トランプ大統領は、日中韓を経て4カ国目のベトナムからいよいよフィリピンへ。実はトランプ大統領の強硬姿勢によって、意外にも大きな成果が生まれた(写真:AP/アフロ)

アメリカのドナルド・トランプ大統領が、日本→韓国→中国→東南アジアの順でアジアを外遊中だ。日本では霞ヶ関カンツリー倶楽部でのゴルフ、中国では故宮貸し切りでの夕食会など、絵になるシーンが目白押し。それをまた大統領がツイッターで全世界に発信するものだから、毎度のことながら目立って仕方がない。この後はベトナムでAPEC首脳会議、フィリピンで東アジアサミットと続くので、トランプ御大のアジア漫遊旅行はさらに話題を振りまくだろう。

アメリカとの通商摩擦回避を避ける日中韓3カ国


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個人的に興味深く感じるのは、日中韓の3カ国がそれぞれ対米通商摩擦を避けるために、並々ならぬ努力を払っていることだ。なにしろトランプ大統領自身がこの問題に対して無知、もしくは基本的な誤解をしているようなので、身に降りかかる火の粉を払わねばならない。

11月6日、安倍晋三首相との共同記者会見に臨んだトランプ大統領は、途中までは神妙な面持ちであった。行儀よくイヤホンを着けていたし(面倒になると、「俺は通訳なしでも分かるんだ」と言って外してしまう癖がある)、手元のメモを読みつつ慎重に答えていた。

北朝鮮への「戦略的忍耐」の時代は終わった、と述べ、拉致被害者への優しい言葉があり、なおかつ日本側が恐れていた「日米FTA」という言葉は出なかった。万一、飛び出した場合には、「その問題は、マイク・ペンス副大統領=麻生太郎副総理の日米経済対話で扱いましょう!」という逃げ道は用意してあったのだが、こういう保険は「掛け捨て」が望ましい。安倍首相にとっては、「満額回答」の展開であった。

雲行きが変わったのは、4人目の質問者としてニューヨークタイムズ紙の女性記者が立ってからである。おそらくは安倍さんにとっての朝日新聞と同様、天敵ともいうべき存在だけに、身構えるものがあったのだろう。
記者が尋ねたのは、日本が上空を行く北朝鮮のミサイルを撃ち落とさなかったことの是非についてだ。

これは安保法制の際にも議論された法的な問題なのだが、トランプ大統領はこの質問を受けて、「日本はもっとアメリカ製の兵器を買うべきだ!」との持論をとうとうと述べ始めた。「そうすれば、日本も上空で撃ち落とすことができるだろう」「F35戦闘機でもミサイルでも、アメリカは世界最高の軍事装備を保持している」「アメリカでより多くの雇用が生まれ、日本はより安全になるだろう!」

「ああ、やっぱりこの人はコントロール不能な人なんだなあ」と見る者に思い出させてくれたので、思わずテレビの前で「NYT、グッジョブ!」と叫んでしまった。

「防衛装備品で貿易摩擦解消」が現実的でない理由

とはいえ、「日本に防衛装備品を買わせて貿易摩擦を解消」というのは、まったく現実的ではない。日本の防衛関係費は2017年度予算5.1兆円で、よく知られている通りGDP比1%未満だ。うち44%を人件、糧食費が占めている。物件費は例年2兆円台後半だが、輸入比率は多い年で2割、例年だと1割前後に過ぎない。考えてみればわが国の防衛装備品は、護衛艦いずもからヒトマル式戦車、偵察衛星まで国産が多いのである。

ちなみに本年度のFMS予算(Foreign Military Sales:アメリカ政府が同盟国及び有効諸国に対し、装備品を有償で提供する枠組み)は3596億円。今後、F35戦闘機やイージスアショアを導入すると少し増えるかもしれないが、それらは中期防衛計画に沿って数年がかりで調達することになる。もし、トランプ訪日効果で上積みされるとしても、せいぜい年間数百億円といったところだろう。他方、日本の対米輸出は2016年度実績で輸出が14.1兆円、輸入が7.5兆円、差し引き日本側が6.6兆円の黒字となっている。衆寡敵せずというヤツだ。もちろんそんなことを、わざわざ大統領にご注進する必要はないけれども。

次の韓国でのトランプ大統領の国会演説は、全体35分間のうち24分間を北朝鮮非難に費やした。お陰で注目の「米韓FTA見直し」に触れなかったので、これまた韓国側が胸をなでおろした。

ただし安心するのは早過ぎる。トランプ大統領が意識しているのは来年の中間選挙だ。それまでの残り時間は1年を切った。減税など、議会で法案成立が必要な課題はあいかわらず難航している。そこで通商政策で眼に見える成果を挙げておきたい。中でも最重要課題はNAFTA見直し交渉だが、カナダとメキシコを牽制する狙いもあって、トランプ大統領は9月上旬に「米韓FTAを撤廃だ!」とぶち上げた。現時点ではブラフであっても、NAFTA見直しで満足な成果が得られなかった場合、話が蒸し返される恐れは十分にあるだろう。

