6日に行われた日米首脳会談の席上、北朝鮮に対する圧力強化を確認した安倍首相とトランプ大統領。しかしジャーナリストの高野孟さんは自身のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』で、度々「最大限の圧力」と口にする首相を痛烈に批判するとともに、「強硬一本槍の安倍首相の対北朝鮮姿勢こそが日本の国難」とバッサリ切り捨てています。

強硬一本槍の安倍首相の対北朝鮮姿勢こそが日本の国難──日米首脳会談の間違ったメッセージ

「もはや対話の時ではない」「あらゆる選択肢がテーブルの上にあるとする米国の立場を支持する」「圧力を最大限まで高め、北朝鮮の側から『政策を変えるから対話をしてほしい』と言ってくる状況を作らなければならない」──という安倍晋三首相の北朝鮮危機に対する基本姿勢は、勇ましくはあるけれども、あまりに一本調子の、幼稚とさえ言えるほどシンプルなもので、これではとうてい、危機を回避して、このややこしい問題をもつれた糸をほぐすようにして平和的に解決する道筋は、開かれることはない。

先の総選挙を安倍首相が「国難突破選挙」と言い立てたのに対し「お前が国難なんだ!」と野次が飛ぶ場面は、テレビのニュースにも映し出されたが、まさにその通りで、北朝鮮の核・ミサイルそのものよりも、それへの安倍首相の見当違いの対応こそが国難なのである。ところが安倍首相はその誤った認識を、トランプ米大統領との合意にまで仕立て上げようとしていて、その結果、日本の国難は韓国にも米国にも拡散しかねない深刻な状況が生まれつつある。

落とし所のない圧力?

そもそも一般論として、どんな交渉事であろうとも、逃げ道も落とし所も用意せずに、ただ自分の主張を一方的に押し続けて屈服を迫るだけでは、よくて決裂、相手が切れて暴発して喧嘩になってしまえばすべてはブチ壊しとなる。そんなことは子どもでも分かるはずだが、安倍首相はそうは考えず、北朝鮮は必ず降参して、向こうの方から「政策を変えますから許して下さい」と申し出てくるはずだと思い込んでいるかのようである。

しかし、朝鮮戦争終結から3分の2世紀、米韓両軍の軍事的圧迫に常時さらされ、あらゆる経済的苦難に直面しながらも、プライドだけは捨てまいという一念で親子3代が生き抜いてきたあの国が、安倍首相ごときの「言葉の戦争」に恐れをなして膝を屈してくるなど、断言してもいいが、100%あり得ない。

安倍首相がそのことを知らずに最大限の圧力をと言っているだとしたら、彼の北朝鮮理解は浅すぎる。逆に、知って言ってるのであれば、それは、北朝鮮が暴発するか、それを察知した米国が先制攻撃を仕掛けるか、あるいは双方とも未だその気ではないのに疑心暗鬼や不測の折衝事故から戦闘に転がり込むか、いずれにせよ北朝鮮、韓国、日本の何百万人の命を危険にさらす戦争を煽り立てているだけのことになる。

安倍首相にできるのは「言葉の戦争」

ところが、本当のところ安倍首相にできるのは、情けないことに、「言葉の戦争」だけである。日本は単独で北朝鮮を攻撃するだけの能力を持っていない。従って、安倍首相がどんなに「あらゆる選択肢」とか強がりを言ったところで、実際に軍事的圧力をかけられるのは米国だけで、日本は安保法制を発動してその後方支援をしたりエスコートしたりするのが精一杯である。米国の大きな背中の斜め後ろに隠れながら、「お前なんかやっつけちゃうぞ。うちのお兄ちゃんは強いんだからな」と声だけ上げている駄目な弟、という風情に、向こうからは見えているのである。

他方、経済制裁について言えば、北朝鮮の貿易の9割は中国相手で、その中国は石油供給を完全に絶って北朝鮮を破滅させたり暴発させたりするほど追い込むことは、自国の安全保障上の利益に反するので、やらない。ということは、経済制裁も今がすでに「最大限」に近く、それに対して日本は(かつては北の2番目の貿易相手だったが)既に7年も前から北との貿易額はゼロであって、この面でも自ら出来ることは何もない。

従って、安倍首相にとってまことに残念なことに、金正恩はほとんど日本に関心がなく、彼がいま仕掛けている切羽詰まった対米戦略ゲームの中では、安倍首相はバイプレイヤーとしてすらもカウントされていないのである。

北は「日本に向かって」撃っていない!

