 可愛いけれど、犬はかまってあげなきゃいけない動物。飼うとなれば散歩に行かなければいけないし、吠えて近所迷惑になるのでは?とちょっと面倒くさいイメージもあるだろう。でも、愛を与えるほど飼い主を信頼し、忠実に気持ちに応えようとするのが犬。そんな健気な犬たちと人間の感動エピソードを集めたのが、『犬が伝えたかったこと』(三浦健太/サンクチュアリ出版)だ。

 ドッグライフカウンセラーの著者によって紹介されている20の物語は、さまざまな愛犬家から集められた実話。犬好きは間違いなく、そうでなくても多分、思わず涙してしまうものばかり。ここではそのひとつ、7歳のチワワ・リロの物語を紹介しよう。

 リロの飼い主は、暇さえあれば話題の場所に出かけていき、“充実している自分”をSNSに投稿することに夢中な27歳の女性。自分の投稿に「いいね」やコメントが多くつくことで満たされていた。中でも、しっぽを振りながら玄関先まで自分の靴下をくわえて出迎えてくれるリロの画像や動画は、アップしてすぐにいいコメントがつき、満足度が高かったという。

 ところがある日、ひとつのコメントがきっかけで、リロの白内障が判明。1年ほど前からリロの目は見えていなかった。飼い主はいつもスマホに気を取られ、リロの異変に気づかなかったのだ。見えない目の代わりに嗅覚を使って、リロは毎日、靴下をくわえて飼い主を出迎えていた。なぜなら、そうすればほめてもらえたから。

かまってほしくて一生懸命だったリロ。飼い主の幸せそうな雰囲気を感じることだけで犬は幸せなのだと獣医に言われ、女性は心を改める。それ以来、SNSとは距離を置き、投稿のための食事会や旅行はやめた。リロと触れ合う時間を大切にし、その体温を感じながら、前よりもたくさんほめてあげているという。

 本書には他にも、認知症になってしまったフレンチブルドッグ・ベルの懸命に生きる姿に活力を取り戻す会社員の物語、4歳のコリー・ラッキーによって絆を取り戻した家族の物語、実家の秋田犬・トッポの世話をすることによって社会復帰できた引きこもりの男性の物語などが紹介されている。犬との関わりがそれぞれの人生に深い影響を与えていることがうかがえる話ばかりだ。また、著者により、物語にまつわる犬の特徴や習性、その時々の犬の気持ちが解説されているので、そもそも犬がどんな動物で、どう向き合うべきかを改めて知ることができる。

 犬は一度心を許した飼い主のことを死ぬまでずっと好きでいるそう。10歳で人間の60歳から70歳。人間よりずっと寿命が短い犬。限られた時間の中で、犬にとって一番大事なのは「今」。少しでも多く、長く、一緒に過ごしてあげることが犬の幸せであり、それはきっと、人間にとってもかけがえのない時間になるはず。

 打算なんてない、ひたむきでまっすぐな無償の愛に、心がじんわり温まる一冊だ。

文=三井結木