ヴァイッド・ハリルホジッチ監督はベルギー戦までに日本代表を立て直せるか【写真:Getty Images】

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「W杯ではほとんどの選手がトップクラスなので…」

 日本代表は10日、国際親善試合でブラジル代表と対戦し、1-3で完敗を喫した。この試合中、日本代表やJリーグなどを幅広く取材し、日本サッカーに精通するイングランド人ライターのショーン・キャロル氏に随時話を聞いた。

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ーースタメンが発表されましたね! まず、日本のメンバーを見てどんな印象ですか?

「先発は予想通りだね。ベストメンバーだけど、後半で長澤(和輝)や森岡(亮太)を見たいですね」

ーー注目すべき点はどんなところになるでしょうか?

「まずボールを持っている時はポジティブにプレーしないといけない。攻めなかったら押し込まれると思う。キーマンになるのは大迫(勇也)ですね。チャンスを決めるだけじゃなくて、自分でチャンスを作らないといけない」

ーーマッチアップするのがチアゴ・シウバとジェメルソン。2人ともフランスリーグでもトップクラスのセンターバックなので難しいミッションになりそうですね…。

「だからこそこのようなトップレベルの相手と戦う。W杯ではほとんどの選手がトップクラスなので、その環境に慣れないといけない。もしこのような相手と戦う時に自分のストロングポイントを発揮出来なければW杯でも持ち味を発揮できないと思う」

ーーブラジル代表のスターティングメンバーはチッチ監督が前日の記者会見で予告した通りでした。注目ポイントはどこになりますか?

「サイドバックの攻撃参加ですね。日本はマルセロとダニーロのアタックに注意しないといけない。日本のDFはビビらないでプレーして欲しいね…。日本代表の選手はほとんどヨーロッパでプレーしているのでビビる必要はないと思う。けど、そうなるかもしれない…」

ーーちなみにショーンさんのスコア予想はどんな感じですか?

「難しいね! 0-2か1-3かな…。日本がゴールを奪うために隙があるとすれば、さっき話したサイドバックの背後かな。マルセロとダニーロが上がったら、その裏を狙ったカウンターでチャンスを作れるかもしれないね」

ーー日本がブラジルを相手に決めた最後のゴールは2006年のドイツW杯でした。もう11年も前のことなんですね…。

「先制点だったよね? 僕もそのゴールはよく覚えている。大学生のときで、当時の彼女と一緒にパブへ観に行ったけれど、キックオフには間に合わなかった。到着したら日本が1-0でリードしていてびっくりしたよ(笑)」

「もう少し経験のある選手が重要」「ブラジルとの差は本当に大きい」

ーー試合が始まりました。立ち上がりの日本はいかがでしょうか?

「ちょっとルーズだね。簡単にボランチの背中をとられてしまった。少し落ち着かないといけない」

ーー巷ではいろいろな意見を目にしますが、ショーンさんは日本代表の新しいユニフォームは好きですか?

「僕はあまりユニフォームオタクじゃないし、いつも『いいんじゃない?』と思う」

ーーいきなりビデオ判定になってしまいました…。

「PKかな!? 面白いね!」

ーーネイマールにPKを決められてしまいました。川島永嗣は少し動くのが早かったでしょうか。

「川島よりも吉田(麻也)だよね。あのファウルは少しもったいない…間違いなくいい勉強になったでしょう。僕は個人的にVAR(ビデオアシスタントレフェリー)が好き。微妙な判定がクリアになるし、ちょっとドラマチックじゃない?」

ーーまたPKを取られてしまいました。このプレーも明らかなファウルでしたが、前半でこんな展開になるとは…。

「川島がPKを止めたよ! 今回はさっきよりも動くのが遅かった。あ…井手口がミスしたね…。マルセロのシュートは良かったですが、ブラジルのような相手にあのようなプレゼントパスをあげてはいけない。Jリーグであれほどのミドルシュートを決められる選手は少ないけれど、世界では、特にW杯ではあれが基準になるから。井手口がミスをした瞬間、僕は『危ない』と感じた。このミスから学べばいいと思う。ここから必要なのは失点しないことだね」

