会食やゴルフを楽しむなど「蜜月」関係を見せた2人だったが…(写真:ロイター/アフロ)

ドナルド・トランプ米大統領と、安倍晋三首相の11月6日の日米首脳会談やその後の共同記者会見は、両首脳の「蜜月ぶり」の一方で、微妙なずれが見え隠れする、興味深いものだった。

トランプ氏が、北朝鮮に対して融和的な言葉も口にするなかで、安倍首相は圧力をかけ続ける必要性を強調。トランプ氏は、対日貿易赤字など通商問題の協議をむしろ優先させるような姿勢もちらつかせ、袖の下から鎧がちらりと見えた。「対等なパートナー」というよりも、「兄貴分」のようにふるまうトランプ氏の姿勢も目立った。同時通訳を通してではわからない、日米関係の別の側面をリポートしたい。

安倍首相に対して失礼なジョーク

象徴的だったのは、11月6日の東京・迎賓館で開かれた会見での一場面だった。

「日本は大変特別な場所だ。日本の人々は繁栄していて、日本の都市は活気に満ちている。そして、あなたがたは、世界で最も強力な経済の1つをつくりあげた」

トランプ氏は、事前に用意された原稿を読みながら、ここまでは日本を褒めちぎっていたが、ふと顔を上げ、安倍首相のほうを向いて語り始めた。

「私には、それ(日本経済)が、我々の(米国経済)と同じぐらい良いものなのかどうかはわからないけど。私はそうは思わないし。いいかい? (I don't know if it's as good as ours. I think not. OK?)」

トランプ氏が、安倍首相に、「日本経済よりも米国経済のほうが上だ」と言い聞かせるような微妙な場面になった。「いいかい?(OK?)」とトランプ氏から賛意を促された安倍首相は、トランプ氏のほうを向いて、肯いた。

すると、トランプ氏はさらに、「私たちは、その形を維持していくようにしよう。でも、あなたは2番目だよ(And we're going to try and keep it that way, but you'll be second)」と続けた。

ほんの少しの間だけ、用意された原稿から目を離したトランプ氏が安倍首相に語ったのは、<日本経済は米国経済にはかなわない、日本は2番だ>という、あけすけなメッセージだった。

冗談めかしているとはいえ、一国の首相に対して失礼なジョークのように私には思えた。会場では少し笑いも漏れていたが、なんともいえない微妙な空気のように見えた。

あとで同時通訳されている日本のテレビの映像を見ると、おそらく通訳も予期していなかったのか、日本語訳には少しタイムラグもあり、訳された日本語自体もわかりにくく、同時通訳を通じて見ていた人たちは何が起こったのかよくわからなかったのではないかと思う。

失礼さにすぐに気づいたのは、ホワイトハウス詰めの米記者たちだった。

ある米主要メディアの記者は会見後、私に、「米国経済のほうが上だなんてあの場で言うのは、(トランプ氏は安倍首相に)意地悪で、いじめ(mean and bullying)のようだった。あんなことを言うような理由はまったくないのに」として、トランプ氏の言動に怒っていた。

日本時間の11月6日、米国ではテキサス州で26人が死亡する銃乱射事件が起こっていた。銃乱射事件が大きく報道されるなかで、トランプ氏の日本訪問や会見についての報道は米国では限定的だった。しかし、やはり、会見でのこの1コマは米記者たちには印象的に映ったようだった。米CNNが6日夜、東京にいる同行記者と中継をつないでリポートを流したときは、やはり日米の共同記者会見については、この部分を放映していた。

さらに6日深夜、ワシントン・ポスト(電子版)はこの部分に焦点をあてた記事を配信した。「日本のリーダーのシンゾー・アベは、トランプの忠実なサイドキック(助手)の役割を演じている(Japanese leader Shinzo Abe plays the role of Trump’s loyal sidekick)」

Sidekickという言葉は、英語-日本語では「相棒」とも訳されるが、ウェブ上のメリアム・ウェブスターの英英辞書では、「a person closely associated with another as a subordinate or partner」と書かれており、「もう1人の人物と、従属者またはパートナーとして密接に連携する人のこと」という説明だ。対等な相棒というよりは、やや従属気味の助手という語感がある。

