『東大から刑務所へ』(堀江貴文、井川意高/幻冬社)

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 2011年11月、特別背任で逮捕された「カジノで106億8000万円熔かした男」大王製紙元会長・井川意高と、逮捕から早11年の堀江貴文。『東大から刑務所へ』(堀江貴文、井川意高/幻冬社)は、「東大」「経営者」「刑務所」という3つの共通点を持つ2人による対談本だ。

 片や大企業創業者一族のサラブレッド、片や当時33歳で日本中の注目の的となっていた天才経営者。

 そんな桁外れの2人の「刑務所本」だから、刑務所本でお約束の「逮捕された経緯」「刑務所ルール」そして「ムショ飯」といった鉄板トークを押さえつつ「もしも知り合いの社長が捕まったらどうフォローするか」のハウツーもしっかり詰まっている。

 例えば。

「Q.知り合いの社長が緊急逮捕で東京拘置所へ収監。まず一番必要としているのは何?」

 本、日用品、弁当、お菓子…最近じゃWeb記事のコピーなんかも喜ばれると聞く。でも正解は「フカフカの座布団」だ。

 井川が東京拘置所に収監された際、拘置所の床が硬く、座っていると尻が痛くなることを知っていた堀江はすぐさま座布団を差し入れた。特に季節が冬場だと、時間帯によっては暖房が切られているので、綿入り半纏がありがたがられたりと、暖がとれるものが非常に喜ばれる。

 しかしこれは、服装が自由な拘置所での話。刑務所で服役囚となったらそうはいかないようだ。

 また、生花も殺風景な拘置所では喜ばれるようだ。堀江の逮捕時にはムショの大先輩であるK-1の“館長”として知られた石井和義氏から花の差し入れがあり、花があるだけで「心がパーっと明るくなった」と語っている。“人間がいかに孤独かわかっている上級者”だからこそ為せる業と言う堀江の言葉には、ムショ経験者ならではの重みがあると言えよう。

 また、「Q.めちゃくちゃ親しい訳ではないけど面会に行ってもいいの?」という疑問。

 こういうシチュエーションは知人の入院などでも行っていいものか控えるべきか悩まされるが逮捕となるとどうなのか。

 2人によると「俺、(世間騒がせている)@@@に会いに行ったんだよ」と後で話のネタにするタイプ、そしてここでポイント稼がないと! とばかりに面会に来る恩着せがましいタイプは速攻でわかるという。特に前者の「ムショいじり」してくるタイプへの嫌悪感はあるようだ。

 やっぱりある程度の関係がないと見舞い同様、しゃしゃり出るのは厳しいようだ。ただし、面会が許可された人間との接触は忘れられない時間となるのも事実。

 また、センスの問われる「出所パーティーに使う店の選び方」なども参考になるかもしれない。堀江の場合、出所早々にマクドナルドのてりたまセットを食べたことがニュースになったが、あれは刑務所で味の濃い食事に飢えていたからとのこと。大人数でパーティーとなった時はここぞとばかりに最高級の焼肉屋や寿司屋を仕込みたくなるが、会話をしたいという欲が勝り、喋るのに忙しいそうなので、もちろん仕込んでマイナスになることはないが、ほとんど食べる時間がないという。また、この本では「出所祝いの二次会のカラオケ」というフレーズがごく自然に出てくるあたりに、社長という生き物の生々しい生態を見受ける事が出来る。

 また、この本を読んだ以上放っておけなくなるのは井川意高が持つスター性だ。

 英才教育を受けた大企業創業家のサラブレッドであり、社長・会長就任、赤字の子会社の立て直し、夜の帝王、カジノ、逮捕…とエピソードに事欠かない。また、見た目に気を遣っていて実年齢の53歳よりも若く見えるにもかかわらず、語尾が「ですな」なのも浮世離れした育ちの良さを感じられて可愛い。(気になって井川意高の動画を漁ったら、一人称が「わし」で最高だった。)さらに刑務所で10キロ以上のダイエットに成功し、最近も女の子の前でいつでも水着になれるように鍛えているそうだ。そんな女の子好きなところも井川のキャラクターをますます魅力的にしている。

 もし『BAZOOKA!!!』(BSスカパー!)で井川意高スペシャルをやったら間違いなく濃い内容になるし、『ジョブチューン』(TBS)のひな壇に座り、創業者一族ならではのエピソードをぶっちゃける井川意高も魅力的だ。また教養もあるので、林修先生のように活躍できるんじゃないだろうか。『井川意高の初耳学』。ありかもしれない(奇しくも林先生もギャンブル好きだ)。素材はバッチリなので、サービス精神に磨きがかかってテレビ慣れしていけばバラエティで天下を獲れる日が来るかもわからない。そんな夢が広がる。

 刑務所経験者の2人に言わせると、人は「拘置所が合うタイプ」と「刑務所が合うタイプ」の2つに分かれるそうだ。人と喋るのが好きで、たとえムショ限定の人間関係であったとしても“くだらない愚痴を言い合えない程辛いものはない”と話すホリエモンは「みんなでワイワイ作業が出来る『拘置所派』」。ギャンブラーなだけあり孤独に強い井川意高は「独居房でひとり本を読みふける事が出来る『刑務所派』」なのだとか。

 「拘置所派」「刑務所派」とタイプの違うホリエモンと井川意高。そんな2人が東大でもビジネスでも、そして刑務所でも、どこにおいても共通しているのは「負けてないように見える」こと。(正しくは「…と見せかけて結果勝つ」)カロリーコントロールのされた健康的なムショ飯で獄中ダイエットができた、人は誰しも人生のどこかで垢を落とさなければならないが自分は刑務所で垢落としが出来た、なんて話す言葉の数々は決して負け惜しみではない。事実、刑務所に入るって大ごとだけど、なんとなくこの2人は悲惨な事になっていないように見える。どのような形であれ、“結果、負けないこと”は人生で勝ち続けてきた経営者たちの絶対の掟なんだろうなと。そんな印象を受けた。

文=宗像町昌