ーー仮にこの試合に香川真司や本田圭佑、岡崎慎司がいたら何が変わっていたでしょうか。

「日本はここまであまり攻撃していないですが、やっぱりもう少しベテランで経験のある選手が重要になると思う。こういう状況でも落ち着いてプレーできる選手は必要だね。若手は絶対に必要だと思うけれど、同時に経験のある選手も大事だと僕はいつも言っている。そのバランスがあるチームはいい結果を残せるんじゃないかな」

ーー完全にフリーな選手を作ってしまい、素晴らしいクロスからガブリエル・ジェズスにゴールを決められてしまいました。これで3点差…。

「いまのディフェンスはひどかった。バラバラだったね。もちろんクロスの精度は良かったけれど、あれだけ余裕があって、ブラジル代表なら普通のこと。ディフェンスラインの距離感も本当に良くなかった。日本は守備から攻撃に切り替わった時、チームとして共通のアイディアがなさそう。選手たちはボールを奪ったらパニックになっているように見える。ブラジルとの差は本当に大きいですね…」

「日本は頭がパニックになっている」「ブラジルにとってこのゲームはもう終わり」

ーー前半は0-3と圧倒されてしまいました。正直、どうやったらこの差を埋められるかわからないくらいブラジルは強いですね。

「今、僕はその『差』についての本を書いているんだよね。ブラジルに追いつくのはもちろん簡単ではない。いろいろな要因があって、『自己認識』はそのひとつ。そして、子どもの頃からの育成も変えるべきところがあると思います」

ーー前半、日本の問題点を挙げるとすればどこでしょうか?

「DFとMF、MFとFWの間のスペースが広すぎると思う。最悪の事態ですね。失点も多いし、攻撃は全然機能していないし、選手たちは戦う姿勢を見せていないね。頭がパニックになっちゃっているかな。ピッチ外ではいろいろな準備ができて、話もできて、プランも立てられますが、サッカーはピッチ内で勝負が決まるもの。言葉と行動は違うからね。誰でも何でも言うことができるけれど、それを実現するのは難しい」

ーー日本は後半開始から浅野拓磨を投入しました。3点差という状況で、彼にはどんなプレーが求められるでしょうか?

「前向きにプレーしなきゃいけないね。マルセロの裏を狙わないといけない。日本の後半の立ち上がりはいいと思う。でも、ブラジルは少しゆっくりになってしまった。そしてハーフタイムでGKも交代した。ひどいね…」

ーー確かに、ブラジルのプレーはだいぶゆるくなりましたね。前半のような破壊力のあるカウンターを狙ってこなくなってしまいました。

「そうでしょう。ブラジルにとってこのゲームはもう終わりました」

ーーブラジルには余裕ムードが漂っていますが、もう一度エンジンをかけさせるために日本がすべきことは何でしょうか?

「ボールを持った時に、ブラジル側の深くまで進まないといけない。ミドルサードだけからだとチャンスは作れないよ」

ーー槙野智章がゴール! 日本が1点を返しました。いいゴールでしたね。

「ムードメーカーはチャンステイカー…かな(笑)。日本はあまりセットプレーから点を取れないから、いいことですね」

ーー日本がブラジルからゴールを奪ったのは11年ぶり、そして槙野は福田正博、中村俊輔、大黒将志、玉田圭司に続く5人目のブラジル戦得点者になりました。そうそうたるメンバーに並びましたね。

「次は2028年かな…?(笑) 槙野はファンタスティック・ファイブに入ったね」

「世界一のレベルを理解しないといけない」

ーーブラジルは前線の主力メンバーを全員交代させてしまいました。日本は森岡亮太と乾貴士を投入するようです。

「ブラジルはこの後イングランドと対戦(14日)するので、スターを少し休ませなきゃいけないね。日本は残り20分で攻めるしかない。僕はこの2、3年間、森岡のプレーをほとんど見ていないので、彼がどう変わって、どう成長したのか気になるね」

