友野一希、近畿ブロックでのショートプログラムの演技。表情も大人びてきた

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グランプリシリーズも後半戦、年末の全日本選手権に向け、オリンピックの代表争いは佳境に入ってきた。女子が2枠を争うし烈な戦いになっている一方、男子は最大の3枠を確保している。羽生結弦、宇野昌磨の両名が有力視されているのはもちろんだが、残る3枠目が誰になるのか、まったく予測がつかない状態だ。今回は3枠目を争う選手達を中心に、日本シニア男子の選手をご紹介する。まずは今週のNHK杯に出場する2名を取り上げたい。

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■ 千載一遇のチャンス到来!大きなアピールを狙う!友野一希

今季からシニアに昇格した友野一希。昨シーズンは「ジュニアを引っ張りたい」との意欲的な発言が印象的だったが、今季は先輩達を追いかける立場に戻ることとなった。もっとも「その方がモチベーションを保ちやすい」と前向きに捉えているようだ。

夏場のローカル大会から先週の西日本選手権まで、3試合で彼の演技を取材したが、彼のスケートは昨シーズンよりも大幅に進化しているのが分かる。コミカルな表現力が魅力だったジュニア時代と比べ、体を大きく使った大人の滑りへと変貌を遂げている。スケーティングも一蹴りでの伸びが改善され、エッジが深くなっていることも見て取れる。明らかに上手になっているのに、なかなか試合本番でのジャンプが安定しない。本番で結果を出すまでの、あと少しの壁に直面しているようだ。友野選手自身は、メンタル面の問題が大きいと分析しているようだが、その改善策を「練習、そして試合での経験を積むこと」ことに求めている様子だ。そのためにも学生の試合など、全日本選手権前にいくつかの試合に出るプランがあるとのことだ。

今季、ショートプログラムで躓くことが、試合全体で苦労していることにつながっている面がある。4回転サルコウを組み入れたことが、思いの外、負担になっているようだ。

「フリーは後半で立て直せるんですけど、ショートは最初の4回転でミスしたら立て直せないんです」

とはいうものの、オリンピックを目指して戦う上では避けては通れない課題だ。そして今季のショートプログラム、バレエの要素も入っているのだが、これには昨年から取り組んでいるバレエのレッスンの成果が発揮されているようだ。

「柔らかい表現力を身に着けたいんです。ひとつひとつの動きが綺麗になるように、プログラムの表現がひとつにつながるように、と心掛けています」

今春、同志社大学に進学したことで、移動を含め、スケジュールはきつくなったとのことが、オフアイスでの練習も含め、充実した日々を送っているようだ。

今季、友野選手はオリンピックを目指すことを公言しながら、厳しいローテーションを強いられていた。U.S.インターナショナルの後は国際大会への派遣予定もなく、本来ならば西日本選手権の後は、学生の大会などで調整しながら全日本選手権を目指す予定だった。同じくオリンピックを目指すライバル達がグランプリシリーズでアピールをする機会を得ているのに比べ、不利な印象は否めなかった。しかし今週、本人も予期していなかったであろう急展開が訪れた。NHK杯への出場だ。棄権せざるを得なかった村上大介のことは実に残念なのだが、友野にとっては千載一遇のチャンスだ。「もう少し実力をつけて出たかった」との思いもあるようだが、常々、こういった大舞台に出られることに「不安よりも楽しみの方が大きい」と話している彼のことだ。「オリンピック争いにまだ加われていない」と焦りを見せていた彼だが、ようやく大きなアピールの場が与えられたのだ。地元、大阪の大舞台で、今度こそは練習の成果を発揮してくれることを願いたい。

■ 地元、盛岡に通年リンクを得て、オリンピック出場を目指す!佐藤洸彬

個性的な表現力が魅力の佐藤洸彬。グランプリシリーズ出場自体、今回のNHK杯が初めてだ。振付師、佐藤操の世界観を最も色鮮やかに表現できる選手の一人であり、ひとつひとつのプログラムが記憶に残るパフォーマンスとなる、稀有な存在と言えよう。昨年の全日本選手権ではフリーで痛恨のトラブル。ジャンプの着氷の際にエッジが靴カバーに引っかかり、気持ちを乱してしまい、ミスの多発につながったのだそうだ。実力的には四大陸選手権への派遣も狙える位置にいただけに残念な出来事だった。しかし今季はより高い目標を目指し、成長した姿を我々に見せてくれそうだ。地元、盛岡に完成した通年リンクでの練習の成果は大きく、4回転ジャンプも試合で計算できる要素になりつつある。昨年の12月、初めて4回転トウループの着氷に成功。今年の1月頃からはコンスタントに跳べるようになったという。

今季、ロンバルディア杯から始動した佐藤洸彬だが、そこでは沢山の課題が出る結果となってしまった。もっともそれを直すことでNHK杯への対策を進めてきたようで、現在は悪くない準備ができている様子だ。特にステップの正確さ、滑らかさについては修正が進んでいるとのことだ。

「NHK杯、全日本と続けていい演技をして、オリンピックの3枠目に届く演技をしたいんです。そのためには、本番で4回転を成功させること、自分の長所を発揮した演技をすることが必要だと感じています」

練習ではできているものが、試合本番では失敗してしまう。彼に限らず、3枠目を狙う男子選手達が皆、抱えている共通の課題だ。言い換えれば、この課題を克服できた選手が3枠目を手中に入れることになるのだろう。

今季、彼は新しいショートプログラムを用意していたのだが、オリンピック出場を見据え、滑り慣れた“トーテム”に戻した。

「トーテムは2シーズン目ですが、リファインしてお客さんに楽しんでもらえるものになったと思います」

とはいうものの、実は新プログラムとして用意していた、ロカビリーの音楽を使ったものも素晴らしい出来映えだった。いつか再び披露してくれることを期待したい。

来季は岩手大学の大学院に進み、競技を続けるとのこと。その先のことは「2年後に決めたい」というが、教員免許も取っており、インストラクターの道に進むこととの両方を将来の選択肢として考えていくそうだ。

「初出場のNHK杯、楽しみたい。そのためには楽しめるだけの演技をしなければならないと思います。ショート、フリー、どちらとも本番でジャンプを成功すること。東日本選手権ではジャンプ以外のエレメンツでもいい評価をもらったので、それを継続しつつもっと加点をもらうこと。PCSでもより良い評価を得ることを心掛けます。オリンピック3枠目に手が届く演技をしたい」

彼以外にも、田中刑事、村上大介、友野一希、無良崇人、さらには西日本選手権で素晴らしい演技を披露した日野龍樹など、3枠目を争う選手は数多い。混戦を誰が抜け出すのか、それを占う意味でもNHK杯はとても重要な大会になることだろう。

【東海ウォーカー】