実際、ワシントン・ポストの記事は、トランプ氏が「アドリブ」で安倍首相に語りかけたと説明し、「いいかい(OK?)、という様子は、親が子どもに語りかけるようだった」と描写。そして「安倍首相は、耳につけた同時通訳を聞きながら、ほほえみ、静かなままだった。しかし、彼の顔には、不安がのぞいていた」とも記していた。

ゴルフや会食など、トランプ氏と安倍首相の間の「蜜月」が目立っていた一連の訪日日程のなかで、米記者たちの間では、トランプ氏の素の部分が出ていたこの場面が強い印象を残したようだった。

北朝鮮問題でも、微妙なずれ

そもそも、最大の焦点だった北朝鮮問題でも、両首脳の間には、微妙なずれが見え隠れしていた。

11月6日の日米首脳の共同記者会見では、安倍首相は「北朝鮮に対する圧力を最大限まで高めていくことで完全に一致した」と強調し、トランプ氏も「米国は、日本の人々と団結し、北朝鮮の脅威に立ち向かっていく」と語った。

ただ、トランプ氏は11月6日の会見での質疑応答のなかで、意外な言葉も口にした。「北朝鮮の人々は、すばらしい人たちだ」「すべてがうまくいくことを望んでいる」と述べたのだ。

トランプ氏は8月に、北朝鮮に対して、「炎と怒り」で対抗すると語り、核兵器の使用を連想させるような強硬姿勢をみせていた。さらに、9月の国連総会では、金正恩氏を「ロケットマン」と呼び、「完全に破壊する」とも威嚇していた。

そのトランプ氏が訪日の際に、金正恩氏を名指しで攻撃することを控え、さらに北朝鮮の人々を「すばらしい」とまで、褒めたのはなぜなのか。

伏線は前日にあった。

日本時間の11月5日早朝、ハワイから日本へと向かう大統領専用機「エアフォース・ワン」の機中で、トランプ氏は突然、記者たちの席のそばにやってきて、簡単なインタビューに応じた。

記者から「アジア歴訪中も、北朝鮮に対する強硬なレトリックを続けるのですか?」と聞かれたトランプ氏は、質問には直接答えず、「私たちは、問題を解決したいと思っている。これは米国と、世界にとって大きな問題であり、私たちはそれを解決したいと思っている」という慎重な言い回しに終始した。

さらに、記者から「北朝鮮の人々へのメッセージは?」と問われたトランプ氏は、「彼らはすばらしい人たちだと思う。彼らは、勤勉だ。彼らは、温かい人たちで、世界が知っているよりもずっと温かい人々だ。彼らはすばらしい人々だ(I think they’re great people. They’re industrious. They’re warm, much warmer than the world really knows or understands. They’re great people. And I hope it all works out for everybody)」とも語ったのだ。

だからこそ、11月6日の東京での記者会見で、トランプ氏に同行してきたロイター通信の記者は、「あなたは、昨日、北朝鮮の人々の温かさについて語りましたね。金正恩氏に対してはどんなメッセージを送りますか」と聞いたのだ。しかし、同時通訳の日本語では、この「温かさ」という部分はうまく訳されてはいなかったようで、日本語で聞いていて、質問の趣旨がわからない人が多かったのではないだろうか。

この質問に対して、トランプ氏は、すでに記したように、「北朝鮮の人々は、すばらしい人たちだ」「すべてがうまくいくことを望んでいる」と、エアフォース・ワンで語ったのと同じような言葉を繰り返したのだった。

「貿易問題」に比重を置くトランプ氏

安倍首相とトランプ氏の認識の微妙なずれは、会見の約3時間前の昼食会の冒頭から、見え隠れしていた。

11月6日正午過ぎの昼食会冒頭、安倍首相が、北朝鮮問題やほかの課題について率直に話し合いたいという意向を示したのに対し、トランプ氏は「われわれは、貿易問題について話し合う。われわれは、北朝鮮問題について話し合う。われわれは、軍について話し合う。私は、あなたがたが、米国製の軍の装備品やほかのものを購入してくれることに感謝している」と答えた。