そうは言っても、「北朝鮮は日本に向かって度々ミサイルを発射しているではないか」と安倍首相は意気がるかもしれない。確かに先頃は北のミサイルが2度も北海道・襟裳岬の上空を通過し、Jアラートが発せられて新幹線が止まったり、その方面に急遽パトリオット迎撃ミサイルが配備されたりする騒ぎとなった。

しかし、北朝鮮がいま取り組んでいるのは、ICBMの射程を本当に北米大陸に達するところまで伸ばすための実証実験である。それを本来の飛翔コースである中国東北〜東シベリア〜北極海〜ハドソン湾〜ワシントンの方向に発射実験を行うことは不可能であり、また南東に向かって撃つとグアムの米軍基地への攻撃と誤解されるし、その他の島も散らばっていて危ない。そこで、北太平洋からハワイとロサンゼルスの中間辺りの比較的無難な海域を狙って撃っているのであり、その方向に撃つと、たまたま襟裳岬の上空を通るというだけの話で、別に「日本に向かって」撃っているわけではないのである。

しかも、国際常識では航空機の安全確保に必要な領空範囲は100キロ前後までとされていて、それより上は公共的宇宙空間であって、そこをミサイルや人工衛星が通過しても騒ぐ理由は何もない。そう指摘されると、政府・防衛省は「いや、間違って日本領内に本体や部品が落下した場合に備えるのだ」とか言っているが、軌道計算不能の突然の落下物をPAC3で撃ち落とすなど、技術的に全く不可能なお伽噺である。

だからといって、北朝鮮が日本に核・ミサイルを向けることは絶対にないのかと言えば、そんなことはない。仮に米朝戦争になれば、北朝鮮は確実に朝鮮国連軍後方司令部のある横田空軍基地はじめ全ての在日米軍基地を攻撃するし、それだけでなく、米軍の後方支援活に出た自衛隊部隊や基地も攻撃する。いや、基地1つ1つでは面倒なので、化学兵器や核兵器を装着したミサイルで首都ど真ん中を撃ったり、日本海岸に面した原発群を通常爆弾のミサイルで撃ったり、向こうにはいくらでも選択肢があって、少なくともその中のいくつかはすでに実戦的なターゲッティング(目標設定)の対象となっているだろう。今年3月に北が4発の中距離ミサイルを同時発射した後に、金正恩は「今回の実験は在日米軍基地を目標にしている部隊が実施した」と言ってはばからなかった。

従っていま日本の総理大臣がやらなければならない喫緊の国難解消策は、金正恩とトランプの危なっかしい駆け引きで瓢箪から駒のように悲惨な戦争が勃発しないよう事態を沈静化することであって、それを煽って日本に戦火を招き寄せることではない。

平和協定交渉が北の目的

北朝鮮が歯を食いしばってでも核・ミサイルを開発・配備しようとする最大の目的は、朝鮮戦争以来70年近くにわたって怯え続けてきた米国による核恫喝を抑止し、それによって辛うじて成り立つはずの戦略的拮抗関係を背景に、38度線の休戦協定を平和協定に置き換えて朝鮮半島の国際法的な「戦争状態」を解消すると同時に、米国と国交関係を樹立して、国家消滅や体制崩壊の恐怖に苛まれることなく経済建設に励むことができる道を拓くことであって、それ以外にない。

そのことを、米国の外交・国防政策の実質を担っているティラーソン国務長官、マティス国防長官の2人、その後ろに控える共和党系外交政策エスタブリッシュメントの大御所であるキッシンジャー元国務長官らは十分に理解している。ティラーソンは「北朝鮮の政権交代を求めておらず、政権崩壊も望んでおらず、朝鮮半島の統一も求めておらず、非武装地帯の北に米軍を送ることも考えていない」という「4つのNO」路線を繰り返し表明している。ところがトランプは、北に対する「炎と憤怒」だとか「今は嵐の前の静けさだ」とか、北への軍事攻撃を示唆するような激情的な発言を繰り返している。

中国はじめ韓国、ロシアなど周辺関係国も欧州も、これを「人情刑事と強面刑事の役割分担戦略(a good cop-bad cop strategy)」(10月16日付ニューズウィーク)、つまりトランプに戦争も辞さずという恐ろしげなことを言わせ、空母やB1爆撃機を半島周辺に派遣するなどして圧力をかけるけれども、最終的には交渉による解決に落とし込んでいくのが米国の本音だと理解していて、それが世界常識である。

ところが、ただ一人そうでないのが安倍首相で、彼はトランプの戦争をも辞さずというのが米国の本音だと捉えて、そこで日米が完全に一致したことを今回の日米首脳会談で喧伝し、それに歯止めをかけようとするティラーソンやキッシンジャーを「軟弱者」としてトランプから隔離しようとさえしている。

北を「核保有国」と認めるかが焦点

米国の外交政策プロフェッショナルや議会の専門家の間での議論の焦点は、北が核開発を放棄することを前提に交渉に応じるという長年の政策の失敗を反省して、ここまでで核開発を中止すれば交渉に応じるという「核保有国として容認する」政策に転換するかどうかである。これに対する安倍首相と取り巻きの反対論は、「そんなことをすれば、米国に到達する長距離ミサイルは開発中止になるが、日本を撃てる中短距離ミサイルは残ってしまう」というものである。

しかし、北朝鮮に日本に向かってミサイルを撃たなければならない理由は何もない。柳澤協二氏が言うように「脅威=能力×意思」であって、能力があるから直ちに脅威ということにはならない。その証拠に、中国のミサイルを誰も脅威だとは言っていない。しかも、それで交渉が緒について、平和協定と米朝国交が成れば、朝鮮半島の非核化と軍縮のプロセスが始まり、北が食うや食わずで核開発に励まなければならない理由そのものが消滅に向かうので、日本は何も恐れることはない。むしろ、米朝対話を促すことこそ日本の平安を確保する唯一の道筋なのである。

image by: 首相官邸

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