都会からきた老若男女が稲刈りに精を出す。里山に子供が闊歩し、笑い声がこだまする

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 いまだに東京圏への人口流入が進む一方、過疎地域への移住も盛んになっている。転勤で移住とか、左遷で移住とか、そういった話ではない。自主的に過疎地域に移住する人が、長期トレンドとして増えているのだ。

◆農山漁村への定住願望を持つ、20〜40代の都市住民が急増中

 総務省「田園回帰に関する調査研究会」の中間発表というものがある。2005〜2010年のデータをもとにしているのだが、その5年間で約27万人が都市部から過疎地域へ移住していることがわかる。

 しかも移住した層の多くは定年退職した60代以降ではない。20〜30代が半分を占めているのだ。その後、2011年の東日本大震災と原発事故を経て、若い世代の過疎地域への自主的移住は確実に増えている。

 内閣府による2014年の「農山漁村に関する世論調査」でもこのことが裏づけられる。都市住民の農山漁村への定住願望は20〜40代が高く、20代では40%近い。2005年の調査では農山漁村の定住願望は20.6%だったが、2014年の調査では31.6%となり、9年で11%も上昇した。

 田舎に移住といえば、お金を貯めて地方で悠々自適にのんびり過ごす、というイメージを持つ人も多いだろう。しかしそういう移住者が増えているわけではない。

 彼らは、お米や野菜を一部でも自給したり、モノづくりや家づくりを手がけたり、地域ミュニティの活性化に奔走したりしている。決して悠々自適とはいかないが、消費依存から少しずつ抜け出して、人間らしい生き方に近づこうとしているのだ。

◆田んぼでの重労働は、疲れるどころか元気になる

 私たちが千葉県匝瑳(そうさ)市で主催する NPO「SOSA PROJECT」では、田舎への移住を考える都市型住民が米作りをできるようになるためのサポートをしている。田んぼの中に小さな区画を区切り、それぞれが田植えをし、草取りや収穫をし、それを食す。

 ちょうど今、稲刈りや脱穀など秋の収穫を終えようとしている。巷では美味しい新米が出回り始めた。今年初めて手作業でお米作りをした都市住民の方々に聞いた。

 川崎市で学校教師をしているYさんは、生徒に正面から向き合いたくもそれができない社会状況にもどかしさを覚え、心が荒み休職していた。

「田んぼでの重労働は、不思議なことに疲れないんです。むしろ元気になって帰ります。お米作りなんて初めてなのに、なぜか懐かしい。DNAが覚えているのかもしれませんね」

「最近、職場に復帰したんですけど、追い詰められても『どうにかなる』と思えるようになったんです。何ごとにも感謝の気持ちが生まれるようになりました。子供たちと向き合うために何をしたらいいか、やるべきことがはっきり見えるようになりました」

 弁護士をしているTさんは「食べるものがどう作られているのかを知りたいと思って、お米作りに来た」という。

「ふだん、机に座って仕事することが多いですよね。お米作りは、その逆の肉体労働。なのに気持ち良くて、ありがたささえ湧いてくる。田植えから稲刈りまでその成長を見てきて、今までは気にも留めなかったものが見えるようになったんです」

「例えば、田畑のある風景をクルマで走っていても『緑が広がっているなあ』という認識しかなかったのに『あ、先週より作物が大きくなったな。稲の穂が出たな、花が咲いているな』というように、田畑の変化に目が行くようになりました。お天気も気になるようになりましたね〜」

◆米作りを通して、都市生活以外の“生き方の選択肢”を提供する

 IT企業でデータベースの集積管理をしているHさんは、自分を変えるきっかけにしたいと思って米作りに挑戦した。

「日々の細々とした仕事が、誰のため何のためにやっているのか、わからなくなってきていました。お米作りに集まる多様な方々と出会って、会社に勤めるという選択以外にも、こういう居場所や生き方もあるんだな〜、って思えてきました」