安倍首相は、「北朝鮮」に重きを置いたのに対し、トランプ氏は「貿易問題」「北朝鮮」という順で話していた。

それは昼食会を終え、午後1時半過ぎに日米首脳会談が始まるときも同様だった。

安倍首相は会談の冒頭で、「先ほどのワーキングランチでは、北朝鮮問題を中心に国際的な課題について、大変深い議論ができたと思う。この首脳会談では引き続き、国際情勢、また経済問題、2国間関係について議論したい」と、北朝鮮問題を中心に言及した。

これに対し、トランプ氏は「(ワーキングランチは)本当にいいミーティングだった。(議論の)大半は、貿易、北朝鮮、その他の2、3の議題についても軽く触れられた。私たちは特に、貿易問題で、大変な進展が得られている。米国の赤字を小さくし、公正で対等な貿易を実現しようとする点で。この議論をまとめあげることを楽しみにしている」と、明らかに貿易に比重を置いた話をしたのだった。

安倍首相は北朝鮮問題を最重要視する姿勢を示しているのに対し、トランプ氏はむしろ貿易問題により重きを置いた話をしているのは明らかだった。

防衛装備品の多くを米国から購入

こんな微妙なずれが見えていた日米首脳会談とその後の共同記者会見にあって、両首脳がぴったり一致したのは、米国から日本が防衛装備品を購入する、という点だった。

11月6日の共同記者会見の最後に、ニューヨーク・タイムズの記者は、安倍首相への質問として、こう聞いた。「北海道上空を飛んだ北朝鮮のミサイルを日本が迎撃しなかったことに、トランプ大統領が失望していたという報道が出ていました。この話は首脳会談で出たのでしょうか」。

安倍首相への質問に割って入ったのは、トランプ氏だった。

トランプ氏は「首相が答えることの一部を、私が分担させてもらえるなら」と断ったうえで、「彼が米国からのたくさんの追加的軍事装備品の購入を完了させれば、彼は、空からミサイルを打ち落とすことができますよ。彼は、簡単にミサイルを打ち落とせるようになる」「非常に重要なのは、日本の首相がこれから、大量の米国の軍事装備品を購入していくということなのです」とまくしたて始めたのだった。

トランプ氏の言葉に、安倍首相も呼応した。「日本は防衛装備品の多くを米国から購入しています。われわれは日本の防衛力を質的量的に拡充していかなければならない。F35もそうですし、米国からさらに導入することになっています。イージス艦の質量を拡充していくうえで、米国から購入していくことになるんだろうと思います」。

北朝鮮問題では、トランプ氏は従来の過激な言い回しを控えた。それは11月8日の韓国の国会での演説でも同様だった。トランプ氏は北朝鮮に対し、「われわれを過小評価するな。われわれを試すな」と警告したものの、金正恩氏個人を呼び捨てにしたり、これまでのような個人攻撃したりすることは控えていた。

トランプ氏は今回の訪日直前から、これまで以上に北朝鮮との対話を模索し始めているように見える。そのなかで、安倍首相は北朝鮮問題を最重要視し、「北朝鮮への最大限の圧力」を強調していたが、トランプ氏はむしろ日米の貿易問題のほうを重視し、日本による軍事装備品の大量購入の言質を得たことを最大の成果だと思っているようだった。

そして、トランプ氏が、記者会見の最中に、用意された原稿から離れて、米国経済のほうが日本経済よりも上だと誇示するようなそぶりをみせたのも、両首脳の関係性を考えるうえで、印象的だった。

ゴルフや会食など「蜜月」ぶりが、大いに喧伝された今回のトランプ氏の訪日だったが、記者会見などでのトランプ氏の言動からは、別の側面が見えた興味深い訪問だった。

そして、トランプ氏がその後、11月8日から10日まで訪れた中国で、「中国を責めるつもりはない」と、中国の習近平国家主席に対して、きわめて丁寧な態度に終始したことにも、驚かされた。中国に同行していた米主要メディアの記者は11月9日、私に対し、「トランプ大統領が、習氏にあまりにもうやうやしい態度をとっていることに、米国人の同行記者たちはみんなショックを受けた」と話した。

トランプ氏がそれぞれの国でみせた態度の落差は、今後の日米関係や米中関係を暗示しているのだろうか。そんな懸念が頭をよぎった。