そして中国は、総額2535億ドル(28.8兆円!)の巨額商談でトランプ大統領を迎えた。アメリカの対中赤字が年間3672億ドルに及ぶことを意識して、思い切り金額を膨らませたのであろう。ただし「真水」の規模はどれくらいあるのやら。また、アラスカでのLNG開発投資からボーイング社の航空機300機購入まで、さまざまな案件を積み上げてみせたが、個々の事業の採算はどうなっているのか。短期間にこれだけの契約がまとまるのは「さすが中国」だが、まともな市場主義経済ではあり得ない所業であることも間違いない。

もちろんトランプ大統領としては、大盤振る舞いにご満悦であろう。アメリカの雇用のためにこんなに頑張ったぞ!と国内でアピールすることができる。ただしこれらの大型契約が執行段階でどうなるのか。米中関係に新たな火種を作ってしまうかもしれない。

「TPP11」は、トランプ大統領の強硬姿勢のおかげ?

かくしてトランプ大統領は、行く先々で通商問題を振りまいている。しかし同時にプラス効果ももたらした。それは11月9日夜、ベトナム・ダナンで行われた閣僚会合で「TPP11」の大枠合意が決まったこと。察するに交渉の最終段階、共同議長を務めた茂木敏充経済再生担当大臣は、「とにかく今夜のうちにまとめようじゃないか! 明日になったらトランプさんが来てしまうぞ!」と発破をかけたんじゃないだろうか。アメリカの離脱によって崩壊寸前に追い込まれたTPPは、辛くも11か国で妥結にこぎつけることができた。

ベトナムやマレーシアなど、アメリカ抜きのTPPに消極的な国も確かにあった。しかし参加各国としては、将来アメリカが2国間交渉を迫ってきたときに、「ウチはTPPで約束した以上のことは譲れないんです!」と言い張ることができる。日本も同様で、今後、農産物や自動車でアメリカからご無体な要求を突きつけられたら、「だったらオタクがTPPに入ってくださいよ」と言い返すことができる。結果論だが、今回TPP11が妥結に至ったのはトランプ大統領の強硬姿勢のお陰なんじゃないだろうか。

そうだとしたら、心からお礼を言おう。ありがとう、トランプさん。

週末の11月12日は、エリザベス女王杯(京都第11R、距離2200メートル)である。豪華メンバーが揃ってまことに楽しみなレースとなった。古馬のトップクラスが勢揃いで、出ていないのはソウルスターリングくらい。そして3歳牝馬では3歳クラシック最後の一冠である秋華賞の1~3着が出馬する。

エリザベス女王杯は、ドナルドだからミッキー!?

このレースのユニークな点は、その年のヴィクトリアマイル(5月に行われる、牝馬限定の1600メートルG1)でボロ負けした馬が意外とよく来るのである。

2016年の「エリ女」の覇者はクイーンズリングだったが、ヴィクトリアマイルでは8着だった。また、2014年のラキシスは同15着、2012年のレインボーダリアは同12着といった具合だ。春の府中の1600mと秋の京都2200mでは、勝ち馬の傾向がまるで違うのは当然だが、同じ英国女王でもヴィクトリアとエリザベスでは全然違う、と覚えておきたい。

そこで今年は、ヴィクトリアマイルで期待を裏切った馬から狙ってみよう。その方がオッズ的にも妙味があるからね。4番人気で4着だったスマートレイヤーなんぞは、中途半端な存在ということで切ってしまおう。狙い目はミッキークイーン(1番人気で7着)とルージュバック(2番人気で10着)に絞ることができる。

普段の筆者であれば文句なく後者を選択し、ルージュバックのG1初制覇を応援したいところ。昨年のこのレースも、マンハッタンカフェ産駒のワンツーフィニッシュだったし。ところがエリザベス女王杯には、「乗り替わりは凶」というジンクスもある。ルージュバックの鞍上は、戸崎圭太からオールカマーで北村宏司騎手に代わり、今度は名手ライアン・ムーア騎手だという。普通なら買い材料なのだろうが、ここは死角があると見た。

逆にミッキークイーンは、浜中俊騎手が2歳馬の時から続けて乗っている。宝塚記念3着以来久々のレースとなるが、大丈夫、この馬は休み明けでもちゃんと走る。ということで、狙いはミッキークイーンとする。

何より今週はトランプ大統領訪日の印象が強く残っている。ドナルドといえばミッキー(マウス)、トランプといえばクイーンじゃありませんか。ここはやっぱりミッキークイーンの出番でしょ。などと言いつつ、ルージュバックとのワイドも押さえておきたいと考える次第である。