ーーここまで見てきて、守備陣で最も安定しているのは酒井宏樹でしょうか。ネイマールとも対面して、粘り強く対応できていたと思います。

「ファイターだね。彼は良い。ポテンシャルはあったけど、6年前はどうなるかわからなかった。でも今は右サイドバックの絶対的なファーストチョイスになったと思う」

ーー杉本のヘディングシュート、決まったかと思いましたがオフサイドでした…。

「ギリギリだったけどオフサイドだね。でも、今日の攻撃のセットプレーはいい。それと日本の後半のパフォーマンスはいい点だと思う。相変わらず守備のマーキングは悪いけれど、これが最初からできていれば…。前半は少しブラジルの圧力に負けてしまった」

ーー浅野も絶好のチャンスを外してしまいました…崩しまでは完璧でしたが…。

「これもテクニックじゃなくて集中力の問題だと思う」

ーーさて、試合は1-3で終わりました。スコア予想が的中しましたね。まず率直な感想を聞かせてください。

「前半の悪いスタートが敗因でしたね。後半は良くなったけど、ブラジルは100%じゃなかった。最も印象に残ったのは日本の3失点目のシーン。あのようなバラバラな守備はW杯で全く許されない。だからこそ、この試合をした意味があった。世界一のレベルを理解しないといけない。そしてW杯の前にできるだけそういうチームとの差を埋めないといけない」

「今日みたいなスタートは絶対に許せない」

ーーブラジルに力の差を見せつけられた形でしたが、逆に日本にとってポジティブな面はありましたか?

「日本の後半のリカバリー、そして攻撃のセットプレーですね。今日見られたブラジルとの差は、具体的に言うとボールを持った時の自信と判断スピードだと思う」

ーーその部分はブラジルの選手たちと同じくヨーロッパでプレーしている日本の選手との間にも明らかな差がありましたよね。なぜでしょうか?

「基本的にそれぞれの選手のプレースタイルは子どもの頃に決まってくる。もちろんもっと高いレベルのリーグに移籍すれば成長はできますが、ある程度限界があると思う。最終的には育成のところにたどり着くことになるけれど、これは世界中どこでも同じことが言えるんじゃないかな。サッカーは常に変化しているので、やるべきことも常に変わっていく。だからサッカーは面白い!」

ーーハリルホジッチ監督はベルギー戦までに何をすべきでしょうか?

「できるだけ選手に自信を伝えないと。選手たちをモチベートしていかなければいけないと思う。ハリルホジッチ監督は選手の基本能力を高めることはできないけれど、持っている能力を引き出すことができるからね。ここまでの戦いで日本人選手に何ができるか、何ができないのか理解できたはず。これからは、できるだけその中でもいいポイントを引き出していかないといけない」

ーーベルギー戦で引き出すべき「いいポイント」は何でしょうか?

「速くて前向きな攻撃だと思う。今日は後半で少し見られたけれど、もっと見せていかなければいけない。ブラジルやベルギーはオーストラリアよりも強いけれど、8月のあの試合の攻撃をもう一度思い出さないとね」

ーー日本の選手で最もポジティブなプレーを見せていたのは誰でしょうか?

「酒井宏樹かな。彼は攻撃でも守備でも諦めなかった。そのメンタリティを評価したいと思います。安定感は本当に良くなりましたね」

ーー最後に、ベルギー戦で日本代表に期待すること、どんなサッカーを見たいか教えてください。

「期待するのは試合の立ち上がりだね。今日みたいなスタートは絶対に許せない。そしてアグレッシブで前向きなプレーがもっと見たい。『ボールを持ったら顔を上げて、前を見てプレーして』と伝えたいね」

ーー遅くまで長時間ありがとうございました!

「こちらこそ、お疲れ様でした」

▽語り手:ショーン・キャロル
1985年イングランド生まれ。2009年に来日。「デイリーヨミウリ」「Jリーグ公式ウェブサイト」などにも寄稿。高校サッカー、Jリーグ、日本代表など幅広く取材している。過去にはスカパーのJリーグ番組出演も。

text by 編集部